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第二話 公安とおかっぱ

行くってどこにだ。

俺、今作業服だし、荷物とかも家に置いてある。


「行くってどこにだよ。まず俺の家の荷物はどうすんだよ」


「警視庁本部庁舎だ。荷物はあとで部下に必要なものを言え。持って来させる」


必要なものなんてない。全部価値のつかないものばっかだ。


「今、迎えが来る。少し待ってろ」


男がそう言った瞬間、奥から黒塗りのセダンが現れた。


俺と男は車に乗り込んだ。俺はいつも乗ってる東武東上線のボロ電車とは違う移動手段に、ちょっと興奮していた。


「自己紹介がまだだったな。私は国家公安委員会委員にして、磯井派遣会社副代表の鳥居 健だ」


おい、磯井派遣って……俺がいつも仕事もらってるとこじゃねえかよ。でもそんなとこの副代表ってことは

こいつ、警察じゃねえのか?


「運転手兼秘書の金村です!」


鳥居ってやつとは対照的に、金村ってやつは元気な女子大生って感じだった。あと、かわいい。


「俺は飛鳥井 蓮です」 どうせもう調べてるだろうけど、とりあえず名乗っておくか。


「知ってる。で、飛鳥井くん。君は自分の先祖について調べたことがあるか?」


俺の先祖? あるわけないだろ。今の暮らしから想像するに、どうせ農民とかだろ。


「ないですけど」 俺は正直に答えた。


「じゃあ私から話そう。君の先祖は——日本の貴族だ」


貴族? 俺が? いやいやないない。だって俺の家は大々貧乏って聞かされてきたし。


「それはないです。第一俺の今の仕事知ってますか?」


「知っている。まあこれと言って業務に関係はないんだが。これから君に頼む仕事の内容をここで軽く説明しておく。金村」


「はい!私たちの仕事は簡単に言うと黄泉の国に行き、歴史人物の怨霊と戦ってもらうことです!」


「黄泉の国?」俺は高校中退だぞそんなこと言われてもわかんねえよ。


「黄泉の国というのはですね簡単にいうと死後の世界で我々の部署国家公安委員会日本史預(にほんしあずかり)は日本の歴史の人物の怨霊を退治するというものです!」


「おいおいちょっとよく話が入って来ないぞ!大体それって死ぬ可能性もあるんじゃないのか!?」


「飛鳥井くん。君はさっきわかったと言ったよね」


「言ったけどこんなことやるって聞いてないぞ!」俺はまだ死ねない。両親の治療費を払わないといけない。


「飛鳥井くん。君の父親は東大の法学部だよね」


「はいそうですけどそれがどうかしたんですか」


俺の父親は会社を営んでいて親父が倒れるまではそれなりに裕福だった。父親に比べられて劣等感を感じていたから今ここでその話をされると余計に腹が立つ。


「私と君の父、雅親くんは一つ下の後輩でね。大学の時は彼に色々教えていてね。それだけに君のいまの現状にも思うところはある」


「私が君を今回誘ったのは私情も入っている。だから頼む雅親くんと彼の妻、由美さんを助けてやってくれ」


鳥居は頭を深く下げた。


「あんたほんとにこの借金全部返せるんだろうな。今の俺には両親を助けるにも借金を返すにも多額の金が必要なんだよ!あんたさっき俺の借金額見ただろ」


鳥居は俺の涙ぐんだ目に目線を合わせて真剣な表情で


「君の頑張り次第ではいくらでも報酬は上げられる。実際日本史預の中でもトップは一億円以上もらっているやつもいる」


「それ本当なのか、、」


俺は一日1万稼ぐのがやっとだったのもあって一億という金額に正直震えていたし、実際それ以上の金が必要な俺にとっては好都合だ。


「本当だ。ではもう一度聞く。飛鳥井蓮。君はやるのか、やらないのか!」


その時俺は鳥居の冷静な雰囲気からは想像できないくらいの声量に圧倒された。 正直俺は迷った。当然だ借金と同じくらい自分の命も重いからだ。でもやるしかねえ。俺が借金を返すにはこの方法しかねえんだ。


「やります..」 「声が小さいぞ!飛鳥井!」


「やリます!」気づいたら俺の目から涙が滝のように流れていた。そりゃそうだ自分の命を投げ出す覚悟で返事をしたからな。 その涙に反射した光がやけにキラキラしていて窓の外を見渡すと、な俺がさっきまでいた住宅街ではなく東京の大都会のビル群の中にいることに気づいた。


「鳥居さん!本部につきました!」


「よしじゃあ蓮降りろ」


(え、ここ?)


俺が見上げるとそこには刑事ドラマで見たことのあるビルがあった。


「蓮。これが警察庁本部庁舎だ」


鳥居さんはいつの間にか俺のことを蓮と呼んでいた。


俺のここ数年の人生を踏まえるとこんなところに来れただけで感動だった。


俺は鳥居と金村さんに連れられて中に入った。警察の本部なだけあって中の雰囲気は俺がいつも働いている現場とは数段上の緊張感があった。


「じゃあ金村後は蓮を頼んだ」


「はい!」


「鳥居さんは来ないんですか?」


俺は鳥居さんに来てほしい。俺を初めて認めてくれた人だ。


「私はこれから役員会があってね。また次会えることを楽しみにしているよ」


まあ少し悲しいが考えてみれば当たり前のことだろう。相手は東大卒の大企業役員。俺はその一番下で働く高校中退のただの日雇いバイト。


「飛鳥井さんこっちです!」


俺が金村さんに連れられてエレベーターを出た先には何やら長い廊下に日本では見たことないアサルトライフルを持った自衛隊員と思われる人たちが何人も壁に沿って一直線に並んでいた。


その先には重厚な金庫のような扉。 金村さんは屈強な自衛隊員が並ぶ一直線の廊下を淡々と歩いていった。


「何してるんですか?こっちですよ!」


「あっはい!すみません」


言っておくが俺は童貞だ。女性との会話は今まで片手で数えられるほどしかして来なかったのにいきなりこんな美少女とこの展開は心臓にくる。


いよいよ扉の前にきた。正直このレベルだとは思わなかった。


(アットホームな職場で頼むぞ、、)


俺がそんな呑気なことを考えていると扉が開いた。


扉の先には、見たことないくらい高そうな机と窓の外を向いた椅子がだだっ広い部屋の中にポツンとあった。


「金村ただいま戻りました!」 そう金村が言うと、窓の外を向いていた椅子がこちら側に向いた。


薄暗くて顔ははっきりとは見えないが、目に眼帯をつけたおかっぱの美少年がこっちに向かって話しかけてきた。


「初めまして飛鳥井くん。僕は国家公安委員会直属の日本史預鎌倉改帥(あらためのそち)近衛雷だ」


(おい。一体誰なんだよこいつ)

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