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安保法案公聴会 前編

野党「みんなの未来を明るくする党」では連日会議が行われていた。

その中で党首である紫一郎は激高していた


「なんだぁ、この沈黙は。なんでもいいから出してみろ、意見を出せよ。

このままじゃ日本は沈むぞ。俺の中から信号がきてんだよ、危ないって。

でも上手く説明できないんだよ。みんなによぉ、国民によぉ」


「先生、落ち着いて下さい。お体に触ります。少し休憩を取りましょう」

「あぁーん、休んでなんかいられないんだよ。休んでも気が、気が休まらないんだよ」


紫一郎の体を心配しているのは、右腕とも言われている石黒あきら。

二十年ほどまえから紫一郎の世話をしている。

石黒は普段あまり意見を言わない。

紫を尊敬する余り反対する思考を持たなくなったからだ。

ただ最近は、紫の焦りを目の当たりにして、何かできないかと悩んでいた。


「あのー先生いいですか、公聴会の推薦枠がありましたよね。

そこにある人物を出させてみてはどうでしょうか?」

「おう、公聴会か、ある人物ってなんだ。んん、ある人物って言い方変じゃねえか

っていうかお前がそんなこというなんて珍しいな。

で、どんな人物なんだ」


「知り合いって訳ではなく、お願いしても引き受けてもらえるかも分からないのですが」

「なんでもいいからさっさと話せよ」

「娘の学校の先生なんですが、生徒からは『リバーシ先生』と呼ばれてまして」

「ん、外人の先生か。どこの大学の先生なんだ」

「あの、中学校でして、それに彼は日本人です。

詳しくは分からないのですが、なんでも人の価値観をひっくり返すのが得意のようで、

生徒から『リバーシ先生』というあだ名を付けられたそうです」



紫は軽くため息をつき、冷め切ったお茶を一気に飲んだ。



「お前の話はよく分からんなぁ。

公述人として変な奴を出しても恥を掻くだけだぞ。

大体なんでそんな奴のこと知っているんだ」

「妻の…妻の教育方針が変わったんですよ、最近。

以前は部活動なんかだめだといってたんですが、その先生と一度会って話しただけで

娘の部活動を許したんです」

「ん、お前んとこのカミさんか、前に一度あったよなぁ

家の女房と似ていてすげえ頑固なのが話しただけで伝わってきたぜ。

え、ホントか?

