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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
ピタゴラスって知ってる?音律を作った人だよ!えっ?ピタゴラスのていりって何?
99/114

99・世界は絶望(数学)に支配されている……?

「今日こそはひとりで勉強するぞ……!

 羽多野さんとの夏祭りに、熊谷の応援、鷹田とバンド活動、後は『焼肉会』もする予定だから……! 期末試験は落とせないんだ! 絶対に!!

「テルくん、晩ごはんの用意ができましたよ」

「あれえええ!?」

 上井先生の家に帰ってから気合を入れて勉強を始めるはずだったのに、なんで!? 時間がいつの間にか経ってたの!?


「おや? バイオリンの練習をしていたのですよね?」

「えっ!? 俺、いつの間にかバイオリン弾いてました!?」

「ふふ、テルくんは不安になると練習して落ち着こうとしますからね」

「そうなんですか!?」

「ええ、そうなんです。さ、まずは食事にしましょう」

「は、はいー……」


 そんな……俺ってやっぱり勉強できないの……?

 どうしようどうしようどうしよう……


 バイオリンをケースに仕舞ってダイニングへ行く……

 今日も上井先生が用意してくれて美味しそうなご飯だけど、いただきますをしてから口にしても上の空で味があんまりわかんない……


「この後はピアノのレッスンですが、とても捗りそうですね」

「いえ……でも勉強……あ、コンクールもあるのでレッスン大事ですね……」

「まずは目の前の事に集中です。不安で食事を疎かにしたら頭も体も上手く働きませんよ」

「は、はいー……」


 1日の時間がもっと長かったら、あるいは時間を停められたらいいのになー!!

 そうじゃなくても急に頭が良くなったりしないかな……えーん!

 ともかくパパっと食べ終えてレッスンやらなきゃ!


「テルくん、よく噛んで食べないと消化に悪いですよ」

「いえ……時間が大事ですから!」

「しっかり噛んで食べると勉強にも効くそうですよ」

「本当ですか!? じゃあたくさん噛みます!」


 モグモグモグモグモグモグモグモグ……………


「ふふふ、テルくんがいくつになってもそういう所は可愛らしいですね」

「?」

「放っておいたら100回でも噛んでいそうですが、多くても30回で大丈夫ですよ。それと、噛むだけでは頭は良くなりませんからね?」


 ……残念。



 ――



 食後に上井先生とのレッスン。本番は数日後だから、ほぼほぼ仕上がっている。通しで演奏して思い通りの表現ができているか確認したりしている。


「課題としてはこの辺りでしょうか。ニュアンスが繊細なので音の重さをよく意識しましょうね」

「はい。コンディションで変わっちゃうの自覚してます……」

「一貫性という意味でも重要なのでがんばりましょうね」

「はい!」


 ……


「さて、今日のレッスンはこの辺りにしておきましょう。先に私は入浴してきますので、その間は自習をしてください」

「わかりました! 今日もありがとうございます!」

「それでは」

 上井先生は部屋を後にする。俺はそのままピアノの練習を続ける。


 ちなみに今、俺が練習しているのは前と変わらずベートーヴェンのピアノソナタ。繰り返し同じ説明をしてもなんだから、別の観点で語ってみようと思う。


『古典派音楽はベートーヴェンで集大成を迎えた』と言われている。

 これがどういう事かというと、多くの人たちが積み上げたクラシック音楽の理論の下でめちゃくちゃスゴい曲が作られ、それを聴いた他の人たちは『同じ土俵で勝負しても勝てないなこれ……』と思う程だったって事だ。(ここからロマン派音楽の流れができるとかあるんだけども、その説明は保留)

 クラシックには作法みたいなものがあったり、こうしてこうしてこうしたら最高! みたいなお決まりがあったりする。ひとつひとつの音に意味があり、計算され洗練されたそれは建築物のようだって俺は例えてる。


 そう、ネジひとつ変わるだけで意味合いが変わるから……一貫した表現のために、全体を捉えつつひとつひとつの音を大事に演奏できるようにしたいんだ。


 ……


「なるほど、ここをマイナスに書き間違えておかしくなっていますね」

「そ、そういうわけだったんですね……」

「ふふ、ケアレスミスですね」

「ありがとうございます……」


 お風呂も終えた後、上井先生に数学の勉強を見てもらう。


「というか、上井先生やっぱり数学もできるんですね」

「いえいえ、教養程度で教科書を見て思い出しながらですよ」

「それでもすごいですよー……大人になったら数学やらないで済むといいなぁー……」

「おや、ピタゴラスや音律の話は忘れてしまいましたか?」

「あっ! ピタゴラスが数学の人なのは昨日知りましたよ!」

「それ以外も音楽に数学は関わりがありますからね」

 そういって上井先生は次の式を書く。


 2^n/12


「これは平均律の求める為の数式ですね。テルくんは調律する時、いつもどうしていますか?」

「バイオリンなら基本的にA線を442ヘルツ、指定があればそれに調律してから、他のが綺麗に鳴るようにやっています」

「指定のある場合は他の線にチューナーは使いますか?」

「チューナー通りにするとなんだか変な感じがするので、A線に合わせて気持ちよくなるようにします……よね?」

「ええ、テルくんならそれで構いません」

「よかったー……!」

「A線を442ヘルツに調律したなら、E線は663ヘルツが一番綺麗な和音になりますね」


 数字で言われるとフワッとしちゃう、けどもへー!


