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非日常が俺に日常を送らせてくれない(旧題:ノン・デイリィ)  作者: イザベルやん
非日常二日目「死ねない少女」
2/6

オカルト部

途中で思い付きで変更したりしているので変なところがあります(多分

例)鋏→カッター

 翌日、というか、三碓の死体を見てから十時間後の、午前十一時。


「この緑茶、私、とても好きなのよね。お菓子によく合うと思わない?」


 俺の対面に座る三碓は、緑茶をすすりながら、言った。

 やはり、おしゃれな服装をしている。


「……まあ、確かにおいしいな」


 紅茶をすすりながら、俺が言った。

 三碓の服装と自分のそれを比べてみる。

 俺は、相変わらずのウニクロだった。


 少しだけ、気恥ずかしい。


「本当は煎餅があるといいのだけれどね。たまにはショートケーキというのも、なかなかどうして、捨てたものじゃないわ」

「そ、そうか……?」


 適当に相槌を打ちながら、俺は今朝までのことを思い出す。


 昨夜、俺はあの場から逃げた。逃げて逃げて、家まで逃げた。妹から何か言われた気もしたけれど、俺はそれを無視して、震えながら頭からベッドに潜った。怖かったのだ。


 そして、今朝のことである。いつのまにか眠っていた俺は、妹にたたき起こされた。どうやら、三碓から、家に電話がかかってきたとのことだった。曰く、「鬼ノ寺集君にお伝えください。駅の近くにある喫茶店で待ってるわね、と」なんて言い残して、切られたらしい。

 ちなみに、妹には腹パンで起こされた。

 くすぐってくれてもいいと思うのだけれど。


「そういや、なんで俺の家の電話番号がわかったんだよ?」


 教えた覚えはない。


「それくらい、考えなくてもわかるわよ? 鬼ノ寺君って相当な馬鹿ね……」

「あ、もういいわ……けなされてまで聞きたくねえよ……」

「クラスの連絡網で調べたのよ」


 教えてくれた。


「な、などほど」

「意外ね……今のでわかるだなんて、あなた、実は天才じゃないかしら」

「そんな遠回しに馬鹿っていわなくてもいいだろ!」

「よく気づいたわね、その通りよ」

「開き直った!?」


 連絡網には、クラスメイトと先生の連絡先が書かれているし、わからないやつはいないだろうよ……。


「というか、なんか教室にいる時と、ずいぶん雰囲気が違うのな」


 教室では、三碓は物静かな感じだった。少なくとも、こうして人をからかうような、そんな女の子では

なかったように思う。


「ああ、それは、ああして一人でいたほうが、何かと都合がいいのよ」

「都合がいい?」

「ええ。秘密がばれないようにするには、人とあまり関わらないのは何かと便利だもの」


 まあ、確かに人と関わることで自分に都合の悪いことをさらっと言ってしまうときだとか、スマートフォンをいじっているときに横から画面を見られることだとか、そういうことは確かにある。実際、やりそうに、あるいは、やられそうになったまである。ただ、この場合は、


「……秘密ってのは、昨日の奴と関係があるのか?」

「まあ、ね」


 三碓はお茶をすすり、続ける。そして、


「いろいろと学校で騒がれると迷惑だから、一応説明しておくけれど。まず、私は不死身なのよ」

「……ごめん、今なんて?」

「だから、私は死なないの。心臓がつぶされても、首がもげても、内蔵を引っ張り出されても、頭がつぶされても、死なない体なのよ。傷は一瞬で治るし、病気にだってかからないわ」

