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冒険者になりましょう  作者: はまやらわ
冒険者として
6/11

取調べ

 「先程から言ってるじゃあないか。旅の者でたまたまここに辿り着いただけだと」


 「しかしなあ…。あからさまに怪しい黒色のローブを羽織り、下には何も付けてないときた。不審者の他ならないだろう」


 「盗賊に襲われて、身包み全て剥がされただけだ。このローブも盗賊からの情けで渡された物だ」


 「では、この袋は?中身を確認させて貰ったが、随分と良い”魔法袋”じゃないか。腕の立つ…それこそ”王国級”魔術師数名でやっと作れる物の類だぞ?それを何故お前が持っている?」


 「む…」


 ぐうの音も出ない。門番に捕まりそのまま検問所のとある一角の部屋で尋問をされている。

 この世界の常識を知らず一人ふらふらと彷徨って旅をしてだけ。道中に現れるモンスターを倒し、採取活動を行っていたのだ、無理も無い。途中で会った商人にさりげなく世界の常識を伺うのも有りだったのかもしれない。しかし、それは後の祭り。今はただ尋問に耐えるしかない。


 「盗賊から身包み剥がされたにしちゃあ、いい物持ってるじゃあないか?…どこぞのスパイという可能性もあるなあ」


 まさか、そう叫びたい気持ちが喉まで来るがスパイじゃない証拠も無い。つくづく段取りが悪い。

 どうしたものか…。


 「…袋の中身を全て晒し、そちらに差し出せば釈放してはくれないだろうか?」



 「賄賂のつもりか?そんな簡単に開放して貰えるとでも思っているのか?世の中甘くないぞ」



 交渉失敗。そりゃそうだ、賄賂で屈するような門番ではないだろう。でなければ、門番などしていない。

 賄賂戦法がダメとなると、後は強行突破か門番の言う通りスパイだと誤認させるしか思いつかない。強行突破となると目の前の一人と、後ろの一人を素手で仕留める方法。誤認させたとしてもどこに連れて行かれるか分からない。今の自分の能力でわかっている事が不死であることだけ。強行突破でもいいが、お先真っ暗の指名手配コース確定だ。平穏な冒険が出来なくなってしまう。

 本当に困ったぞ、むむむ。


 「はあ…。大人しくボロっちまったほうが身の為――」


 「門番長!町の外から”ブラックウォルフ”の群れが押し寄せてきます!数は20程!」


 「何!?今すぐ兵士を集めろ!冒険者もかき集めるんだ!」


 「は、はい!」


 「悪いが尋問は急用の後にする。大人しくここで待っていろ」


 門番長の男はそう言い残し、もう一人の門番も引き連れて部屋から出て行った。

 一人ぽつんと取り残された、監視役もいない。


 「どうしたものか…」


 うーんと頭を悩ませている所に、突然兵士らしき男が部屋の扉を突き破り背中から壁に激突した。兵士の容態を確認すべく近寄る。

 

 「大丈夫か?」


 「ぐっ…。まだいける…!ただ…ブラックウォルフの群れが予想以上に多く、外に出ている者達では対処できん…!お前も手を貸してくれ…」


 なんと。モンスターの群れが20程と言っていた門番の一人の報告以上に数が多いとは。ここは手を貸し戦力となるしかない。その後の事はその後だ。


 「わかった、手を貸す。お前はここで少し休んでいろ」


 「あ、ああ…、頼む…町の安全を…」


 兵士はそのまま目を閉じ眠ってしまった。座ったままの姿勢では寝にくいと思い、仰向けの姿勢に直す。

 外に出る為に袋を持ち、兵士の着ていた服を少々お借りする。決してそんな趣味はない。ただ、戦う時に色々見えてしまっては困るだろう。武器は即席の槍が五本。最悪素手で戦うハメになるかもしれないが、不死であるからいくら傷がつこうと関係あるまい。

 

 外に出てみると酷い有様だ。人が大勢倒れており、内何人かはブラックウォルフの餌と化している。今も戦っている者もいるが、傷口から血を流し慢心創意の思いで戦闘中。急いで参戦せねば人はおろか、町にまで被害が及ぶであろう。

 袋から即席の槍を取り出し戦場へと駆ける。自分の存在に気づいたブラックウォルフが雄叫びを上げ二匹が風のような速さで迫ってくる。どこまで出来るか頑張るとしよう。

 

 一匹目、口を開け飛び掛って来る所に槍で迎え撃ち串刺しにする。二匹目は空いている左腕に噛み付き引き千切ろうとしている。不死ともいえど痛いものは痛い。すぐさま槍を引き抜こうとしたが中々うまく引き抜けず、槍から手を離し二匹目の目に目掛けて貫手。片目を潰され噛んでいた腕から口を離すが、右腕が目の中に侵入しており引きようにも引けずもがく。更に奥へと手を侵入させ脳を破壊し二匹目も仕留める。急所さえ突いてしまえばこっちのものだ、武器の腕が無くとも仕留める事は可能。

