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第五章 サイキック

 ――電車がトンネルを通り抜け、右の窓から陽光が差し込んで車内が急に明るくなると、フラッシュバックを繰り返していた映像がピタリと止まった。

(何なのこれ、凄いリアルな映像……)

 美姫が突然の出来事に戸惑って呆然とする。

(赤いコートの女、邪悪な気配……)

 奉生は下唇を噛んで腕を組むと、少し下を向いて目を細めた。

「赤いコートの女?」

「何だって!?」

「今、『赤いコートの女』って言いましたよね?」

「いや、言ってない」

「うそ?」

(なぜ分かるんだ。俺の心が読めるのか?)

「心が読める?」

(やっぱりそうか、この娘は精神感応しているんだ)

「あっ、口が動いていない! えっ、何これ?」

 美姫は奉生が声を出していない事に気付いた。

 二人は、しばらくの間、無言で互いの瞳を見つめ合った。

「私……もしかして……」

(そうだよ、君は僕の心を読んでいるんだ)

「そうなの!!」

「しっ!」

 美姫が思わず大きな声を上げると、奉生は右手の人差し指を彼女の口元に軽く押し当てた。

(大きな声を出さないで、今、君の能力が発動したんだ)

「能力が発動した?」

 美姫が奉生の人差し指に焦点を合わせて目を寄せる。

(どうやら僕の予知夢が、君の能力を発動させたみたいだ)

「予知夢ですって?」

(僕は近未来を予知する能力を持っているんだよ)

「えっ、じゃあ、あなたは超能力者なの?」

(そう、僕は予知能力者なんだ。そして、君は精神感応能力者の様だ)

 奉生は黙って頷くと、心の中で美姫に答えた。

「そうか、あのリアルな映像は、あなたの予知夢だったのね。そして、私は精神感応能力者……」

 美姫はようやく現状を理解すると、放心状態で奉生の瞳を見つめた。


 ――電車がまた山間のトンネルに入る。電車が走行音を響かせながら、真っ暗なトンネルの中を通過すると、乗客達の声が聞こえ無くなって、客室は薄黄色い車内灯に照らされた。トンネルの青白い常夜灯が二人の視界の中を前方から後方に向かって一定の間隔で点滅しながら尾を引いて流れて行く。すると、美姫の頭の中に再び映像が浮かんだ。


 小さな駅のホーム。

 電車の接近アナウンス。

 駅に高速で近づく特急電車。

 電車の警笛。

 笛を鳴らす駅員。

 赤いコートの女。

 赤ちゃんを抱いた母親。

 母親の背後から、ゆっくりと近づく赤いコートの女。

 激しく泣き叫ぶ赤ちゃん。

 赤ちゃんを揺さぶってあやす母親。

 電車の警笛。

 笛を鳴らす駅員。

 母親をホームから突き落とす赤いコートの女。

 赤ちゃんを抱いたまま線路に落下する母親。

 悲鳴。悲鳴。悲鳴。

 電車のブレーキ音。

 車輪から飛び散る強烈な火花。

 嘲笑する赤いコートの女。

 駅を通り過ぎて急停車する特急電車。

 ホームから走り去る赤いコートの女。


 ああっと、大声を上げて美姫が立ち上がると、周囲の乗客達が驚いて一斉に振り向いた。

「大変だわ、お母さんと赤ちゃんが線路に落ちる!」

「落ち着いて」

 美姫が興奮して奉生に話し掛けると、彼は美姫の手を引いて座席に座らせた。そして、中腰で立ち上がって周囲の乗客達に頭を下げた。

「おい、あの姉ちゃん、寝ぼけとんで」

 右側前方の通路座席に座っている関西人の男が隣席の女の肩を叩くと、連れの女は顔をしかめて美姫を睨んだ。そして、他の乗客達は口に手を当ててクスクスと笑った。

「あれっ?」

 奉生が客室の前方に目を向けると、二人の乗客が席から立ち上がってこちらを向いている姿が見えた。

(まずい、あんな所まで聞こえてしまったのか……まいったな……)

 奉生は前方を眺めながらゆっくり着席すると、心の中で美姫に話し掛けた。

(大声を出しちゃダメだよ)

(ごめんなさい。でも、余りにも衝撃的だったから、つい……)

(まあ、確かに衝撃的な予知夢だったな……えっ!)

(どうしたの?)

(君、声を出していないね)

(ええ、そうね。あっ、そうか! 私達、会話しているわね!)

(そうだよ、君はテレパシーも出来るんだ! これは凄いぞ、君は完全なテレパシストだ!)

 二人は振り向くと、互いの胸を指差して顔を見合わせた。

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