「…………」


 突然の告白に、俺は唖然とする。昔、小学生だった妹から、突然、『私、魔法少女なの☆』なんて言われた時のことを思い出した。


「見てなさい」


 俺は呆れたような顔をしていただろうか。三碓は俺を見て、ため息を一つ吐く。そして、徐に小型のカッターナイフを取り出した。


「?」


 何をするのかとその様子を見ていると、不意に、三碓は左の掌を下に向けるようにして突き出し、カッターナイフを持った右手を振り上げる。


「おい、まさか……やめ――――」


 止めるも、間に合わず。三碓は自らの左手の甲に向かって、カッターナイフを振り下ろした。


「やっぱり、痛いわね」


 カッターナイフは彼女の左手に突き刺さる。赤い粘液が、プツプツとあふれ出てきた。

 三碓は平然そうな顔をしているけれど、その様子は、とても痛々しい。


「ばっ……馬鹿! 何してんだ!」


 慌てて、俺はハンカチを取り出そうとするが、


「大丈夫よ」


 三碓に制された。

 彼女はカッターナイフを左手から抜き、刃先と左手をハンカチで拭う。

 ハンカチは、赤く染められた。


「だ、大丈夫なわけないだろ! 早く手当を……」

「見なさい」


 そう言って、彼女は左手の甲をこちらに向ける。

 そこには、傷一つない、綺麗な手の甲があるだけだった。


「……まじかよ」


 そこにあるはずのもの、なくてはないものが、なかった。

 傷が、なかった。


「ちなみに、手品じゃないわよ。これも本物だし」


 そう言って、三碓は備え付けの紙フキンを一枚とって、カッターナイフで切って見せる。どうやら、本当のようだ。それに、彼女が嘘をついている様子もない。


「…………」


 しばらく見ていたら、鳥のようなペーパーアートが出来上がった。

器用なやつだ。


「それで、理解はしてもらえたかしら」


 紙フキンだったものをじっと見ていたら、催促するように三碓から声がかかる。

 カッターは、いつのまにか彼女の手元からなくなっていた。


「えーっと……まだ混乱してはいるけれど、まあ、とりあえずは納得した」

「あまり驚かないのね」

「驚いてるよ。驚いてるけど、現実感が沸かないというかなんというか……それに、目の前で実演させられたらな。昨日だって――」


 いいながら、昨夜の光景を思い浮かべたところで、若干の吐き気を覚えた。あわてて、俺は逆流しかけた内容物を、紅茶で押し戻す。


「……ああ、私、昨日はこっぴどくやられていたものね。あれは痛かったわ」


 昨日のことを思い出したのか、三碓は自分の腹をさする。


「あれ、痛いですむのかよ」

「ええ、まあ。やられた直後はさすがに痛いわよ。気を失うくらいには、ね」

「そ、そうか……ってか、なんであんなことになってたんだ?」


 どう考えても、普通、腹をえぐりだされるような状況には、ならないと思うのだけれど。


「普通に通り魔に刺されたのよ」

「それは決して普通じゃない!」


 殺人事件を普通と称するこいつの精神は、どうなっているのだろうか。


「……警察には言ったのか?」

「言ったとして、どう説明するのよ。『私、通り魔に刺されました。調査お願いします』なんて言ったところで、私は怪我一つ負っていないのだから、変人扱いされるのがオチよ」


「そ、それもそうか」


 絶対に死なない体。それは便利なようで、不便なところもあるらしい。


「いつも教室に一人でいるのは、そういうことか」

「え?」

「ちょっとした事故とかでできた怪我が瞬時に治ってたら、間違いなく騒がれるから、人とあまり関わらないようにしているんだろ?」

「ああ、まあ、そんなところよ。私は普通に生活が送りたいの」


 おそらく、異常なほどにベランダ側の席を嫌がったり、水泳をしたがらなかったりするのは、それが理由だろう。高所から落ちて無傷だったりしたら、騒ぎになることは間違いないだろうから。


「普通に、ね」

「ええ。こんな力、無い方がずっといいわ。この力のせいで、当たり前にできることができないし、やりたいこともできやしない。よく不死身になれたらなんて聞くことがあるけれど、現実はそんなものなのよ」

「そんなものなのかね」


 例えば、おまえに不死身の力を与えよう、とかなんとかいわれて、実際に不死身になったら、なんてことを、ふと、考えた。


「…………」


 別に、嬉しくなかった。というか、迷惑だ。


「まあ、私はそんなことを話しにあなたを呼んだのではないわ」

「ん?」


 ありえもしない妄想をしていると、三碓が話を切り出した。


「私があなたを呼んだのは、このことを黙っていてもらうためよ」

「あー……まあ、いいぞ」


 普通の生活を望む彼女にとって、不死身なんてことが周りにばれれば、確かに、色々と不都合が生じるだろう。それこそ、ニュースになったり、なにかの物語がごとく、どこかの組織に拘束されてしまうかもしれない。

