愛する物語
私はね 貴方を愛していたのよ
ふふ もう遅いけどね
これだけは知って欲しかったの
私は 貴方を裏切っていないという事を
でも 貴方には届かないわね
だって この場にいないもの
これは 私の独り言
私が貴方に贈る 懺悔の言葉
あの日 貴方に出会って恋に落ちたわ
貴方はとっても優しい人だった
だからこそ 私を気にしてくれた
私はね 其処で分かったの
私は 生きていたら迷惑をかけるだけなんだって
だからこそ 貴方を 『貴三』の御曹司の誘拐を企てる奴らを許せなかったの
だから 私は人質になったの
金目当てだと言い あいつらを信用させたわ
そして 屋敷に火をつけた
あらゆる所に鍵をかけ 決して出れなくしたわ
勿論 外からも入れない
私も此処で死ぬの 存在している価値無い私なんて要らないでしょう
苦しいわ 息が出来なくなってきた
ああ 幻覚が見えてきた
貴方の幻覚が見えてしまうなんて
私は なんて 諦めが悪いのかしら
貴方が私を助けてくれるなんて
そんな事はぜったい無いのに
【今日のニュースです。〜にある屋敷に火がつけられました。この屋敷で、30人以上の重傷者が出ました。その人物は、貴三の御曹司を誘拐しようとしていた事が、判明しました。そして、その誘拐を食い止めるために、婚約者が命をかけて、火をつけたそうです。そして、その二人は、仲良く暮らしたそうですよ。良かったですね。私達と違って・・・・・】
「お願いだ!目を覚ましてくれ!」
機械に囲まれた婚約者に、 声を掛け続ける男性。
彼は、婚約者が隠していた日記を見てしまった。
其処に書かれていたのは、物語仕立てに書かれた、彼も知らなかった、『貴三』の跡取り息子の誘拐。
勿論、貴三側も知らなかった。知らないからこそ、彼女が姿を消した時、慌てなかった。
先方の家が、彼女を呼んだのだとのだと思っていたのだ。
彼は日記を見た後、勿論、貴三に日記を提出した。彼女は貴三が望んでいたからである。
貴三は、彼女の家に向かった。そして、彼女の家『美方』の面々は言った。
「あの子が居なくて、何の問題があります?」「丁度良いですわ!あれを追い出しましょう」「そうだな。あれはうちの人間では無い」「ですから、この婚約は破棄致しましょう」「丁度良いですわ。あれより、私と婚約しませんか?」
貴三は、怒り狂った。彼とその親であり現当主夫妻以下、親戚全員が。
勿論、やんごとなきお方である彼らは、直接乗り込んでいない。いや、彼は乗り込もうとしたのだが、全員に止められたのだ。だからこそ、秘書を送り出し集音器で話を聞いていたのだ。
その結果が、これである。全員が血が滲み出るほど、手を握り締めている。
「其方とは、もう関係が無い。彼女は、三貴の養女にする」
当主の一言で美方の運命は決まった。貴一族を敵に回した一族は、誰にも相手はされないだろう。
そして、彼女の行方を捜した。普通であれば、すぐに見つかる筈なのに、中々見つからなかった。
しかし、何とか見つかった。
日記のように
焼けそうになった、屋敷の中から。
彼は、後悔した。
何故、彼女を助けなかったのか。
何故、彼女を早く呪縛から解放させなかったのか。
もっと、早く気づいたのなら。
彼をこの、呪縛から解放出来るのは彼女しかいない。
音をも立てず、彼女は目を覚ました。
そして彼女は手を伸ばし、
「ねぇ」
彼の頬に手を当て、
「私は」
言った。
「貴方が好きなんです」
彼女の苗字が貴三になったのは、そう遠く無いお話。
【ここに書いた事は真実です。私は貴方を愛していました。そして、私は貴方を裏切ってはいません。私は、存在価値は無いのです。そして、ハッピーエンドを書いていて思いました。火をつけるのであれば、何故死なないのだろうと。存在価値が無いのであれば、いなくなっても良い。だから、私を助けないで下さい。私は、自分で胸を刺したのですから。私達は愛し合っていないのですからね】
「どうして・・・どうして君は・・・嘘を吐く。俺は、愛していたよ。君のことを」
彼女は、ハッピーエンドを書いた。何故、彼女は認めないのか。彼が愛している事を。彼女との婚約が決まった時点で、美方は彼女の名前では無いのに。彼女の予想どおり三貴の養女になっている。
「君は、死なせてくれって言ったよね。でもね、其れは無理だ。君は、僕の婚約者だから」
焼けかけた屋敷から助け出された彼女。胸を刺し出血多量であったものの、生きてはいたのだ。病院に運び込まれ、何とか生きている。彼女は、生きることに絶望していた。美方の家では、彼女は無いものとして扱われていた。そのため、自分に対する価値が低かったのだ。でも、貴三は違う。彼女を欲しがっていたのだ。だからこそ、彼女は死ぬ事は無い。そして、今度こそ彼女は幸せになれるだろう。彼女を大切にする人達に囲まれて。
「・・・・っ」
だからこそ、現実を見るためにも目を覚まして。
1,物語の中の彼女の日記
2,物語の彼女
3,現実
の順番です。分かりにくかったら申し訳ありません