青春
練習用の掌編。
高校生最後の大会、サッカー部のエースであるカズマは、自分の右膝を強く握りしめた。
鋭い痛みを抑え込む様に。
痛みは増すばかり。
しかし無様な姿を見せる訳にはいかない。
覚悟を決めて視線をあげる。
延長の末のPK戦。
ゴールの前に立ちはだかる、相手チームのキーパーは殺意に似た闘気を纏っている。
満員の試合会場は静寂に包まれていた。
自分の心臓の鼓動だけが、カズマの鼓膜を打つ。
背後からは、長年共に汗と涙を流してきたチームメイトが無言のエールを送っている。
仲間たちの勝利を信じる熱い眼差し。
泣き言は言ってられない。カズマは気合と共に立ち上がり、8番の背番号と共に揺るぎない信頼を背負う。
その瞬間、沸き立つ闘志。地面から両足に伝わる、確かな重み。
最早、痛みなんか感じない。カズマはボールへ向かって走り出す。
決める……! 勝つのは俺たちだ!
振りぬく全力の右。
ボールに触れた瞬間、これまでの学園生活が走馬灯のようにカズマを包み込む。
カズマは胸を熱く焦がす、電流のような感情を強く嚙み締めた。
放たれたボールが、ゴールネットを打つ。
ピリィィィィィィーーーーーーーー!!
同時に、試合終了のホイッスルが静寂を割った。
次の瞬間、轟くようなオーディエンスのかんせいがあがる。
一斉に駆け寄ってくるチームメイトたち。
カズマは、高く拳を突き上げた。
涙よりも、笑顔が溢れた。




