第三話「リリー、少年に出会う」
第三話です。
ここでやっと本題に入ります。
そこは、この世とは思えないほど美しい場所だった。
綺麗な花畑に、その向こうには川にも関わらず花畑の中心にはこたつが設置されていた。
「ふぅ・・・」
老婆はお茶を飲んで一息ついた。
「ところで、リリーや。朝ご飯はまだかね?」
それに、リリーは微笑んで言う。
「やだ、おばぁちゃんったら、さっき食べたでしょ?」
「そうだったかね?」
「そうだよ」
そして、老婆は再びお茶を飲んで、一息。
「ところで、リリーや。朝ご飯はまだかね?」
「もう、だからさっき食べたばかりでしょう?」
「そうだったかね?」
「そうだよ」
「そうかい、ほっほほっ」
「ははははははは」
「お茶が美味しいねぇ」「そうだね」
「ところで、リリー」
「何?」
「そろそろ、おばあちゃんは行くよ」
「え?」
「お前もさっさと戻りなさい。お前の生きるべきところへ」
「お・・・・おばぁちゃん?」
祖母は、こたつから出て川に向かって歩き出す。
「そんな、どこへ行くのおばぁちゃん!?」
そこで、祖母は振り返って微笑む。
「三丁目の千チヨさんといけめん☆かーにばるーのに行く約束なんじゃ」
そのまま老人とは思えぬスピードで祖母は川を渡る。
「じいさんには秘密じゃよ~☆」
祖母は笑顔で手を振って去っていく
その声は、祖母の姿が見えなくなっても響いていた。
「おばぁちゃーん!!」
花畑の中に残されたのは、リリーとこたつだけだった。
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「どうしたものか・・・」
現在、彼は困っていた。
その理由は突如現れ、彼が思わず轢いてしまったソレにあった。
「これは・・・・新種の昆虫か?」
違います。
どうやら彼は昆虫と妖精の見分けがついていないらしい。
ちなみに現在、ここは彼の家の彼の部屋である。
登校中に「コレ」を轢いてしまった彼は、友人に助けを求めたがどうやら「コレ」はみんなには見えないらしく、不本意ながら「風邪でもひいたか?」なんて心配までされてしまい、現在に至る。
「まさか、本当に早退をする羽目になるとは・・・」
そして、視線を戻す。
先ほどから、ピクリともしていないのだが、もしかして死んでいるのだろうか?確かにこんなに小さなものを自転車で轢いてしまったのだ。生存率は低い。
だとしたら、その場合の対処に困る。これはやはり昆虫の部類でいいのか。
「うぅ・・・・・」
「あ、生きてた」
どうやら「これ」は生きているようだ。何か言っているが、小さいためよく聞き取れない。そのため耳を近づけてみる。
「お・・・・」
「お?」
「おばぁちゃん、それ・・・・・カーニバルちゃう。ホストクラブや」
「・・・・・・・えい」
「ゴフッ!」
とりあえず、うなされているみたいなので優しく?起こしてあげた。
すると、ふらふらと立ちあがった。
「こ・・・・ここは?私は一体・・・」
「生きてるか?」
「なっ、あなたは一体?私がいくら可愛いからってこんなところに持ちこむなんて破廉恥よ!」
「・・・・悪いが昆虫に発情はしないぞ」
「なっ、昆虫ですって!?どこの世界にこんなキュートな昆虫がいるというの!」
「違うのか?」
それに自慢げに、自己紹介。
「フッ、私の名前はリリー。見てわかるように妖精よ!」
「わかんねーよ」
彼が本などで知る妖精とは、明らかにかけ離れたリリーの性格に納得はしがたい。
(妖精って、もっと神秘的なもんだと思ってたんだがな・・・)
「こんな妖精はいやだな」
思わず本音が出てしまうほどにショックだったようだ。
「今なんて言った!?say once again!]
[それで、お前はなんであんなところにいたんだ?思わず轢いたぞ?」
「虫に因んで無視なのね!」
「急に道路に出てきたらびっくりするだろうが」
「どこまでも無視なのね!?まぁいいわ。私は対象者を探していたの。そしたら、突然意識を失って・・・」
「なるほど」
「そしたら、気が付いたら川の近くの綺麗なお花畑でおばぁちゃんと楽しくお茶を飲んで・・・」
「突っ込みどころ満載だな」
「そうよ!そしてらおばぁちゃんがホストクラブに行ってしまって、さらにこたつを片付けようと怖い鬼が現れて!」
「・・・・それで体は平気なのか?」
このままでは、彼女の話が永遠に続くと確信し、話を切り替える。
「平気よ!妖精は、たかが自転車に轢かれたくらいでは死なないわ」
「それは、よかったな?」
「ええ!たとえダンプカーであろうとへっちゃらよ!そもそも妖精は人には見えないから、事故によく遭遇するの。だからある程度頑丈にできてるのよ」
「それはある程度の域を超えてないか?」
「ええ。私の仲間もよく車に轢かれてるし、一日に三千匹の妖精が車に轢かれたり、人に蹴られていると考えてもらっていいわ」
それは、想像するととてつもないことになる。町に出ると、瀕死の妖精であふれているということだ。
「まぁ、見えない人からすれば妖精はいないようなもんだからな」
「ええ、そうね。見えない人間には・・・・・・ってあれ?」
そこでリリーは重大なことに気付いたと言わんばかりの顔で、彼を見上げた。
「あなた、私のこと見えてない?」
「今更すぎないか?」
「そして・・・・・もしかして、この電波は・・・・!」
ビビビビビビビビビ!
「うわぁっ、怖っ!」
突如、リリーは痙攣を始めた。その姿はとても絵にできない。
「今、電波を受信したわ」
「お前、妖精だよな?」
「そんな突っ込みは聞き飽きたわ。それより、あなたの名前は?」
「霧崎 京だけど?」
「そう・・・・」
そこで、リリーは真剣な顔で京を見た。
「先ほども言ったけど、私は妖精リリー。あなたの恋を成就させるためにきたの!」
そして、物語は動き出す。
因みに、車とかに轢かれても死にはしませんが、痛いです。
リリーが前回必死だったのは、痛いのが嫌なのとノリであんなことを言い始めただけです。