え、ホントなのか」

「ええ、本当です。私なんて手にしていたビールをこぼすくらい驚きました」

「ふっ、ちょっと面白そうじゃないか、会ってみたくなったぞ

早速手配しろよ」

「はい、直ちに」



翌日、中学校の校門手前に二台の黒いセダンが止まった。

中から降りてきたのは、柴一郎、石黒あきら、その他2名。


「石黒、なんで俺から来なきゃいけなかったんだ、ああ?」

「すみません、授業の関係から都合が悪いとかで…」

「もういい。中学か、ホントはもっとこういう所に来ないと駄目だな」

「で、ですね」


紫は石黒の後頭部を軽く叩きながら校内へと入っていった。



- 三十分後 -


紫が校舎から出てきた。

来た時と顔付きが違いにやけた表情だ。

足取りは軽く、右手に握り拳を作って小刻みに振っていた。



「よし、よしっ、いいぞぉ、何だ今日はいい天気じゃないか」

「はい。気持ちいいですね」

「石黒ぉ、俺は今日ほどお前に感謝したことはないぞ。

俺が望む結果には成らないだろうが、こいつは期待できる。

国民へ言いたかったことが伝えられるぞ」



石黒は少し涙目になっていた。

今回の安保法案について紫一郎が本当に心配していたからだ。

イライラした状態が続き些細なことで怒鳴られたりするのは構わなかったが

食が細くなりストレスで体を壊しかねない状況に心配していた。

テンションの上がった紫を見て一安心する石黒だった。



- 安保法案公聴会 当日 -



今日行われる公聴会はテレビで生中継される。

始まるまでまだ一時間あるが、党首の紫と石黒はテレビの前の

ソファーで二人並んで座っていた。



「石黒、俺は六歳の頃に空襲を経験してんだ。

忘れられねぇ、あれほど恐ろしいもんはない。

あれを日本の国民に経験させたくはないし、どこかの国の子供にも

経験させたくない。

不思議なことになぁ、戦争となると人を殺してもいいような

そんな……なんだ、そんな気持ちっていうか考えになってしまうんだ。

そんなんは駄目だ

武力によって平和を守るなんてことはできねぇんだよ」

「はい、よく分かります」



石黒はまた後頭部を叩かれた。

なぜ叩かれたのか不思議そうな顔をしていた。



「あいつ、大丈夫か。いやそれよりも俺は自分が情けない。

俺が自分の言葉で国民に説明できなきゃいけないのになぁ。

俺はここで何やってるんだろうなぁ」

「きっと、きっと大丈夫です。

あ、始まります」



公聴会の中継が始まった。

公述人は全部で六名。党が推薦した彼は六番目の席に座っていた。

安保法案に賛成が三名、反対が二名の公述が行われ、彼の出番が来た。

会場内からパラパラと拍手はあったが、誰も彼のことを知らず

単なる習慣からしているものだった。



「アルバイトをしている沢田光一といいます。

まず私はこの法案に賛成でもなく、反対でもありません。

正直、どちらでも構いません。

私が今日ここに来た目的は、みなさんに…」



紫は石黒のネクタイを掴み引き寄せて怒鳴った。



「なんだあの肩書きは。もっとマシなものがあったろう。

お前は何してんだよ。面倒をみろと言っただろう」

「いや、彼は教員免許がなく正確には教師じゃないんです。

それに任せて下さいというばかりで、打ち合わせが出来なかったんですよ。

ちょっとネクタイ、そんなに引っ張らないで…」

「それに賛成でも反対でもないって何なんだぁ。

ふざけるなぁ」

「そう言われましても。ううっ、彼なりの話術なのかもしれませんよ」



顔の険しさは変わらすだがネクタイから手を離して、

姿勢を正してソファーに座り直す。

テーブルのお茶を一気に飲み干し、テレビに視線を戻した。



「みなさんに…

安保法案って何なのかと首を傾げている国民のみなさんに

どのようなものなのかを説明に参りました。

また、この法案の本当の姿を認識していない政治家の方々にも

聞いてもらいたいと思います。

国会の答弁なんかをみても、その質問や説明の内容から

ずいぶんと遠い所の話をしていることが分かります。


ではまず、与党が国民に対し、この法案の必要性をしっかりと

説明できない理由を話します。


通常、何かを変えたいと思う時、きっかけがあります。

そう例えば、ここは不便だから直したいなどです。

そのような時、次にこう考えます。どうすればいいか、何が効果的か、

直した時に悪い影響が起きないかとか。

今回に至っては日常的な話ではなく、法案を考える訳ですから

それは色々と考えるのは当たり前なのです。

説明責任もありますし。

普通の段取りを踏んでいれば、野党がどんな質問をしても

それなりの回答をできなければ可笑しいんです。



では何故説明できないか、考えられる理由は二つ。

一つは別の目的、真の目的を隠すためというパターン。

隠すためだけのものだから練が甘くなっているのかもしれません。

しかし、隠すためのものとしては危な過ぎです。

今回のネタは党内で分裂を起こす可能性や

支持率が下落する可能性もあります。

これではないと思われます。


そして、二つ目のパターン。

外部から来た法案というもの。つまり、海外からの圧力で発生した

パターンです。

外からいきなり来たものですから、途中の段階が抜けている。

また必要性を自分たちはそれほど感じていない、

だから説明ができないということです。



国民のみなさん。

覚えて欲しいポイントが幾つかあります。まず一つ目

『 政治家は外部からの圧力に弱い 』

ということ。


国会議事堂の前でデモをしようが、駅でビラを撒こうが

政治家には効果がありません。

残念なことに、痛くも痒くもない。

でも海外からの圧力には弱いのです。

それは何故か…

政治に携わる人々は、多少間違っていても、失敗しても

それほどダメージはなく、活動を続けることが出来ます。

オマケに一般サラリーマンからすれば高給取りです。

一般国民が汗水垂らして働いたお金で多数の方々が楽をしています」



紫は石黒のネクタイを掴もうとするが、ネクタイは外されていて掴めなかった。

しかし上着の襟を掴み引き寄せた。


「あいつは、あいつは何を言っとるんだ?

こっちは必死に頑張ってるんだぞ」

「ううっ、くるしいです。そ、そうです、先生は頑張ってます

落ち着いて下さい。これもまた考えがあるんだと思いますよ」



石黒の体を何度か揺さぶった後、襟から手を離した。

そしてお茶を飲もうとする紫だったが、茶碗は空っぽだった。

ポットからお茶を入れるが熱過ぎて飲めず、石黒に冷たいお茶を要求するのだった。

テレビの中で沢田の公述は続いていた。



「日本には輸出入している企業が沢山あります。

もし海外がこの輸出入に対し規制を強めたらどうなるか分かりますか?

企業にとってダメージです。

そして、日本経済が悪化します。

政治家たちにとってスポンサー的な日本の経済が悪くなることを

当然恐れています。

政党に対する評価も下がりますしね。実に分かり易いです。

つまり…デモなんかよりも、海外からの圧力の方が恐ろしい訳です。



覚えて欲しいポイント二つ目。

『 安保法案は海外から来ているんじゃないか 』

ということ、です。



えーと、法案の本質を語る前にすっきりさせたいことがあります。

先ほど出た反対の公述についてです。

日本が軍事大国になるんじゃないか、また戦争を始めるんじゃないか

とありましたが、私は無いと思います。


まず、メリットが無い。

戦後七十年、苦しい時もありましたが、それなりに経済を構築しています。

これを自ら壊す必要がないですね。

それに平和になれた一般国民がそれを許さないでしょう。

徴兵についても、無いと思います。

どこぞの国へ侵略戦争でも仕掛けない限り、兵の消耗は少ないでしょう。

近代兵器での戦いは昔とは違うのです」



テレビの前の紫一郎はペットボトルを握り潰していた。


「失敗だ。あんな奴を信じた俺が馬鹿だった。

お前、今すぐ行って引きずり降ろして来い」

「そんなことできませんよぉ。それに今から行っても間に合いませんし」

「いいから、何とかしろぉ」



絶叫しながら石黒の後頭部をいつもより強く叩いた。



「いたぁ、落ち着いて下さい。これは彼なりの手法なんだと思います。

これからの話をしっかりと聞きましょう」



この時、石黒の中で何かが起こっていた。

二十年政治活動をしてきたが、紫一郎への尊敬が強すぎて止まっていた思考が

動き出すきっかけになっていた。

元々強い思想に憧れを持っていた彼は、政治家としての素質は十分にあり

十年後には党をまとめるリーダーへと成長するのであった。



「さて、今回の安保法案、その本質は経済戦争です。

この法案を通すことで、十年、二十年後の日本は弱体化します。

更に怖いことに状況を立て直すのは困難でしょう。ずっと続きます」


二つ目の作品です。

子供の頃から今も文章を書くのは苦手です。

読み易いものを書けるようになりたいです。

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