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第三章 ソロモンの印章

「これって、ホロスコープですか?」

「そうだよ、君のネイタルチャートさ」

「ネイタルチャート?」

「ネイタルチャートは生まれた瞬間の星の配置図なんだ」

「で、私の運勢ってどうなんですか?」

 美姫が興味津々な顔つきで奉生に尋ねると、奉生は「鑑定料は五千円になります」と答えた。

「えっ? 何よそれ、人の誕生日を勝手に聞いておいて、鑑定料を取るわけ?」 

「はい、商売ですから」

「はぁ、ちょっと期待しちゃったじゃない。バカみたい」

 美姫が奉生の返答に呆れてうなだれる。

「あはは、冗談さ、教えてあげるよ」

「もういい、怪しいから遠慮しとく」

 奉生がゲラゲラ笑うと、美姫は拗ねて横を向いた。

「まあ、機嫌を直して、君は極めて特殊な星の下に生まれているね。こんな特殊な星の配置を持つ人は一千万人に一人位だ。しかも、アスペクトのオーブが全てプラスマイナス一度以内のホロスコープなんて、僕も初めて見たよ」

「アスペクト? オーブ? それ、何ですか?」

 美姫が振り向いて、奉生の顔を見る。

「アスペクトは星と星が作る角度のことで、オーブは誤差のことなんだ」

 ※オーブは誤差の許容値。

「ふーん」

「それでね、そのアスペクトなんだけど、君のアスペクトは全てセクスタイルで形成されているんだよ」

「セクスタイル?」

「セクスタイルは星と星の角度がホロスコープ上で六十度の関係になることなんだ。君の場合、星と星の角度が誤差無しでピッタリと六十度の間隔で綺麗に六個並んでいるんだよ。この星の配置を占星術の世界ではグランド・セクスタイルって言うんだ」

「グランド・セクスタイル?」

「この特徴的な星の配置パターンは、ソロモンの印章とも言うんだけどね」

「ソロモンの印章? それって、どんな意味があるの?」

「悪魔を召喚する能力があるんだ」

「はぁ? 悪魔を召喚する能力?」

「エロイムエッサイムって呪文を唱える悪魔君だよ」

「なっ、何ですか? それ、冗談でしょう」

「あはは、君のその表情はいいね」

 美姫が少しびびりながら奉生の顔を見ると、奉生はまたゲラゲラと笑った。

 バシッ!

「痛っ!」

「もう、ちゃんと説明してよね。あなたちょっと意地悪ね」

「はい、分かりました。姫様」

 美姫が奉生の肩を左手で叩くと、奉生は真顔で美姫に答えた。

「ソロモンの印章と言うのは、上向きの三角と下向きの三角を二つ重ねた形状で、統合や統一を表すんだ。西洋魔術の世界では魔除けを意味する護符で、錬金術の世界では賢者の石を象徴している。悪魔を召喚する能力があるって言うのは嘘だけど、ホロスコープにグランド・セクスタイルが正確に刻まれたと言うことは、君には、もの凄い能力が備わっているんだよ。このパーフェクトフォーメーションを持つ者には神の意思が宿るんだ」

「私の人生は波乱万丈ってことですか?」

「まあ、簡単に言うと、そう言うことだね」

「そんなの嫌だわ、私、普通の人生がいいんです」

「それは無理だよ、神の意思だからね。受け入れるしか無いんだ」

「そんな……」

「僕だってそうなんだ……運命の様だね」

「運命?」

 美姫が首を傾げてきょとんとする。

「神の意思が僕達の仲間を呼び寄せているんだ」

「僕達? 仲間? 何のこと?」

「どうやら、君は一人目の人物の様だね」

「はっ?」

(何を言っているの? この人、やっぱり頭のネジが一本はずれているんじゃないかしら)

「変化がやって来るよ」

(また変なこと言ってるし、関わらない方がいいかしら? それに、この占星術は信用出来るの? もしかして、新興宗教の人? いえ、きっと極度の妄想家だわ)

 美姫がそう思うのは無理もない。特に神の意思だとか言う話はうさん臭い。

(試してみようかしら……あっ、そうだ。未来の事は分からないけど、過去の事を聞いてみれば、それが当たっているかどうか判断がつくわ)

「ねぇ、占い師さん。それって、過去の事も分かるの?」

 美姫が首を傾げて悪戯な視線で奉生の顔を下から見上げる。

「んっ? 分かるよ。何か聞きたい事があるの?」

「私のホロスコープでXXXX年七月二十三日午後二時三十分に何があったか教えてよ」

「XXXX年七月二十三日午後二時三十分……」

 奉生が日時を入力すると、PCの画面に三重円の丸い円盤が表示された。彼は画面を見つめて腕を組むと、もう一度、日時を入れ直した。

「七月一日からトランジットを追いかけてみるか……」

 ※トランジットは経過のこと。ホロスコープの出生図を進行、或いは逆行させて、未来や過去の状態を推測する。

 奉生がPCの画面設定を変更すると、三重円の内側に表示されている特殊な記号が左回りにゆっくりと回転し始めた。

 美姫が興味深そうに画面を見つめる。

 しばらくすると、左回りにゆっくりと回転していた特殊な記号がピタリと止まった。

「これは非常に危険な状態だ。トランジットの火星がネータルの冥王星をアフリクトしているし、トランジットの天王星はネータルの火星をアフリクトしている。そして、太陽と月がバーストして最悪のポジションか……機械、車、銃器、刃物、爆発物。突発的な事故か災害が発生した可能性がある。プラネットのアスペクトから状態を推測すると、これはどうやらテロの様だな。太陽と月が父親と母親の不運を示しているから、もしかすると君の両親は……」

 奉生が小声で呟きながらホロスコープの解読を続ける。

「何ですって……」

(当たっているわ、この人凄い。なぜ、そこまで分かるの?)

 突然、美姫の体は小さくガタガタと震え始めた。

「君、大丈夫か?」

 奉生が美姫の容体の変化に気付いて声を掛ける。

 美姫は「ええ、大丈夫よ」と答えたが、彼女の体は震え続けた。

(この娘の両親はテロで殺されたのか……)

 奉生はホロスコープのトランジット解析で、美姫の両親の死を悟った。

「これ着ろよ、落ち着くから」

「ありがとう……」

 奉生が革のジャケットを脱いで美姫の肩に掛けると、美姫は震えながら彼の体に寄りかかった。

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