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夜光蝶

作者: はやとん

 一機の旅客機が羽田空港を飛び立つ。僕はそれを確認すると、空港を後にする。

 これはちょうど十年前の秋、僕がまだ東京に来て間もないことの話だ。街を怪しげに照らし出す繁華街のネオンが僕の目に新鮮に映る。東京という街は欲望と偽物の愛だとか友情だとかが溢れる街だと思った。結局のところ全部自分の為なのだ。結論を言ってしまえば、ごく単純だ。この街を理解するにはあまりに大きすぎるが、最初に感じた感覚は未だ間違っていないような気がする。

 僕の欲望は空白の心に吸い取られる。その空白を埋めるのは、精巧に作られた数枚の紙切れ。夜光蝶のように煌びやかなドレスを身にまとい、その職業独特のアップにした髪に香水、ネイル、ライター、そして嘘っぽい口調、そうすべて規格品である。といってもその規格品に癒しを求める僕もまた規格品ということかもしれない。そんなこと考えて東口へ歩いていたら、また頭痛がやってきたのでタブレットを二つ飲み込んだ。

 最終電車の時間まであと30分。僕は頭痛がひくのを待ちながら缶コーヒーを飲む。空を見上げても星は一つとして見えない。ただ、飛行機が点滅ライトを照らしながら、時々夜空をまたぐだけだ。

僕の前を一人の少女が通りかかる。化粧をしているから大人っぽく見えるけれど、まだ高校生ってところだろう。この時間にこんな繁華街にいたら補導されるのを知らないわけではあるまい。第一、交番がすぐ近くにあるというのに。僕はその女の子に声をかける。虚ろな目に不釣り合いなアイシャドーにチーク。また未完成な体はダイエットで悲鳴を上げているように見えた。彼女は田舎から飛び出して来たのだと言う。軽い言葉で言うところの家出ってやつだ。どうやら、持ってきたお金を使い果たしたので、この街で2週間程働いていたらしい。けれど、その仕事も辞めてきたと言う。というか辞めさせられたと。

 「ホントあの店長頭悪いと思うわ。私が17ってわかった途端、もう帰っていい、明日も来なくていい、だなんて。まだ働いて対して時間は経ってないって言ったって、私お店に貢献してると思うわ。歳のくったおばさんより売り上げあげてるのは事実じゃない。どーせ後ろにはそういう人がついてるんでしょ。なら警察なんて怖くないじゃない。違うの?大体、あと半年もバレずに働けたら、合法なのよ。二十歳になってなくてもお酒や煙草吸ってる人なんてわんさかいるじゃない。その人と何が違うのよ。体売ってお金稼ぐこと私悪いとは思わないわ。所詮、この体は私のものなのよ。他の誰のものでもなく私のものなのよ。それで、病気になろうが、他人には関係ないじゃない。私はそこまで覚悟決めてこの街に来たのよ。なのに、どうして、どうして・・・。」

 ひとしきり話終えたところで、帰る場所はあるのかと聞いた。あるわけないじゃないと彼女は答える。僕は今晩だけうちに泊まったらいい、そして明日の飛行機で実家に帰るんだ。空港まで送っていくからと言って彼女と一緒に帰った。外で遅い夕飯をとり、家路に着く。

 翌朝、僕が目を覚ますと、彼女は既に起きていた。

 「シャワー借りたわよ。勝手に借りてごめんなさいね。昨日の夜は素敵だったわ。私、片手で数えられるくらいしか男の人は知らないけれど、男の人に抱かれてあんなに安心したことないわ。やっぱりおやじに抱かれるよりずっといいわね。やつらホント身の毛がよだつくらい下等な生き物よ。」

 欲望を殺して生きていたんじゃ息が詰まる。でも、それじゃなければ人間ではない。結局僕ら動物なんだ。欲望の捌け口を探し繁華街を彷徨う人達は悪くない。誰も悪くなんかない。ただ、少し哀しい気がする。この空虚な感覚はなんだろう。その哀しさのわけを僕はまだ知らない。今更、別に考えることもないのかも知れない。そうだ、僕も動物なのだから。


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