動
灰色の空の下、リルは石碑の陰から身を起こした。
夜の冷えがまだ骨に残る中、彼女はぼろ布の裾を払い、埃を落とした。
動作は機械的で、無駄がない。
周囲に人の気配がないことを確認し、ゆっくりと歩き出した。
枯れた川床が、かつての街道に沿って広がっている。
ひび割れた土に、白い骨片が点々と残る。
リルは川床に降り、足元を確かめながら進んだ。
靴底が土を踏む音は、乾いた紙を破るように小さく響く。
喉が渇いていた。
水筒の底に残ったわずかな水を一口含み、飲み下す。
味は土と鉄の混じった、かすかな渋み。
彼女は水筒を腰に吊るし直し、視線を前方へ移した。
胸の脈動が、昨夜よりわずかに速い。
それは単なる鼓動ではなく、何かを予感させるものに変わりつつあった。
リルは無意識に左手を胸に当て、布越しに熱を感じた。
神の心臓の欠片は、静かに、しかし確実に反応している。
川床の中央で立ち止まり、空を見上げる。
雲は低く垂れ込み、風が枯れ草をざわめかせる。
その音の中に、遠くから微かな煙の匂いが混じっていた。
昨日より濃い。
集落か、焚き火か。
リルは鼻を軽く動かし、風の向きを確かめた。
東から来ている。
腹が減っていた。
腰の袋から干し果実を一つ取り出し、口に含む。
甘さは薄く、酸味と渋みが舌に残る。
咀嚼しながら、彼女は目を閉じた。
自分の息遣い、咀嚼の音、胸の鼓動。
それ以外に、何も聞こえない
はずだった。
突然、胸の脈動が強く跳ねた。
リルは息を詰め、手を胸に押し当てた。
鼓動は不規則に速くなり、熱を帯びている。
これは、断片が反応している証拠だ。
誰かが、近づいている。
あるいは、何かが。
視線を上げると、川床の対岸、丘の稜線に影が動いた。
一瞬だけ。
人影か、獣か、それとも風に揺れる枯れ木か。
距離があり、はっきりしない。
だが、胸の熱は嘘をつかない。
リルは身を低くし、川床の窪みに隠れた。
心臓の鼓動がさらに速くなる。
再生の力が、勝手に目覚めようとしている。
彼女はそれを抑え、深く息を吐いた。
吐息は白く霧のように広がり、草の先を薄く覆った。
影は動かなくなった。
ただ、丘の上に留まっている。
リルは歯を食いしばり、選択を迫られた。
このまま進むか、迂回するか、それとも
胸の脈動は、静かに、しかし確実に、速さを増していた。
世界は、もう静かに待ってくれないのかもしれない。