 袋から二本槍を取り出し次の獲物へと駆け出す。二匹が葬り去られた事を知ったブラックウォルフ達は更にこちらへ戦力を投入、数は五匹。


 縦一列で走り掛けてくる五匹、なんとかなるだろう。

 右手に持っている槍を、先頭のブラックウォルフ目掛け投擲。恐ろしい程の速度で迫って行く。あまりにも速過ぎて反応が遅れたブラックウォルフはそのまま頭から串刺しとなり絶命。後ろから走っていた四匹は危険を察知し、散開。周りを囲うように迫る。足元に落ちていた剣を拾い応戦。

 四匹同時に襲い掛かってくる。正面の一匹は槍で下から突き上げ仕留め、そのまま左腕を勢いに乗せ右側面の一匹の横っ腹へぶち込む。

 左側面の一匹は左腕へと噛み付き、後面の一匹は右足へと噛み付いてきた。左腕は既に千切れる寸前にまで追い込まれた。対抗すべく左腕に噛み付いている一匹の首に食らいつく。もはや人ではない戦い方だが、武器となる物全て使う戦法。

 食らいついた首をそのまま持ち上げ、地面へと叩きつける。足に噛み付いている一匹は右腕に持っている剣で頭を貫き、地面へと叩きつけたもう一匹は足で踏み砕く。


 更に五匹を仕留めた事により、自分への警戒度が一気に跳ね上がったようだ。先程まで別の人間を相手にしていたブラックウォルフ達は目標をたった一人の人間へと変える。


 「いくらでも掛かって来い、そう簡単には死なぬ。全てを武器にし立向かおう」


 ぶらん、としている左腕を千切ると新しく左腕が生えてくる。まさか、並みの傷では再生しないとでも言うのか。完全に破壊しなければ再生されない体だというのか。不死は不死なのかもしれないが、少し不便だ。これはまた後で検証してみよう。今は眼前に群がるこいつらを仕留めなければ。

 ブラックウォルフは全ての戦力を投入し襲い掛かって来るようだ。そうと決まれば武器を集めるとしよう。最後の即席槍を二本取り出し地面へと突き刺す。死骸に刺さっている剣を抜き地面へと突き刺す。足元に落ちている槍、斧、矢、その他全て自分の手の届く範囲で地面へ突き刺していく。これで準備万端だ。素人だろうがなんだろうが最後まで対抗して見せよう。

 ブラックウォルフ達は一斉にこちらを向き、雄叫びを上げ迫る。例え、腕を食われようと足を食われようと、頭を引き千切られようと戦おう。兵士の約束を守ろう。途中で力尽きたりはしない。

 

 不死なのだから。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 「ぐっ…。ここは…?」


 目が覚めると殺風景な部屋の中だった。確か私はブラックウォルフに突き飛ばされて…後の記憶が曖昧だ。黒色のローブを着た男に話しかけられたような…。

 ぶるっ。

 寒い、一体どういうことだ。戦闘中に着ていた鎧、服が無く毛皮が掛けられている。しかもこの毛皮を見るに”ヴァサクベア”の毛皮…余程の腕が立つ者でなければ一人で狩るのは難しい魔物、誰が…。

 そんなことを考えるのは後だ、一刻も早く外に出て応戦しなくては。手元にある剣を握り毛皮を纏い外に出た。


 死屍累々。正にその言葉が当てはまる光景。しかし、人の死体も多い事は多いのだが、一際目を引くのはブラックウォルフの死骸を積み上げ山のようになっている場所。そこにあの黒色の…既にボロボロになったローブを着た男が立っている。

 全身血にまみれ腕や足が皮一枚で繋がっているだけ、身体のあちこちに抉りとられたような傷、あれでは生きているはずが無い。

 突然、男が死骸の山に身を倒した。息絶えたか…そう思ったのも束の間、目を疑う出来事が起こる。

 息絶えたかのように思えた男は死骸の山から立ち上がり、何事も無かったようにどこかへ歩き始めたのである。腕や足は繋がっており、身体のあちこちにあった傷は消え五体満足の姿で歩き始めたのだ。そんな、馬鹿な、そう口にしたい。だが思うように口が開かない。その場で立ち止まりただ見ているだけの者が私以外にも大勢おり、目の前の光景に目を奪われている。ブラックウォルウフを殲滅した男はどんどん遠くなってゆく。感謝の気持ちを伝えたい。しかし、足が動かない。


 100を超える魔物をたった一人で殲滅した男に、私達は畏怖していたのだ。

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