長い旅路
草原に降り立ち…正確には落下した日から一週間が経過した、と思われる。朝に太陽が昇り、夜になれば月が昇る。こういう所はあまり変わらないと考えても良いのだろう。だとすれば、こうして立っていられるのは地球と同じように重力がこの異世界の星でも掛かっていると思われる。
天文学的な話はここまでにして、この一週間何をしてきたか説明しよう。
一日目。これからの事を考えつつ、ひたすら歩いた。道中尿意に駆られ、近くの茂みで用を足すと一匹の兎と思わしき動物が現れた。頭に見事な角を生やしてるのを見ると、モンスターの類なのだろう。兎は俺を見るや否や、目の色を青から赤に染め、突進してきた。咄嗟のことで気が動転し転んでやられる、そんなことは無く冷静にナイフを取り出し、突きの構えで迎え撃つ。兎はそのまま頭からナイフに突進し、絶命した。なんとも呆気ない終わり方だが、初めての戦闘なのだどう終わろうが関係ないむしろ助かる。
兎の毛皮をつたないナイフ捌きで剥ぎ取り、これまた酷いナイフ捌きで要らない部位を捨てる。解体していると中から紫色の石のような欠片が出てきた。綺麗な色をしておりこの先必要かもということで確保。それからも兎や猪、しまいには熊等も出てきたのだがナイフで急所を突くとあっという間に地に伏せてしまうのであった。
二日目。昨日に引き続きひたすら歩くことに専念。袋の機能も判明したことがある。それは、いくら物を入れても重さは変わらず、一杯にはならない事だ。昨日の時点で一杯一杯にならない事を不思議に思い、中を除くと底がどんどん深くなっていた。見た目は変わらず、中を除くと底が深くなっているのは摩訶不思議である。手を入れると、底にある物があっさりと取れてしまう。驚き。
それはさておき、昨日採取したモンスターの肉をどうするか問題だ。この袋の機能も容量が一杯にならないことしかわからないわけであり、中に入っている生物が痛まないという確証はない。もしも腐ってしまったら袋の中が悲惨な事になるに違いない。塩があれば幾分か保存が利くし、冷凍となれば当分持つがそんな機能があるとも限らない。
さっそく昔ながらの方法で火を起こす。摩擦熱で火を起こし、骨で作った針を肉に刺し直火焼き。調味料も何も無い状態で焼いた肉は、何とも言えない味だった。
三日目。ナイフの刃こぼれが目立ち始めた。これはいけないと思い、またもや動物の骨を削り先端を尖らせ、木の棒に括りつける。即席の槍を数本確保する。モンスターの骨が色々な所で有効活用出来て良い。
この日は即席の槍の耐久度や使い心地を確かめた。
四日目。馬車に乗った商人の男と出会った。なんでも彼は三日かけて他の町に商売に行くそうだ。彼にモンスターから採取した紫色の石を見せると、「それは”魔石”だ。」と言われた。この世界には”魔素”というものが空気中に流れていて、酸素を吸うのと同時に魔素を取り込んでおり、体内に溜めた魔素を使用し”魔法”を扱える。実際に商人から単純な魔法を見せて貰った。
彼は手元にあった本を手に取ると何やら呟き始め、人差し指を立てると、先っぽで小さな火を出して見せた。ライターと同じぐらいの火である。
魔石を砕き”魔粉”をまぶした魔道書や、魔石そのものを集積した杖等を媒介にしないと魔法は発動できない。彼の持っている本も魔粉をまぶしたもので一般の者でも扱える”生活魔法”が記載されている。
同じような物を魔石と交換してくれないかと、商談してみると小さな本を譲ってくれた。彼の持っている本より記載されている量は少ないものの、必要最低限の事が記載されている。
彼と別れを告げ、また一人で歩き始める。そこで思い出し町まで送っていって貰おうと相談しようと振り返ったが、既に遥か彼方、追いかける気力も起きずとぼとぼと、歩いた。…服も買えば良かった。
五日目。早速商人から譲って貰った小さな魔道書で魔法を試してみる。すると見事、一発目で魔法を発動する事が出来た。試した魔法は火、今後必要な物から試す寸断だ。立て続けに水の魔法や、風の魔法、光の魔法を試す。どれも一発で成功だ。風の魔法の使用方法がいまいち不明だが役に立つのだろう。
この日の食事は、歩いている途中に生えていた草やキノコ。不死身の身といえど、食への関心は忘れない。
六日目。昨日食べたキノコの中に毒キノコが混じっていたみたいだ。死にはしないと分かっていたが、どうやら病的な事は通常通り発症するみたいだ。兎に角、腹が痛い。
顔色を真っ青にしながらゆっくりと歩き始めた。
七日目。ついに町を見つけた、念願の目的地。全裸の上に黒色のローブを羽織り、神様から貰った袋を肩に背負った姿で到着。
さて、大手を振って参ろう。町の門へと足を踏み入れた時、肩を捕まれいかにも門番です、といった風貌の男性二名に囲まれ話しかけられた。
「君、ちょっと検問所までいいかな?」
なんと。