対面
冒険ーー、子供の頃誰でも知らない土地、知らない人、様々な物を見た時は高揚とした気持ちになった時があるのではないだろうか?
自らの足で知らない所に来た時は不安と、この先に何があるのか、この先に何が待っているのだろうか、胸踊る気持ちになる。
そんな子供の頃の気持ちを忘れず、大人になり。冒険をしてみたい…旅をしてみたい…何が待っていようが関係ない、行く宛のない旅をしよう。ずっと我慢してきた気持ちが膨れ上がり爆発した。
両親は他界、兄弟もいない、友人達も別段付き合いが良いわけではなく所詮は上辺上の付き合いだけ。1人旅には持ってこいの状況。会社に勤めていたがこの先10年と持たないであろう、辞表を出しさっさとお暇させてもらった。給金だけは良かったよ。
さぁ、条件は揃った。荷物をまとめ服を着て靴を履き5年間世話になった部屋に少しの別れを告げよう。
愛車のバイクに跨りエンジンを掛ける。これから共に旅をする相棒だ、最期まで頼むぜ。
冒険への…未知への旅を始めたのであった。
だが、この先まさかあんな事があろうとはまだ気付いていなかった。
そして"俺は"へんてこりんな人物(?)に出会う事になる。
「やあやあ、初めまして。そして、ようこそ"こちらの世界"へ。以後よろしくね?」
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「ここは?自分の部屋…?」
見慣れた間取り、見慣れた家具の位置。どれも記憶の中にある自分の部屋と同じもの…。しかし…なんだこの違和感は。
違和感の正体は直ぐに分かった。女だ。 目の前のテーブルに向かい合うように座る俺と女。誰なんだこの女は?少なくとも知り合いにこんな女はいなかったはずだ。
頭に花飾りのような物を付け、首には爛々と光る宝石。不釣りあいな白シャツとホットパンツ…。
肝心の容姿なのだが、黒髪でボーイッシュな髪型、顔は外国人のようで目の色が左右で違い、青と赤で分かれている。体は出るとこが出て引っ込むとこは引っ込んでる。モデルでもやってました?とでも言いたいぐらいだ。
もう色々おかしい所がありすぎる…。頭がおかしくなりそうだ…。
「ん?どうしたんだい?頭なんて抱えちゃって。熱でもあるのかい?」
「いや…単純に頭が今の状況に追いついていないだけだ…。気にするな。」
「そ。なら大丈夫だね。今から色々と話をしようと思ってたんだ。メモを取るなりして状況をまとめていったほうがいいかもよ?また頭が痛くなりそうな話だからさ。」
「…ならそうさせて貰おう。少し待て、何か書き留める物を用意しよう。…茶菓子はいるか?」
「是非ともさ。」
メモ帳とペンを机の引き出しから取り出し、茶碗に2人分の茶を入れる。菓子は…適当に見繕うとしよう。
メモ帳とペンは自分の手元に置き、茶菓子をテーブルの真ん中に置く。
「おお!かりんとうじゃあないか!好きなんだよねえこれ。気がきくじゃない?」
「それはどうも。」
「もぐもぐ…。ん〜いいねぇ、この食感堪らないよ。」
「…和むのもいいが、そろそろ話をしたらどうだ?この状況を。」
「んむ?そうだったね。…ふぅ、茶もまた美味いねえ。」
「どうも。」
「さて、話をしようじゃあないか。どうして私がいて、どうして君が自分の部屋にいて知らない私と向かい合っているのか。端的に具体的に説明するよ?」
「頼む。」
「じゃあまず1つ目。君は旅に出て不運な…事故に遭い死んだ。」
「…は?何を言っている?俺はこの通り五体満足でお前と向かい合っているが?」
「いいや、君はもう死んでいる。山の中を走行中たまたまあった水溜りにタイヤを滑らせ転んだ後、1台目の対向車のトラックに頭を潰され、2台目の普通車に体を飛ばされ、そのまま深い湖の中にぽちゃん、さ。」
「随分と悲惨な死に方をしたな。痛みを感じることすらなく、死んだのか。」
「そうだね。ある意味幸せかもね、痛みながら死ぬよりかはマシじゃない?そして今頃湖の中にある君の死体は魚の餌になっているだろうね。」
「…そうか。俺が死んだことはとりあえずは理解した。旅に危険は付き物。何が起こっても仕方ないだろうな。」
「物分りが良くて助かるよ。それじゃあ2つ目ね?どうして私が先程"こちらの世界"へようこそ。と言ったのか。それはね、既に君は元いた世界の住人ではなく、こちら側…君達で言うお伽話のような世界に連れてきたからだよ。」
「ではこの部屋はなんだ?住んでいた部屋と同じようだが。」
「君の記憶の中から1番過ごしやすい場所をピックアップした結果だからだよ。」
「するとなんだ?あの世に行くはずだった魂を捕まえて、記憶を引っ張り出し1番話やすい場所を設け、この先何かをしてもらう為にこうやって会話をしてるわけか。」
「ご明察。いやあ、理解が早くて本当に助かるよ。じゃあそろそろ私の正体も大方分かってきたんじゃあないか?」
「…神様的な存在か?」
「大正解!そうです!私が神様です!」
ーー神様との初対面がまさかこんな形になろうとは。自分の顔に付いたかりんとうのカスを拭き取りながらそう思った。
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