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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
ピタゴラスって知ってる?音律を作った人だよ!えっ?ピタゴラスのていりって何?
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97・期末の始まり

 1オクターブ上がると周波数は2倍になる。例えば、弦の中間を押さえれば1オクターブ高い音だ。

 1オクターブは12の音階に分かれている。どうして12の音階なのかというと、和音が関係してくる。和音はその音同士の比が単純だと綺麗に聞こえる性質がある。

 例えば、ド・ミ・ソは4:5:6の割合になっているから綺麗に聞こえるという事になる。現実的にはそうではないけども、説明が長くなり過ぎるのでそこは省略。

 そして、その割合の法則で1オクターブを分けると12となる。


 この割合を見つけたのはピタゴラスで、それが礎となって現在も12の音階で曲は作られている――


「だから、ピタゴラスって音階を作った人だよね」

「わぁ……知らなかった……ピタゴラスの定理だけじゃなかったんだね……」

「もしかして、ピタゴラスのてーりと同じ人なの?」

「うん……ピタゴラスって言えば数学の方が有名かなぁ……?」

「し、知らなかったー!!」


 ピタゴラスって音楽の人じゃなかったんだ!? むしろ、俺の苦手な数学の人だったんだ!?


「ふふ……マイナスくんって音楽の知識はすごいのにね……」

「えへへ、好きだから……」

「あ……じゃあ、ヘルツ……ってわかるよね?」

「おう! ヘルツは周波数の事で、1秒間に揺れる回数を示してるよ!」

「ヘルツを名付けた人は……?」

「ハインリヒ・ヘルツ!」

「職業は……?」

「音楽の人かな?」

「えっとね……物理学者なんだって」

「え、ええーーっ!?」


 当たり前に使っていたものが、実は数学や理科の賜物だったなんて思いもよらなかった……

 波多野さんが楽しそうに笑う。


「どうかな……? これで……数学や科学に……少し興味が湧いたんじゃないかな……?」

「そ、そうかも……なんだか世界の見え方が変わったような気がする……」

「よし……それじゃあ……期末試験突破のために……がんばろうね……!」

「おう……! 今日もよろしくお願いします! 波多野さん!」


 ビデオ通話越しの勉強会は今夜も捗る。



 ――



 朝、目が覚めたらまずはカーテンを開けてから着替える。

 もう少し寝ていたいなぁって気持ちはあるけども、何も考えずにルーチンでこなす。

 部屋を出れば、キッチンから良い匂いと気持ちいい音がする。


「おはようございます。上井先生」

「おはようございます。テルくん」

 今日も俺は上井先生の家にお世話になっている。


「今日の朝ご飯も先生の手料理なんですね!」

「ふふ、火にかけたり炒めたりしているだけですよ。さ、顔を洗ってらっしゃい」

「はーい!」


 上井先生は俺の小さい頃からずっと音楽の家庭教師をしてくれていて、海外を巡っているパパとママの代わりに色々と面倒をみてくれる保護者みたいにもなっている。

 俺が高校で色々と忙しい時には今日みたいに先生の家に泊まらせてもらったりもしている。

 普段はスーツでビシッと決めている人なのだけども、エプロンだったりスウェットだったりを着ている姿を見れるのはなんだか新鮮だ。


 顔を洗ったりしてからキッチンに戻れば、朝食の用意ができている。

「さ、席に着いてどうぞ」

「はーい!」

 いただきます、と手を合わせてから朝ご飯に手を付ける。


「勉強の方はいかがですか?」

「期末試験の事ならギリギリになりそうで……」

「試験は来週でしたよね」

「はい。落とす訳にはいかないのでがんばらなくちゃですね……」


 期末試験を落として補習を受けることになったら――

 予定に差し支える事になるからと高校を転校する約束を先生としているんだ。

 もう、だからこそ夜の波多野さんとの勉強会は重要な時間なんだよね。


「そういえば――いつも勉強を教わってるお礼に今度、夏祭りへ一緒に行く予定なんですよね」

「おや、それは楽しみですね」

「はい! 絶対に期末試験がんばるとして、できたら何か演奏をプレゼントしたいなぁって思ってるんですよー」

「演奏をプレゼントですか。物ではなく?」

「物だと俺のセンスは信用できない、ってカナに言われて、そのとおりだなぁって思って」

「なるほど。カナさんらしいですね」

「カナに聞くのが一番かなって思ってたんですけど、なんだかんだ聞きそびれてて」

 最近は上井先生の家にお世話になる事が多くて、妹のカナが寂しい思いをさせていないか少し心配だ。


「でも、上井先生ならすごく良いプレゼントを知ってるんじゃないかなーって思ったんですよね」

「そうなのですか?」

「上井先生はすっごく紳士的でカッコいいですし、経験豊富っていうんですか? だから聞いてみたいなって思ったんですよー」

「交友関係という点でしたらその通りかもしれませんが、その人にとって嬉しいと感じるプレゼントが何かまではわかりませんよ」

「それなら良い選び方とかってありませんか?」

「そうですね……やはり、お相手の好きなものをよく知る事が大切ですよ」

「ふむふむ」

「後は独りよがりにならないよう気を付ける事でしょうか。あくまでプレゼントは受け取る側が主役で、贈る側の見栄や苦労が透けていると、後々お互いに苦しくなりがちです。要は背伸びしたものを贈らないという事です」

