ショートショート:古き良き頑固なエンジニア魂
「おやっさん、またそんな古いのをいじってんのかよ」
「馬鹿を言うなよ。こういうのは基本に立ち返ってシンプルな機構だからいいんだよ。最近のは色んなものがくっついて面白みがない」
「また出た。それ、何度も聞いたよ」
「ああ、何度も言ってるからなぁ」
「今のそれはなんだい?」
「こっちはガラクタ、これは見てわかるだろ、どこにでもある対消滅機関だよ」
「ああ~、話には聞いたことあるよ。次元変換すらない昔のやつ」
「ほれ、ここのコイルの形状。これを見たらすぐ分かる」
「おやっさんさぁ……そんなの見て分かるの、そうそういないって」
「何を言ってんだよ。三次元での基礎的なエントロピー促進エネルギー生成リアクターだぞ、教科書で習ったろ?」
「言われりゃそうだけど、そもそも三次元の物質からエネルギーを取り出すのが古くさいんだよ。平行宇宙から無限にエネルギーを引き出せるのにさぁ」
「あのなぁ?次元変換のデメリットとか排他条件とか、習ってるだろ?」
「知ってるってば。対象となる平行宇宙との距離次第で変換効率が下がるってアレだろ?そんなん特殊条件にもほどがあるって」
「そういうのを当たり前だとか起こりえないとか決めつけてると、いざというときに対応できなくなるんだ。一旦星系を出て外宇宙に入ったら、そういう事態の対処もできないと。そうじゃないと宇宙航行の安全が維持できんだろ」
「そういうのはパニックムービーでしか見ないって。現実には確率は低いしシステムの冗長性確保もあるし」
「そういうのも程度の問題ではあるが、備えがあるとないとでは違うもんだ。それはそうと、今日は何の用事で来たんだ?」
「あー!そうだった。おやっさん、ちょっとこれ見てよ」
「どれどれ……ふむ、貨物船の駆動系トラブルか。思ったより出力が伸びてなくて経済速度が落ちてる、と」
「そうなんだよ。うちのエンジニアに見せても取り立てておかしな箇所はないって言うし。これならアッセンブリー交換した方が早いよ、なんて言い出す始末でさぁ。大型船の機関をごっそり入れ替えるなんてそうそう簡単にできるわけがないじゃないか」
「わっはっは!最近は決まって全部入れ替えてしまえ、だもんな。細かいパーツの不具合とかチェックするのもタイパが悪いってか」
「笑ってる場合じゃないんだよ。社内でもどうするか揉めててさ、この際だから新造船と入れ替えるかって話にまでなっちまってる」
「もう少しよく見せてくれ。ふむふむ……ここがこうで……こうだろ……で、たいていおかしくなるのはこの辺で……」
「どうだい?なんか見つかった?」
「急かすんじゃないよ。ん?……稼働時のパラメータは見られるか?」
「それならこっちに。最近の航行時の出力波形とかもあるよ」
「おうおう、それそれ。……ああ、やっぱりなぁ」
「原因は分かった?」
「ちょっと分かりにくいところではあるがなぁ。蓋を開けてみれば結局基本的な話だよ」
「って言うと?」
「ほれ、ここ。再帰増幅回路のとこ。ここの効率が下がってんのよ。出力したエネルギーをフィードバックして戻して触媒に回してる部分」
「そう言われてもよく分からないって」
「リアクターの再帰増幅原理だっての。これも学校で習ったろ?」
「……そう言われるとかすかに聞き覚えがあるかも」
「全くよぉ。こういうのは世代が変わっても変化しない基礎の基礎なんだけどな。根本が分かってないと、こういうのも見逃しちまう」
「つまり、そこを直せばいいと?」
「現物を見なけりゃ正確なとこは分からないけどね、恐らくこれはリアクターをオーバーホールすれば何とかなるはずだ」
「うえー、機関部の大掃除って、ほぼやらかした奴がやらされる罰直じゃないか。ぞうきんで磨かされるの、もう二度とやりたくねえ」
「馬鹿野郎。そういうこまめなメンテナンスが大事なの。何でも自動で機械にやらせとけばいいやって、その根性が間違ってる。機械だって愛情を掛けてやれば長持ちするんだ、覚えとけ」
「でもまあ、機関部を這いずり回って清掃すれば回復できるってのなら金も掛からなくていいや。うちのエンジニア集めて対策を考えることにするよ」
「おう、そうしな。時間と手間は掛かると思うけどな」
「助かったわおやっさん!また何かおごるよ!」
「気にしなくていいぞ」
……
「ふう……あいつはもう行ったな。やれやれ、こいつが見つかったらヤバかった。今や違法となってる化石燃料と内燃機関、今時の若い連中は見ても機械のガラクタにしか見えないだろうけど、発覚したら終身刑だからなぁ。全く、内燃機関の良さを理解しない社会ってのはどうかしてるぜ。さぁて、それじゃキャブレターの清掃を続けるかぁ」