 そんなことをされれば、普通の生活など、夢のまた夢だ。


「……そんなにあっさりと了承されると、むしろ信じられないのだけれど」

「疑うなよ……それに、俺が『三碓は不死身なんだぜー。怪我だって一瞬で治ってるの、俺見たんだぜー(棒)』なんて言ったところで、信じられるわけがないだろうが」


 そもそも、そんなことを言う相手もいないわけだが。


「まあ、ね。馬鹿そうな顔と根暗っぽい目をしているくせに、言うことは意外とまともね」

ほっとけ。こちとら、十年以上の付き合いだ。

「……はあ、まあ、いいわ、信じてあげる。あなたの言う通り、言ったところで信じられるような話でもないわけだしね」

「おう、ぜひそうしてくれ。俺も、普通至上主義だからな。非現実的なことに付き合うのはごめんだ」

「あら、それはごめんなさいね、関わってしまって。それじゃあ、学校でも、話しかけない方がいいかしら」

「まあ、そこらへんはお前の自由だし、俺に何かいう権利はないけど……ただ、一つ助言というか、提案があるんだが」


「……なによ?」


 俺は机の上に置いてある鳥型のペーパーアートを手に取り、続ける。


「普通の生活を送る手助けくらいは、できるかもしれない」

「……どういうこと?」


 三碓は訝し気な目で、問う。


「どういうって、言葉通りの意味だ。普通に友達を作って、運動して、勉強して、生活する。その手助けをできるかもしれないってな」

「……馬鹿にしているのかしら。私だって、普通の生活を送る努力はしたわ。でも、それにはどうしてもリスクが出てきてしまう。そうでなければ、こんなに悩んだりしない。たった今、私の体質を知った程度のあなたに、知ったような口を利かれるのは、不愉快よ」


 彼女は眉間にしわを寄せて、不機嫌を隠す様子もなく、言う。

 まあ、そりゃあそうだろう。俺だって、頑張っているところに「頑張ってね」「応援してるからね」とか何とか言われたら、ウザイと思うし、「わかる、わかるよ」なんて、中身のない理解をされてもストレスがたまるだけだ。


「まあ、話を聞くかどうかはこれを見てからにしてくれ」


 俺は手にもった鳥型のペーパーアートを、ぽんっと軽く上に投げる。


「――え?」


 そのペーパーアートは、机の上には落ちなかった。

 別に、俺の手のひらに再び戻ってきただとか、三碓が掴んだだとか、そういうわけでもない。


「あなた、それ、どういうことよ?」


 ペーパーアートは、その場で、浮いていた。

 糸や静電気みたいな仕掛けもなく。

 宙に、浮いていたのである。



◆◇◆



 俺が能力と言っていいのかわからないほど弱い能力、軽いものを宙に浮かす程度の能力を身に着けた、もとい、能力が身についてしまったのは、割と最近のことだ。

今からおよそ三か月前、冬休みに、とある少女と出会ったのがきっかけだった。


 自称、神様、らしい。ただ、それは本当ではなく、三碓と同類の、能力者だったわけなのだけれど。

まあ、その時、俺は漫画の主人公がごとく活躍をした、とまではいかないけれど、非日常な日々を送っていたのは、間違いないと思う。

そのきっかけというか、原因というか、機会を作ったのが、うちの高校のオカルト部の部長だった。


「オカルト部の部長の二年生、いや、来年度から三年生になる、杉ヶ町ナルミね」


 三碓が言った。


「知ってるのか?」


 俺が言った。


「ええ。私も詳しくは知らないけれど、オカルト部というのも正式に存在する部活じゃないらしいわね。自分でそう言っているから、そういう通りなのようなものができたとの話だったけれど。なんでも、学校の壁に穴をあけたり、教室にミステリーサークルのようなものを作ったりと、変人で有名よ。うちのクラスの男子の話じゃ、見た目はいいのに、残念美人だとかなんとか」


「あー……そうらしいな」


 俺は反射的に目を泳がせる。やっているところを見たことがある気がしなくもない。

 手伝ったことがあるもする。というか、手伝った。机、並べたわ。


「それで? そのオカルト部の部長は何者なのかしら」


 俺の心の動揺に気付いていないのか、無視しているのか、三碓は淡々と聞いてくる。


「それは俺にもわからない。わかるのは、お前や俺みたいな不思議な力をもってるやつについての知識があるってことくらいだ」

「ふーん。私はそんな変人のところに連れていかれて、何をされてしまうのかしらね。具体的には、どこの誰ともわからない人のナニを、私のナニに、突っ込まれてしまうのかしら」

「生々しいのはやめろ!?」


 俺と三碓は、今、電車と徒歩で三〇分ほどかけて、うちの高校までやってきている。

 そこまで広くない校庭を、サッカー部と陸上部が半々でわけて練習をしていたり、体育館からキュッキュ、ダムダムといった、バスケットボール部が活動している音が響いてきたりと、春季休業中でも部活動は行われていた。