「しかしながら平均律で示すと1〜3ヘルツ程変わります。そこに唸りを感じてチューナー通りにするとテルくんは違和感を感じるんですね」

「和音が綺麗に鳴るようにするのが純正律でしたっけ?」

「ええ、その通りです。特定の和音が4:5:6になるように調律する方法ですね」

「世の中、純正律にできたら色々良いですのにねー」

「ふふ、しかしそれができないのもまた妙ですよね」

「転調すると酷い事になりますもんね……」

「ええ、それは他の音同士の和音の比率が犠牲になるからですね」

「だからほんの少しの響きを犠牲にして平均律……なんですよね」

「ええ、ピアノのような定音楽器ではそうせざるを得ない訳ですね。逆にバイオリンのような作音楽器はそれに縛られませんが音を聴き耳を育てる必要があるんです」

「基本的には気持ちよくなれば良いんですよね!」

「ふふ、そういう事にしておきましょう」


 ピアノでのそれぞれのヘルツの決め方って数学で出来ていたんだなぁー。


「他にも金管楽器の音には数学がわかりやすく関わってきます。B(シ♭)のヘルツを2倍にした時の音は?」

「あー……えーっと……B(シ♭)です!」

「テルくんの答えはA(アー)E(エー)とBでよろしいですか?」

「違います! Bです!B!」

「ふふ、つい意地悪してしまいましたが、Bで正解です」

「倍になるならオクターブ上がるだけですもんね!」

「では、3倍なら何になりますか?」

「ん……!? 3倍ですか……!? んー……えっとー……」

E(エー)と?」

「違いますよー!考えてるだけですよー!」

「ふふ、ではヒントを差し上げましょう。3倍した後に2で割るとどうなりますか?」

「えっ、えっ……1.5……あ!だからGですね!? いや、B(シ♭)だからFファだ!」

「正解です。では、B♭トランペットでピストンを押さないで出せる音を順番に挙げてください。inBでいいですよ」

「それは簡単ですよー! CGCEGC……ハッ!ピタゴラス!!」

「2倍でC、3倍でG、4倍5倍6倍でCEGドミソ。金管楽器は基音から倍にした音が出るんですね」

「ちゃんと考えた事無かったんですけども……言われたら確かにそうなんですね!」

「ええ、そういう訳で音楽には数学が関係しているという話でした」

「わー……そうなんですね……」


 ……いつもだったら音楽に関係してる事だったら知れた事に跳ねて喜んでるはずなんだけども……

 知れて嬉しいなぁっていう気持ち以上に別の気持ちがある……


 数 学 か ら は 逃 れ ら れ な い

 絶 望 感


 目の前の数学の勉強が音楽の勉強だったらいいのになぁ……



 ――



「ノンノーーン! 勉強教えてやー!」

「おー、渋谷さんも勉強会に久しぶりに来たなー」

「熊谷に呼ばれて来たけど、D高校レベルじゃヤバい系の問題来てたな」

「新井くんはやっぱり普通にできる? 私もちょっと難しくてさ……」

「コンちゃんにはタカダンがいるやろー!」

「鷹田は忙しそうにしてるから、その前にちゃんと勉強しとこうって思ってね」

「えと……よろしくね……」


 今夜の勉強会にいつもの皆が大体集まっている。本当ならワクワクしちゃうんだけども、今日はそんな事言ってられない……勉強、勉強しなくちゃ!!


「あーそういえば大丈夫かなー?羽多野さんはー」

「え……なんだろ……?」

「ほらー、馬園とかにも頼まれてたのがさー」

「あ、うん……マイナスくんに向けて……纏めてたのがあって……えと……よかったら見てほしいなって……」

「羽多野さん……!本当にありがとう……」

「ううん……!大丈夫だよ……!とりあえず……送るね……」


 グループチャットにファイルが送られてくる。


「あ、でもね……原田先生の小テスト見ると……ちょっと足りなさそうで……」

「うわー……これはめちゃくちゃわかりやすいなー。普通に売ったら売れる系でしょこれ」

「いやウチにはムズいってー!」

「原田先生の授業の内容もわかりやすい気がしてたけど、もっとわかりやすくするとこうなんだね」

「う、うん……マイナスくんがわかるようにする為にがんばってみてて……」

「愛やな……愛や!」

「バンド、がんばってほしいからね……」

「この間のライブよかったもんなー」


 うぅ……羽多野さんもそうだけど、ライブに来てくれた皆の事もすごく嬉しい……ありがとう……


「そろそろ……始めようっか……?それでなんだけどもね……」


「マイナスくん、ベースを1回置こうっか……?」

「えっ?」


 俺、いつの間にかずっとベース触ってた。

数学が好きです。


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