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「じゃーねー、美奈!」
「うん。また明日。」
いつもの曲がり角で友達と別れ、私はひとり、家へと急ぐ。
私、森 美奈は、元気はつらつ、ただの中学二年生。平凡ながらも平和な日々を、思う存分満喫している。
…というのは嘘で。
おそらく私は、「ただの女子中学生」ではない。
言ってしまえば、私のお母さんは亡くなっている。今は、お父さんと二人暮らし。いわゆる父子家庭ってことね。
お母さんは、私がまだ小学1,2年生の時、運悪く交通事故で亡くなった。信号無視の車にはねられて、という、きっと警察に言わせれば、「ありきたり」な交通事故。
大切な、本当に大切な人を失ったのは事実。でも、もう私の頭の中では、それがぼんやりとした認識でしかなくなってきているのも事実。
中学に上がるころくらいまでは、かなり辛かったんだよ。
シンクに洗いものがたまってる。しらないうちに、食事が冷凍食品ばっかりになってる。棚の上の置物やら、写真立てやらに、うっすらとほこりが積もってる―――。
そんな小さな、小さなことすべてが、「お母さんはもういない」ってことを、私に思い出させる。そして、もっと「ありがとう」を言えばよかったと、後悔させる――――。
でも、洗いものはすぐ洗う、ちゃんと料理する、部屋のそうじをちゃんとする、なんてことに気をつけていたら、「お母さんはいない」なんてことを思い出させる要素は、なくなった。
それと同時に、めそめそしすぎることも、ため息ばっかりつくことも、めっきり減った。
5時半には起きて、朝ごはんの用意をし、お父さんのお弁当をつくって、学校に行き、帰ったら洗濯、夕食の支度…。
仕事に追われるそんな生活は、案外楽しい。
今では、お母さんのことは今でも大好きだけど、毎日ブルーなわけじゃない、「理想的!」な暮らしをしている。
あ、でも、ひとつふしぎなことがあるんだった……。
…さあ、そんなことを回想しているあいだに、我が家に到着!