5通目 コーヒーの香りするあなたへ 前編
手紙を渡したあの日から数日が経った。
あれから私は喫茶店に立ち寄れずにいた。
もしかしたら、あの手紙で彼を困らせる事をしてしまったんじゃないか、いい返事を貰えないんじゃないか。
悪い想像ばかり膨らんでしまって、店に行く勇気を出せずにいた。
喫茶店に行けず、自分で淹れるコーヒーは苦いばかりだった。
胸の奥に残った少しの勇気を振り絞って店の近くを通ると、私が好きなあのコーヒーの香りがしていた。
香りに誘われるように店に近づく。
通りの角を曲がると控えめに出ている店の看板が目に入った。そして、その看板の横に店の入り口を掃除している彼の姿を見つけた。
心臓が一際大きく脈を打った気がした。
店に近づく歩みを止めかけた私に、地面から目線を上げた彼が気がついたようだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
手紙を渡されてから数日、彼女は店に来なかった。
すぐに返事をしたくて来るのを待っていたのだが、彼女の姿は店になかった。
それでもまた彼女が来てくれると信じて、彼女の好きなコーヒーを用意して待っていた。
開店準備の為、店の入り口を掃除する。ほうきで掃いてちりとりで集めたゴミを取っていく。
ふと顔を上げた先に待っていた彼女の姿があった。
彼女に気づいてほしくて体いっぱいに腕を伸ばして手を振る。
少しはにかんでいる彼女に近づいて声をかける。
「いらっしゃいませ! いつものコーヒー淹れますね」
いつもの笑顔を見せてくれた彼女を店に案内した。




