地面にキス
さてどうしたものか…。
雲の上から落ちながらそう考えていた。このような世界観に慣れている者であれば何かしらの呪文を唱え見事に格好良く着地すると思われるのだが生憎、俺にそんな知識は無い。誰かがやって来て助けてくれるかもしれないが、そんな都合は無い。いくら神様に"チートというチート全て授けよう!"と言われても、不安は拭えない。逆に今こうやって冷静に考えている自分が恐ろしい。既に1回死んでいるからなのか、多少の不安はあるが恐怖は感じない。
「…もうこのまま落ちてしまおう。ものは試し、チャレンジすることも大事だからな。」
1人頷き落下態勢に入る。先程まで仰向けの状態だったものを、頭を地面に向け逆さまの態勢にする。空気抵抗が減り、落下速度が速くなる。速度が上がるにつれ、段々と地上が見えてくる。
「見事な草原だな。この草原に俺が突っ込んだら少し抉ってしまうのが勿体無い。」
自分の質量と速度であの草原に突っ込んだら辺り一面禿げてしまうだろう。ある意味隕石に近いものを感じる。すまんな、罪のない地上よ。恨むならこの世界を管理している神様を恨んでくれ。
色々考えながら草原に突っ込む。
瞬間、轟音とも呼べる音と共に地面に追突した。起き上がり、身体に付いた土埃を払いつつ辺りを見渡す。
「…。」
先程少しばかり抉ると言ったがあれは訂正する。少しではない、だいぶ抉った。それこそ隕石でも落ちたかのようなクレーター、周りにあった木々も見事に吹っ飛び辺り一面更地。
「あの高さから落ちて体は無事…。これが、神様の言う能力なのか?」
人とは違う能力だと言ってたが、これはもう人ではないのでは?もはや不死身の力が備わってるでは、この先の冒険は安泰も同然だろうに。いっそ清々しいぐらい楽に進める。
「…ん?」
ふと、空から何かが落ちてくる音を聞き見上げると袋が落ちてくるではないか。あれは…?
袋の落下地点に移動し、袋を受け止める。紙が一枚貼られており、内容は…
(冒険に必要な最小限の物を詰めておきました。これからの君の冒険に幸あれ!)
と、書かれており。まるで上京する息子に宛てたかのような内容だ。神様もある意味母みたいな存在であり、あながち間違ってないのがまたなんともいえない気持ちになる。
肝心な袋の中身は、”黒色のローブ”、”地図”、”(何かの)干し肉”、”ナイフ”、”報告書と書かれたメモ帳”
本当に必要最小限の物しか揃ってないようだ、中には気になる物があるが気にしない。元いた世界製のナイフがあるのが唯一の救いと言うべきか、使い方が振り下ろす事と、突くことしか分からない。一般人に使い方等分かるはずなかろうに。
とりあえず今まで”全裸”だった身体にローブを羽織る。全裸の状態で歩かれては犯罪者もいいとこだ。しばらくローブ一枚だけの生活を送るしかない。
「村…もしくは町と呼べるような場所に行き、服だけでも欲しい所だな。武器もナイフだけではな…もうすこしマシな武器が欲しい。」
一人呟き冒険への第一歩を踏み出した。
一人称か三人称にしようか迷っちゃいます。