尋問
編集済 2015/5/31
「さて、そのままの姿勢で始めても良いか?身体も本調子ではないだろう」
「ああ、寝たままの姿勢でも答えられる事も答えよう」
「では…。貴様は何処から来た?」
「日本という国から来た」
「ニホン…?もしや”ヒノモト”という島国の事か?」
「あ、ああそれで間違いない」
どうやらこの世界に日本ではないが”ヒノモト”という島国が存在するみたいだ。元いた世界の日本と同じ形をしているかわからない。いつかは行きたいものだ。
「そうかヒノモトか…。随分と遠い所から来たものだな、髪の色が黒なのも頷ける。それでは名前はなんという?」
「名前は…”ツバキ”だ…」
「ふむ、ヒノモト特有の名だな。あとは…ここへ何しに来た?川で水浴びなんかしおってそういう趣味なのか?」
「誤解だ。身体の汚れを洗い落としていただけだ、決してやましい気持ちなんてない」
「汚れ…。回収した衣服等を見ると血で汚れていた、それは何故だ?」
「…とある町を訪れた際にブラックウォルフの群れが襲いかかってきて、その時迎撃した汚れだ」
「ほう?ブラックウォルフの群れか。個々の力は無くとも集団で群れを成す程統率力が増し、最悪村や町を滅ぼすと言われる魔物を迎撃とは中々腕が立つのではないか」
「いや無我夢中で戦っていた、武器をめちゃくちゃに振り回すので精一杯」
「そうか大変な思いをしたようだな。この服の汚れも功績のみたいな物だ。…少し匂いがきついのは仕方ないだろう」
そこで彼女は微笑み、つられて自然と笑みが漏れた。
「ふふ…やっと笑ってくれたな、ずっとしかめっ面だったから私までしかめっ面になってしまったではないか」
彼女がしかめっ面をして、またもや笑みがこぼれる。
「笑えば自然と目が優しくなる。ツバキはまるで息子や娘を見守るような目をするから私は好きだぞ」
突然”好き”と言われてドキッとしない男はいないだろうこんな別嬪さんなのだから。異性として好きと言われたらどれだけ嬉しかったものか。
「む、何故顔を赤く…はっ。ち、違うぞ異性として好きといった訳じゃないくてだな!ツバキの目が好きと言ったのだ!勘違いするな!」
「分かっている」
「…平然と言われると中々くるものがあるな」
彼女はぷくっと頬を膨らませた。まるで子供のように表情をコロコロと変える、どんな表情が出来るか色々試してみたい気持ちになるがまだ尋問の最中だ。
「それで、もう質問は良いのか?」
「ん、ああ大丈夫だ、特に不審な所は無さそうに見える。外で待機していた弓兵も先程の会話中に解散させた」
「弓兵…?尋問中ずっと狙われていたというのか」
「変な行動をさせない為の保険だ。…私一人で尋問という時点で気付かなかったのか?」
「全然」
「少しは人を疑え、そして周りに気を配れ。いつ命を落とすか分からないからな」
「肝に命じよう」
「よし、これにて尋問は終了だ。ツバキはこの飲み薬を飲んでから眠るといい、明日から忙しくなるからな」
「明日から忙しく…?何かする予定でも?」
「ああ、明日からツバキに私が稽古を付ける。それに色々手伝って欲しい事があるからなぐっすり眠るといい」
「ちょっと待てそんな急に何故…」
突然急激な眠気が身体中を襲い、意識が遠のいて行く。まさかとは思うがあの飲み薬睡眠薬でも混ざっていたのでは…。そう考えるのも億劫になり眠ってしまった。
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「…隊長もう尋問は終わりで?」
「ミーシェか。尋問は終わったよ」
「あいつの処分は?」
「泳がせる事にした。明日から稽古を付け、手伝いをさせツバキの本当の姿が見たくなった。吉と出るか凶と出るか楽しみだ」
「はあ…”エフィ”隊長は物好きでほんと困っちゃいます、少しは副隊長である私の気持ちをわかって頂きたいのですが?」
「すまないな長年この楽園で篭っていたのだ、少しは刺激を欲してもよいだろう。話は変わるがミーシェ、昼間の懲罰の件忘れているわけではないだろうな?」
「え、いや、あれはほんの不手際でして…。そう!手が緊張で滑っちゃったんですよ!そうに違いありません!」
「ほう。手が滑り的確に心臓部を狙ったというのか、中々いい腕をしているな」
「いや~それ程でも」
「では、明日から一緒に稽古と手伝いをして貰おうか。何、楽な仕事だから安心するといい」
「え、そんなことでいいんですか?喜んで引き受けます!」
「いい返事だ”楽しみにしているといい”」
ミーシェを帰らせ、明日から始まる稽古と手伝いに胸を躍らせ自宅へと戻る。
ツバキ…お前の本当の姿を見せてくれ。私を刺激させてくれ。
一人ウキウキ気分で寝ようとしたが中々寝付けず、身体を一旦鎮めてから就寝したのだった。