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ENDER  作者: 147
9/10

リルはミラを背負い、集落の灯りを背に歩き続けた。

夜の闇が濃く、足元は枯れた草とひび割れた土だけ。

ミラの体重は軽く、骨の感触が背中に直接伝わってくる。

少女の息遣いは浅く、時折途切れる。

リルは歩幅を抑え、揺れを最小限に留めた。

「…重くない?」

ミラの声が、耳元でかすかに響く。

リルは答えず、ただ前を見据えた。

言葉を交わすほど、呪いが加速する。

それを知りながら、少女は静かに続けた。

「…ありがとう…リルさん」

胸の脈動は、速さを保ったまま安定している。

熱は引いているが、少女の存在に寄り添うように鼓動を刻む。

神の心臓は、終わらせるためのリズムを、静かに続けている。

荒野は広大で、丘が緩やかに連なる。

月は雲に隠れ、星すらぼんやりとしか見えない。

風が冷たく、ぼろ布の隙間から入り込む。

リルはミラの身体を布で覆い直し、歩みを進めた。

足音は土に吸い込まれ、すぐに消える。

背後の集落の灯りは、すでに遠く、小さな点にしか見えない。

一時間ほど歩いた頃、ミラの息が乱れた。

「…休んで…いい?」

弱い声。

リルは立ち止まり、近くの岩陰を探した。

低い岩が風を遮る場所を見つけ、ミラをそっと下ろす。

少女は岩に寄りかかり、息を整えた。

肌の色が、さらに薄くなっている。

髪の白さが、夜の闇に溶け込みそうだった。

リルは腰の袋から残りの干し果実を取り出し、一つをミラに渡した。

少女は受け取り、ゆっくりと噛む。

咀嚼の音が、静かな荒野に響く。

リルも一つを口に含み、視線を周囲に巡らせた。

追手の気配はない。

しかし、胸の脈動は、完全に止まらない。

断片同士の共鳴が、遠くで続いている。

ミラが、静かに言った。

「…予言の書に…書いてあった…」

「エンダーと鍵が…出会うと…世界が変わるって」

リルは視線を逸らした。

予言は嘘だ。

出会いは、終わりを加速させるだけ。

しかし、ミラは穏やかに続けた。

「…でも…私、変わった気がする」

「リルさんに…会えてから…少し、温かい」

リルは胸に手を当てた。

脈動が、わずかに乱れる。

それは、痛みではない。

別の何か。

感情の残滓が、封印を揺らす。

彼女は唇を噛み、言葉を飲み込んだ。

温かい。

それは、呪いの毒だ。

近づけば、少女の存在を溶かす。

夜が深まる。

リルはミラを再び背負い、歩き出した。

足取りは変わらず、ゆっくりだった。

荒野の風が、二人の影を長く伸ばす。

背後から、かすかな煙の匂いが漂ってくる。

集落の焚き火か、それとも追手の松明か。

リルは振り返らず、前だけを見た。

胸の鼓動が、旅路の伴奏のように響く。

神の意志が、静かに二人の終わりを導いている。

だが、今は、まだ。

夜の荒野は、二人を優しく、残酷に包み込んでいた。

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