「なるほど……」

「ありのままのテルくんを伝えられるように、かつご友人が喜んでもらえるものを見つけられるといいですね」


 なるほどなぁ……じゃあもっと波多野さんの事を知るのが大事そうだなぁ。その中で俺もできそうなのを弾くのが良さそうだ。


「さて、そろそろ朝の練習の時間ですね」

「あっ!そうでした! ちょっと待ってくださいね……!」

 急いでご飯を詰め込む……

「地区予選とはいえ、コンクールはコンクールですからね」

「もちろんです……! もう今週の日曜日ですからね! そっちもがんばります!」


 期末試験、夏祭り、コンクール。予定がたっぷりだー!



 ――



「おー、マイナスおはよー」

「おはよー、熊谷! 今日も朝練してたの?」

 登校していつもの朝の教室、野球部たちが戻ってきた時に熊谷が声をかけてくれる。


「ああ、そろそろ夏の大会の地区予選だからなー」

「気合入るね……! 応援って行けるのかなぁ?」

「おー、もちろんだー! マイナスに応援来て欲しいって思ってたからなー」

「日程っていつだろ……?」

 熊谷には日頃から世話になってるからすごく行きたい……すごく行きたい!


「再来週の日曜日だなー! どうだー?」

「その日なら行けるかも……!? 確定じゃないけども、行けるようにがんばってみる!」

「マイナスが応援してくれたら百人力だなー!」

「えーなんか照れちゃうなぁ、えへへ。熊谷たちが良い結果出せるように全力で応援したいなー」

「楽しみにしてるなー! あ、でも、マイナスも忙しそうだし無理はしないでなー!」

「それはもちろん!」


 熊谷のカッコいい所をまた見たい!

 その為にはやっぱり今、目の前の事を片付けていかなくちゃ……!

 教科書とノートを取り出す。


「期末試験の勉強をがんばらないとなぁ……!」

「あー、俺も勉強しないとだー」

「熊谷も赤点取ったら色々良くない……?」

「そうだなー、大会出れなくなっちゃうなー」

「そうなんだ!? じゃあ一緒にがんばろ!!」

「おー!」


「へっへっへ……勉強なんてしなくても余裕で期末試験乗り越えられる方法があるのになー」

 熊谷と一緒に盛り上がってる時に声をかけてきたのは――

「えっ、馬園はカンニングでもするの? 馬園が不正するって事を誰に言おう……」

「ちがーう!! カンニングは最終手段!」

 うーん、馬園はやっぱりどうしようもないなー。

 そう思うのと同時に馬園のお尻に鋭い蹴りが入り、すごい良い音が教室に響く。

「ああん!! 痛いって!痛いよ!!」

「カンニングするとか聞いたし、お仕置きしかないだろー!」

 ――馬園教育係になっている山岸さんだ。


「いや、カンニングするのは最終手段だから! するわけじゃないだから!」

「選択肢に入ってるだけで根性叩き直す必要があるんだぞー! おらー!」

「もっと優しく蹴って!! それにちゃんとした方法だから!!」

「あー、一応だけどその方法ってなんだー?」

 山岸さんにお尻を蹴られている馬園に熊谷が情けをかけて聞く。

「いやさ、事前に答えがわかればさ、勉強なんてする必要無いじゃん?」

「警察に相談したほうがいいのかな……馬園が泥棒しようとしてるって」

「ちがーう!! ああん! 山岸も蹴らないで!! 違うの!! 違う!!」


 朝から俺は何を見せられてるんだろう……


「思い出せって! 俺達には勝利の女神……ヴィーナスがいるでしょ!」

「んー……あー」

「えっ、熊谷はわかるの?」

「いやー、でも、そのー」

 なんて言えばいいのか悩んでる様子の熊谷を差し置いて、馬園は大袈裟に続ける。

「中間試験ですら100%赤点確実だったマイナスを救い……体育祭の優勝打ち上げに関しても重要なシステムを作り……さらにはあの灰野先生のデレをもたらしてくれた……!!」


「そういうわけで頼りにさせてください!!

 俺達の勝利の女神!

 ノンノン!!

 いや、波多野さまーーーーー!!」


 自分の席に静かに座って、俺達の様子を眺めていた波多野さんを馬園が指す。


「……へっ?」

 急な事に固まっている波多野さん……

「ノンノン様のプリントがあれば試験なんて余裕っしょ! 頼りにさせてください! 補習受けたくない! 何でもします!! お願いします!!」

「えっ、えっ……あ、うん……」

「よっしゃーー!! 期末試験勝利! 完!」


 勝手に何かを終わらせた馬園の所に、山岸さんが静かに息を吸いながら向かう。


「馬園は他力本願過ぎだろーー!!!!」


 その時の蹴りの、馬園の悲鳴と尻が叩かれた音は学校中に響いたような気がした。

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