降り立つ
目の前の神様はかりんとうを食べながら、俺の顔に食べカスを撒き散らしながら自己紹介をした。
「おっと、ごめんよ。かりんとうが美味しくてね、ついつい食べながら話しちゃったよ。お代わりはないのかな?」
「いや気にするな。お代わりは無いからもう撒き散らすことはないだろう。」
「そっかー無いのかー、残念だよ。それじゃ話を戻すよ?テンポよくいくからね?巻きでいくよ。」
神様ーーグランシアはそう言い、あぐらの姿勢から正座の姿勢に直した。
「私は君達で言うお伽話の世界を管理している物。言わば経営者だね。もちろん他にも神様がいて、そのお伽話の世界を管理してる。立場的には私が社長で、他の神様が従業員だね。その世界が勝手に滅びないよう管理しているんだけど、何分私達は神様。その世界に住む人達と直接的な接触は出来ない。接触を図ろうと試みた神様もいるみたいだけど、話が上手く通じなくてね。トントン拍子にいかないんだよ…ふぅ。」
神様はそこで茶を飲み一息つく。少なくなっていたので注いでおく。
「何故トントン拍子に話が進まないのだ?頭のいい奴に話をすればいいのでは?」
「そうは問屋が卸さないんだよ。神様とただの人、全てが違う。主に存在的な理由でね。大体の人は消滅したり、頭のいい人は突然発狂し廃人になる。それが原因さ。」
「なんとはた迷惑な神様だこと。」
「だろう?そこでだ、私達は考えた。直接的にとまではいかないが何か間接的な事で接触はできないだろうか、ってね。」
「そこで出た結果が、死んだ人の魂を捕まえ何かしらの器に入れその世界の人達の状況を見てこい…ということか。」
「そゆこと。魂は生き物の器から外れた物。私達はそれを直接扱うことができる。消滅したり廃人にはならないからね。でだ、君にはその世界に降りてもらう。どんな事になっているかその目で確かめてきて欲しい。君は旅の…冒険の途中だったね。丁度いいじゃないか本当に何もわからない未知の世界への出で立ち。ワクワクしないかい?」
「確かに高揚とした気持ちにはなるが、いささか不安ではないか?何も無い状態で降りてもすぐ死なれてしまっては状況が掴めないだろう。」
「そこで私なのだよ。私は神様の中の社長だからね、不可能はないよ。」
「…俺に何かくれるとでも?」
「もちのロンさ!この世界はねお伽話…ファンタジーの世界さ。まるでゲームのようなね。剣と魔法があり。それが存在するということは必然モンスターもいて危険が一杯なのだよ。そんな中君はこの世界を冒険してもらうから、君にはチートというチート全て授けよう。なあに、物語が上手く進めばそれだけ面白いものはないだろう?」
グランシアは天井を見上げ最後の言葉を誰かに向かって言う素振りをしている。
「しかし、ゲームも何もそういう知識がないが大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない。人とは違う何かが君には備わっている。気づいていくのは時間の問題だろう。」
そこでふと、グランシアは何かに気づき。
「ん?少し長話をしすぎたようだね、私はそろそろお暇するとするよ。」
「待て待て、その世界に降り立つのはいいがどこに降りるんだ。流石に海の中からスタートするというのは無しだぞ?」
「安心したまえ、ちゃんとした平地に降り立たせるさ。そこからは君の自由だよ。でも私達への報告を忘れずにね?1年に1回集会があるからその時また私は君の前に現れるとしよう。」
「…まだ問い詰めたいことは山ほどあるが、グランシアにも用事があるみたいだからな。とりあえずは次回に持ち越すとしよう。」
「可愛い子には旅をさせろって言うしね、君も準備をしておくといい。私がいなくなってものの数分でこの部屋は消滅する。」
「心の準備は元より俺が死んだ事を告げられた時より出来ている。いつでもいいぞ。」
「そうかい…よし!じゃあいくよ!良い冒険ライフをね!」
「ああ。また今度。」
神様が別れの言葉を告げ、消える。それから数分が経ち少しずつ周りが白くなってゆく。これから何が待っているのか、何と出会うのだろうか、子供の頃に味わった感覚が体中を駆け巡る。
そうしている内に視界が真っ白になり何も見えなくなった。
突然身体が重力に従うように落下を始めた。少し嫌な予感がしてならない…もしかしてなのだが。
(安心したまえ、ちゃんとした平地に"降り立たせる"から。)
そんな台詞を言っていたグランシアのしたり顔が思い浮かぶ。…ああ、どうしてボケをかましてくるのだろうか。
雲の上から落下し始めている自分はそう思うしかなかった。
設定を忘れないか不安です。