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ENDER  作者: 147
4/10

リルは川床の窪みに身を沈め、息を殺した。

影は動かない。

丘の稜線に留まったまま、風に揺れる枯れ草のように静止している。

しかし、胸の鼓動は嘘をつかない。

熱が指先まで伝わり、再生の力が皮膚の下で蠢いている。

それは、近づくものを終わらせるための準備だ。

彼女はゆっくりと後退し、川床の曲がり角へ移動した。

土壁がわずかに身を隠してくれる。

視線を上げ、丘を観察する。

影はまだ一つ。

先ほどは複数に見えたが、錯覚だったのかもしれない。

風が強く、埃が舞い、輪郭をぼやけさせている。

リルはフードを深く被り直し、左手を胸に当てた。

脈動を抑えようとするが、無駄だった。

断片は、宿主の意志など関係なく反応する。

神の最後の意志が、そこに宿っているからだ。

遠くから、低い話し声が風に乗って届いた。

言葉は聞き取れないが、焦りを含んでいる。

「…脈が…」

「…近い…」

断片同士の共鳴。

彼らも、エンダーだ。

少なくとも、一人は。

リルは歯を食いしばり、選択を迫られた。

このまま隠れていれば、見逃される可能性がある。

だが、胸の熱は増すばかり。

逃げても、追われるかもしれない。

彼女は深く息を吸い、吐いた。

白い霧が広がり、川床の土を薄く覆う。

その霧は、呪いの最初の兆候だ。

近づく者がいれば、すぐに色が失われ、記憶が薄れる。

リルはそれを望まない。

だからこそ、誰も近づかせない。

影が動き出した。

ゆっくりと、丘を下り始める。

一歩、また一歩。

足音はまだ聞こえないが、土を踏む気配が伝わってくる。

リルは体を低くし、川床の奥へ移動した。

曲がり角を抜けると、そこに古い崩落跡があった。

岩が積み重なり、狭い隙間を作っている。

彼女はそこへ身を滑り込ませ、息を止めた。

隙間から外を覗く。

影は川床の対岸に到達していた。

ぼろ布をまとった男だ。

顔はフードで隠れ、手に長い杖のようなものを握っている。

杖の先端に、何かが輝いている。

断片か、それともただの金属か。

男は立ち止まり、周囲を見回した。

視線が、リルの隠れた方向へ向く。

胸の鼓動が、最大限に速くなった。

熱が痛みに変わる。

リルは唇を噛み、目を閉じた。

終わらせたくない。

終わらせたくない。

繰り返す言葉が、頭の中で響く。

男は動いた。

杖を地面に突き立て、膝をついた。

何かを探しているようだ。

やがて、低い声で呟いた。

「…ここか」

リルは息を詰めた。

見つかった。

再生の力が、皮膚を熱くする。

傷ついても、すぐに癒える。

だが、それは同時に、相手を終わらせるための力でもある。

男は立ち上がり、再び歩き出した。

しかし、方向はリルの隠れ場所とは逆。

川床を上流へ向かっている。

リルは目を細め、男の背中を見送った。

胸の熱が、ゆっくりと引いていく。

去ったのか。

それとも、迂回しているのか。

リルは隙間から身を抜き、反対側へ移動した。

丘の反対側へ回り込み、距離を取る。

足音を殺し、風に逆らって歩く。

だが、胸の脈動は、完全に止まらない。

まだ、どこかで繋がっている。

断片は、互いを引き寄せる。

神の意志が、終わりを求めている。

リルは歩みを速めた。

日常は、もう少しだけ続く。

だが、世界は、静かに動き始めていた。

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