 当然、とはいえないけれど、オカルト部も、他の部活と同様に、今日も活動しているのを、俺は知っている。

 というか、俺自身、今日、午後に呼ばれていた。

 なぜかと言えば、今朝、三碓から電話があった後、来るように言われたからだ。

 部活をやるから、幽霊部員の君もおいで、と。


「いや、ここは学校だぞ? そんなこと、あるわけないだろ」

「そうかしら? 例えば、同じクラスでバスケ部の田中君なんて、部室でマネージャーとそういうことをしていたなんて話はあるわよ?」

「そういうことってなんだよ、そういうことって」

「それはもちろん、SOXに決まってるじゃない」

「それはソックスのことをいってるんだよな。間違っても、セから入る言葉じゃないよな」

「そんなの、当然じゃないの。鬼ノ寺君って、えっちなのね」


 男子高校生の脳みその六割は、エッチなことで埋まっていると思うけど。

 俺だって多分そんな感じだ。


「そうだよな。安心した――」

「セ〇クスよ」

「言い切った!?」


 こいつには羞恥心というものがないのだろうか。

 というより、田中君、まじかよ。


「……まあ、なにはともあれ、ナルミ先輩が変なことをしようとしても、俺が止めるから、ひとまずはそれで納得してくれ」

「仕方ないわね」


 そんなこんなで、オカルト部の部室の前へとやってきた。

 ここは、前は多目的教室として使われていたようだけれど、何に使えばいいのかわからない多目的という名の普通の教室は、ついに、どの授業でも使われなくなっていた。


 つまり、多目的とは名ばかりの、ただの空き教室だったところを、オカルト部の部室としてナルミ先輩が(勝手に)使い始めたらしい。

 だから、三碓が言っていた、オカルト部というのは正式に存在する部ではない、というのは、三か月前までの話で、三学期から、俺と杉ヶ町先輩、それに、もう一人の幽霊部員を加えた三人で創立されている。

 それでも、部活ではなく、同好会、という形なので、三碓が言っていたのも別に間違いではない。部活、ではないし。


「失礼しまーす」


 言いながら、俺が教室の扉をがらがらと開けると、独特の埃臭さを感じた。

 教室には電気がついておらず、黒いカーテンが外からの光を遮断しているので、教室は真っ暗だった。


「ナルミ先輩、いないんですかー」


 俺は一歩進んで、教室に入ってみる。

 やはり、暗くて見えない。

ひとまず、近くにあったスイッチを押し、電気をつける。


 最初に目に入ったのは、教室の床に大きく書かれた魔法陣のようなもの。また、窓際に並べられている机には、何に使うかわからない水晶や、怪しげな本、はたまた、不気味な植物の鉢植えが置かれていた。


「うぉぅ!? ま、まぶしいっ!」


 教室の後ろの方から、声が聞こえた。


 そこにいたのは、黒魔導士という名がふさわしい格好をした、杉ヶ町ナルミ先輩だった。

 黒く大きなとんがり帽子、黒いコート、黒い眼帯。

 その下には制服を着ているようだけれど、制服も黒を基調としたものだし、スカートの下も黒の二―ソを履いているようなので、全身真っ黒と言って差し支えないだろう。ただ、背が小さいためか、中学生がコスプレをしているように見える。

