琥珀
「痛っ」
麻縄で切った掌が痛む。切れた部分に麻の破片が刺さっているのだ。それは痛くない訳がない。そんな僕の傷口を治療してくれているのは、琥珀だった。
「子供じゃないんだから我慢しなさいよ。」琥珀は少し笑う。
「なんだよその母性は。」
ふふっ。呆れたように琥珀が笑う。
「ていうか、なんで貴方が私に名前なんか付けちゃってるのよ。」確かにそうだ。だが、なあ、とかねえ、で呼ぶのは流石によそっぽい。それに、言わばあだ名みたいな物なのだ。そもそも琥珀には名前が無かったのだから、僕で言うピノキオのような物だ。
「まあ、あだ名みたいなもんだよ。嫌なら変えるけど。」
琥珀がため息を吐く。
「もう、それはどうでもいいわ。ところで、ホントに嘘見抜けちゃうの?」
まあ、疑うのもわかる。嘘を吐くと花が咲く呪いで嘘が見抜ける能力だなんて、皮肉がすぎるし。
「好きだよ。」
琥珀が言った、急に言われて動揺する。体温が少し上がってきた頃に、僕は、その言葉の真意に気付いた。僕の脳を霞めたのは、「Lie」つまり、嘘だ。吐血をしそうな程の衝撃に、
「ぐはっ」僕の口から思わず出た衝撃音を聞き、琥珀は、ホントらしいね。そう呟くのだった。
「そういえば、あなたに助けられた性で私は今、路頭に迷っているのだけど。」
ああ、そうか。そういえば琥珀は、帰る家が無かったのだ。だが、その件についてはもう決めている。
「雇ってやるよ。」
そう言った時琥珀は、思いの外きょとんとしていた。
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