三日目 希望を
足を前に出すたび、ズギズキ痛む。その痛みは、痛いだけでなく痛みによってここにまだ自分はいるという確信を持つことができた。まだ、ここに自分は生きている。まだ、やることがあるのだと自分に言い聞かせ、足を前に、前に出す。一歩一歩、確かに前に出している。だが、下を向いている顔を前に向けるとまだ先が果てしなく感じてしまう。
息なんてとっくに切れている。でも、意識は切れていない。意識だけでも保っていればなんとかなる。そんな確信がある。根性論かもししれない。それでも信じたくなるのは人柄か極限状況による救いの求めか。
まだ、まだ足を前に出して歩く。
やっとの思いでトンネル前にたどり着く。トンネルは暗く、先が見えなかった。当たり前のことだが、それがとても大きな壁に見えた。
僕「ここ、で一服しよう」
トンネルの壁まで行き、リュックを下ろししゃがみ込む。リュックを開けて、八ッ橋ともしものためにと母から渡されていた懐中電灯とお茶...もとい緑茶を出す。この際だ、苦手なものだろうが口に含む。
味なんてよくわからなかった。そのおかげか、緑茶をゴクゴク飲めてしまった。
足の布を見ると、真っ赤に染まりきっている。
布を解き、傷口を確認する。
まだまだ、血が流れていて止まる気配はない。
手持ちには、変えの布がないため一度絞ってからまた縛り、立ち上がる。
軽く、ノビをして懐中電灯に灯をともしトンネルの奥深くへと足を踏み入れる。
しばらく歩くと、地面が揺れだした。
僕「うわっ、またか...揺れてるから地震確定かも。下手したらいちごは関係ないかもしれない」
わかりきったことを口に出した瞬間、後ろから大きな音がする。それと同時に、光が失われていく。崩れる音。大体の予想はつく。ああ、トンネルの入り口が崩れたのだと。でも、振り向かずにはいられなかった。
僕「もう、後戻りできないな」
思わず漏れ出す、弱音。
「誰ですか?」
トンネルの奥から声がした。
僕「五十嵐天都ここに修学旅行で来ていた高校生です」
自分の名前を口に出す。
「なんだ、五十嵐君かよく来れたね」
懐中電灯を声の方向へ向ける。そこにいたのは。
土佐犬「まぶしっ、やめなさい」
両手でガードするかのようなポーズをしている土佐犬…もとい近藤敦美先生。
もとい、英語教師。この状況で一番会いたく無い相手でもあるが、日々自分のことをしっかりやっている人だ。この状況を良い方向に持っていける案でも出してくれると良いのだが。
五十嵐「近藤先生はどうしてここに?」
近藤「地面のあるひらけた場所に行って救助でも呼ぼうかと思って」
やっぱり何か考えていた。
近藤「でも、トンネルが崩れて後戻りできなくなった以上この選択も正しいとは言えなくなったの」
確かに、救助が来るとしても新幹線が止まっている場所が橋の上。トンネルが崩れた以上、上空からの救助か遠い反対側から移動してこなくてはならない。
五十嵐「そうですね。確かに、正しいとは言えなくなりました。ですが、今この非常時にどれが正しいなんてわかる人は100%全てを把握した人のみ、そんな人どこにもいません。なので、先生の行いは間違いとは言えません」
こんな時にでも、元気付けることができるんだな。多分、この先もっと大変なことがあるだろうからそのために、先生と俺を元気付けるつもりなのだろうか。なぜだろう、人事に感じる。
五十嵐「そうね、ありがとう。でも、それって正しいとも言えないんじゃなくて?」
この人、ここでも痛いところを突いてくる。なんて人だ。でも...
五十嵐「確かに...そうですね。はははっ」
つい、笑みがこぼれる。多分、いつもの癖。目上に対して媚を売るような笑い。嫌いだ。
近藤「そうだよ。あはははっ」
先生も笑った。これが、表面上だけの笑顔だとしても僕は良かった。それで良かった。
笑う事で、少しでも気分が変われば。それで良かった。多分、僕は気分を変えたかったんだろう。そうだなぁ、心の底から笑うのはこの状況を打破できたときにでも。存分に笑おう。
そして、泣こう。
そのためには、まずいちごを見つけなければ。
いちごに問えばわかる気がする。
今回の一件の真相が。
遅くなってすいません。
今日用事?イベント?行事?みたいなのに参加しまして、人生の先輩に彼女を作りなよと言われました雪水湧多です。今回は、久しぶりの土佐犬。
主人公に大きく関わる人の一人だと思っています。いわゆるキーキャラ。
次回もしっかり忘れずに投稿したいです。




