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ENDER  作者: 147
5/10

リルは丘の反対側を下り、川床から離れた。

風が背中を押し、足取りをわずかに速める。

胸の脈動は、男の影が遠ざかった後も、完全に収まらない。

熱は引いたが、微かな振動が残っている。

それは、断片がまだ繋がりを失っていない証拠だ。

リルは唇を噛み、歩みを続けた。

日が傾き始め、空の灰色が濃さを増す。

前方に、低い丘の連なりが見えてきた。

その麓に、ぼんやりとした灯りが点在している。

集落だ。

煙の匂いが、風に乗って強くなっている。

焚き火の臭い、焼いた木の香り、かすかな肉の焦げた臭い。

人間の生活の痕跡。

リルは立ち止まり、距離を測った。

丘の頂上から見下ろせば、集落の輪郭がはっきりする。

小さな家々が十数軒、粗末な柵で囲まれ、中央に井戸がある。

人影はまばらで、動きは緩やかだ。

夕餉の準備をしているのだろう。

水が必要だった。

食料も、残りはあと一日分。

リルはフードを深く被り、集落の外縁へ近づいた。

直接入るつもりはない。

井戸の近くに、捨てられた桶や水溜まりがあれば、それで足りる。

人間に近づかず、触れず、視線を交わさず。

丘の斜面を下り、枯れた灌木の陰に身を寄せる。

集落の灯りが、ぼんやりと彼女の顔を照らす。

リルは息を潜め、井戸の位置を確認した。

石組みの縁に、水が少し残っている。

桶は置かれていないが、手で掬えそうだ。

胸の鼓動が、再び速くなった。

今度は、集落の方向から。

リルは目を細め、井戸の近くを観察する。

人影が一人、井戸のそばに立っていた。

小さな影。

子供か、少女か。

ぼろ布をまとった細い身体が、井戸の縁に寄りかかっている。

動かない。

倒れているようにも見える。

リルは視線を逸らした。

関わらない。

近づけば、呪いが動き出す。

しかし、胸の熱は増すばかりだ。

断片が、反応している。

少女の近くに、何かがあるのかもしれない。

少女は、ゆっくりと身を起こした。

顔は見えないが、髪が白く抜け落ちているのが分かる。

病弱な様子で、井戸の縁に手をかけ、息を切らしている。

リルは歯を食いしばった。

見なかったことにする。

水を掬い、すぐに去る。

だが、足が動かない。

少女が、こちらを見た。

いや、見たわけではない。

視線が交わったわけではない。

ただ、少女の身体が、わずかにこちらへ傾いた。

まるで、何かに引き寄せられるように。

胸の脈動が、痛みに変わる。

リルは後退しようとしたが、灌木に足を取られ、わずかに音を立てた。

少女の頭が、ゆっくりとこちらを向く。

リルは息を止めた。

少女の瞳は、淡く濁っている。

病のせいか、それとも──。

少女は、かすれた声で呟いた。

「…誰か…いるの…?」

声は弱く、風に消えそうだった。

だが、リルにははっきりと届いた。

胸の鼓動が、最大限に速くなった。

神の心臓が、少女の存在に反応している。

それは、終わらせるためのものだ。

リルは目を閉じ、深く息を吐いた。

白い霧が広がり、灌木の葉を薄く覆う。

まだ、終わらせたくない。

だが、世界は、静かに彼女を試し始めていた。

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