 まあ、一言でいうなら。

 背の小さな変人がいた。


「ナルミ先輩、今度はなにしてるんですか……」


 とりあえず、呼びかけてみた。

 すると、杉ヶ町先輩は眉間にしわを寄せながら、薄目でこちらを見る。別に、目が悪いだとか、そういう話は聞いたことがないので、普通にまぶしいだけだろう。


「んー……? おお! 鬼ノ寺クンじゃないか! ようやっときてくれたのだね! いやぁ、私はこの時を五年、いや、五万光年待ちわびでいたよ!」

「ナルミ先輩、それ、距離の単位です……そうじゃなくても、五年前って、そもそも出会ってすらないです」

「あちゃー! 私としたことが!」


 先輩はしてやられたといったように、ぺちんと自らの頭を叩いた。


「……なに漫才やってるのよ」


 後ろから、三碓が冷静なツッコミをいただいた。

 それを見て、いや、聞いて、ナルミ先輩は、俺の後ろをのぞき込むように見る。


「んんー? 鬼ノ寺クン、その子は誰だい? やや! もしかして、こんな場所に連れ込んで、人体実験でもするつもり!? おねーさん、それはさすがに許容できないぞ!」


 三碓の存在に気が付いたらしいナルミ先輩は、ビシィっとこちらを指さす。おねーさん、というところで、若干、無い胸を張ったような気がしなくもない。


「そんなつもりはないですって……ナルミ先輩、こいつは俺の同級生の三碓三鈴っていいます。三碓、この人が杉ヶ町ナルミ先輩だ」

「初めまして。鬼ノ寺君のクラスメイトの三碓三鈴です」


 俺の横へと出てきた三碓は、そう言って、ぺこりと頭を下げる。


「むむ。根暗な君の知り合いにしては、礼儀がなっているじゃあないか。ああ、失礼、鬼ノ寺クンが言ったように、私が杉ヶ町ナルミだ。親しみを込めて、ナルミ先輩と呼んでおくれ。ああ、それと、鬼ノ寺クンには前に言ったけれど、私に対して敬語はいらないよ」


 ナルミ先輩は、どこかのご令嬢かといった具合に、片手で帽子を取って、ローブをつまみ、丁寧なお辞儀をした。

 根暗は余計だ。


「わかりまし――わかったわ、ナルミ先輩」


 三碓がそう返事をする。俺は最初に敬語を使っていた名残で今も使っているけれど、先輩とため口を聞ける当たり、三碓の肝は座っているように思う。

それにしても、驚いた。まさか、あの、変人で、マイペースで、やることなすことオカルト染みているナルミ先輩が、こんな丁寧な態度をとるなんて。


「何を意外そうな顔をしているんだい、鬼ノ寺クン。私だって、礼には礼を尽くすことができるんだよ? まあ、普段はふざけた態度をとっているようにも見えるかもしれないけれど、初対面の人間やお客さん相手なら、私は結構誠実であるつもりさ。まあ、鬼ノ寺クンの場合は、出会い方が出会い方だったから、仕方ないと言えるだろうけれどね」

「…………」


 ナルミ先輩と俺の出会いは、殺し合いというか、殺され殺す関係だった。俺が殺される側で、ナルミ先輩が、俺を殺す側だった。まあ、正確には、俺はとある少女とナルミ先輩の戦闘に巻き込まれて、殺されかけた、というのが正しいのだけれど。


「それで? 鬼ノ寺クンは私にガールフレンドを自慢しに来たのかい? それだったら、私は君に対しておめでとうの一言でもいったほうがいいのかな?」


 ナルミ先輩は、近くにあった、回転式の椅子に腰かけ、言う。

 そのまま、ぐるぐると回り始めた。


「いや、彼女とはただのクラスメイトで、別に、彼氏彼女とか、そういうわけじゃないです。昨日今日で知り合いになったくらいですし」


 ここで、三碓からもフォローが入る。 


「そうですよ。私みたいな美少女と、鬼ノ寺君みたいな根暗野郎が釣り合うわけないじゃないですか」

「…………」


 訂正。攻撃と若干のフォローが入った。


「ふむふむ、そうなんだね。まあ、私としても、そちらのほうが助かるわけなのだけれどね」


 くるくるくるくる。

 ナルミ先輩が回る。


「助かる?」


 俺が聞く。


「ああ。鬼ノ寺クンにガールフレンドができるのは、私にとっては、少しだけ、困ってしまうのさ。なにせ、君にガールフレンドなんてできてしまえば、オカルト部の招集だって、来てくれなくなってしまうかもしれないじゃあないか」

「それはそうかもしれませんけど……ああ、招集といえば、今日はなんで俺を呼んでたんですか?」


 そういえば、今日、俺はナルミ先輩に呼ばれてここにきた。正直、三碓をナルミ先輩に合わせるためにここに来た、という意識の方が強かったので、呼ばれたことはあまり深く考えてはいなかった。


「ん? ああ、別に、大したことじゃないよ。君たち、というより、多分、三碓ちゃんの要件に比べれば、本当に、きっと、大したことじゃないのさ」


「「?」」


 俺と三碓は、首を傾げる。まだ、俺が三碓を連れてきた理由は言っていない。それを、ナルミ先輩は、重要な案件のように語ったのである。


そんな俺と三碓をみて、ナルミ先輩は意地悪そうな笑みを浮かべ、口を開く。


「だって、三碓ちゃんさ。世にも珍しい、不死の能力者だろう?」



第一話のようなものを呼んでいただき、ありがとうございます。感想やブクマ等をすると、もれなく私が悦びます。

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