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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(下)
94/114

94・そう、ロックがやりたいんだ

「お前の父ちゃんってよー、オケの団長だろ?」

「えっ……ご存知なんですか?」

「母ちゃんはオペラ歌手の、いやぁ最初にお前を見た時は目を疑ったぜ」

「そ、そうなんですか……」


 今は近藤さんのパパの車でとりあえず近藤さんの家に向かっている。


 近藤さんのパパは楽器のメンテナンスの仕事でちょくちょく音大に顔を出しているらしい。

 その仕事を手伝ってから、車に乗らせてもらった。

 その時には、ショウくんが俺の荷物を運ぶのを手伝ってくれて……


「俺はお前の父ちゃんのファンなんだよなー」

「そ、そうなんですか……!?」

「ユミにも鷹坊にも色眼鏡かけさせたくねえから黙ってっけどな。ふたりはどうよ?」

「仲良くさせてもらってます……! 近藤さんはすごく世話を焼いてくれるし、鷹田は困ったら力を貸してくれますし!」

「そうかそうか! ユミは鷹坊の事を甘やかしがちでよー、俺の嫁そっくりになっちまったよ」

「そうですか……? 厳しくしてるように見えますけど……」

「尻叩いてくれる女っつうのは、男にとっちゃ甘やかされてんのと一緒なんだぜー」

「そ、そうなんですか……???」

 う、うーん。馬園も甘えん坊だと思えば納得できる……


「おっと……そういや連絡するの忘れてたわ。お前の寝る所用意しねえとな」

「すみません……お世話になっていいんですか……?」

「おう、叱られる時は一緒に尻叩かれようや」

「は、はい……」


 近藤さんのパパは元バンドマンって聞いてた気がするけど、やっぱり面白い人だなぁ……

 運転を止めてスマホで通話している様子を眺めているけども、どこか魅力溢れる……


「いや、だからユミの友達を拾ってよー。歳?そりゃ同い年に決まってんだろ」

 お母さんと話してるのかなー? バリバリのビジネスウーマンって鷹田が言ってたなぁ。

「嘘なんてついてねえって! ユミの友達だから平気だろ! 年頃なんだしそんなのあっても仕方ねえだろ!」

 ん……? なんだか雲行きが怪しい……

「今日はちゃんと働いたしよー! じゃあ小遣いの前借りって事で! これが最後だからよ! 頼むって! あっ、切られた」


「いやぁ、わりぃな! 嫁にゃ勝てねえわ!」


 うん、仕方ないね……!!!!



 ――



「今日はユミお姉ちゃんとお泊りしていいの!?」

「うん。そういうわけでマイナスくんは鷹田の家で一泊させてあげて……」

「何がどうなってんだよこれ……てか後先考え無さすぎだろ」

「あははは……」


 お店に着いて、それから近藤さんに会って、近藤さんのパパが簡単に事情を話してくれた後に近藤さんの提案で鷹田の妹を近藤さんの家で預かって俺を鷹田の家に泊めてもらう話になった。

 思ってた以上に申し訳ない! いや、でもこうなるってわかってたのに……申し訳ない……


「とりあえずこれ、適当にご飯の足しにして」

「ありがたくもらっとくけどよー貸しだからなー」

「マイナスくんをタダで働かせた分があるでしょ」

「いつか払うっつってんだろー」

「はいはい、じゃあね」


 そうして近藤さんと鷹田の妹は近藤さんの家に向かっていった。


「マジでマイナスお前って奴はよー」

「ちゃんと話すから……! ちゃんと話すから!」

「ま、いいわ。とりあえず上がれよ。飯の用意しないとだし」

「ありがとう……! お邪魔します!」


 鷹田の家は集合住宅の一室で、ここで家族4人暮らすのは狭そうだなぁって感じる……


「今日は弟は泊り、親父もたぶん帰ってこねえからまぁゆっくりしろ」

 そう言いながらエプロンを付ける鷹田。

「おう、わかった……何か手伝える?」

「んー、じゃあ米研いでもらうか」

「おこめをとぐ……?」

「うちは無洗米じゃねえから研ぐんだよ」

「むせんまいってなに?」

「オッケー。お前は邪魔になるからキッチンに近づくな」

「ええー!?」

「家事一切やった事が無い奴は邪魔っつう訳」


 そのまま鷹田はテキパキと料理を始める……すごいなぁ……


「あれ?なんか作る量すごい多い? こんなに食べられるの?」

「常備菜だっつーの。タッパーに詰めたり冷凍して後で温めて食ったりすんの」

「へぇー……まとめて作るんだ……!」

「マジでマイナスお前って奴はなー」


 ……


「要するに喧嘩して家を飛び出してきたって事?」

「お、おう……速水先輩について、その、なんていうかすごく……」

「昨日今日で速水先輩がマジでメンヘラってる理由も納得したわー。マトモな考えあったらそりゃ近づけたくないわな」

「速水先輩、そんなによくないの……?」

「後で見せてやるから待ってろよな」


 鷹田はご飯をもりもり食べていく。鷹田の作った料理はちょっと味が濃いけども、それのおかげでご飯が進む。


「一応聞くけどよ、風呂は一人で入れるよな?」

「そこまで心配されるものなの!?」

「だって絶対マイナスの家の風呂広いじゃん」

「そんなに変わるの……?」

「逆に俺の方が想像できねえわー」

 お風呂ってどれくらいの大きさが普通なんだろう……


「あ、そうそう。その後はギター教えてくれよなー」

「えっ!? もちろんいいけど、音は大丈夫!?」

「ヘッドホンに繋げるから平気平気。せっかくマイナスが居んだから有効活用しねえとなー」

「俺でよければ全然教えるよ! 教える!!」


 好きな事について一緒に話せる友達が、鷹田がD高校にもいるのが、なんだかすごく嬉しいな。



 ――



 鷹田が先にお風呂に入る。その間にぼんやりと部屋を眺めて、大きな写真立てが目に入る。

 鷹田のママらしき人が大きく写っていて、その近くには鷹田家みんなで写っている写真も飾られている。

 ……遺影なのかな。


 ヨチヨチとした鷹田の妹を抱っこしているママ、わんぱくそうな鷹田と鷹田にベッタリしている弟。たぶん撮ったのはパパなんだろうなぁ、すごく楽しそうな写真だ。


 それを踏まえてもう一度部屋を見渡すと、生活がすごく大変そうだって感じる。

 お金に関して少し欲張りな所があるのも納得がいく。それでも、タダで奢られるのは嫌がる所があるから鷹田らしいなぁ。


「おーい、マイナス。風呂来ていいぞー」

「ん、はーい」


 呼ばれてお風呂場に向かうけど、鷹田はお風呂に入ったまま……?


「え?まだ鷹田入ってるよね?」

「追い焚きがねえから湯船は……ってわかんねえよなー。シャワー空いてるから入れるだろ? 一人が良いなら一人でいいけどよ、風呂ぬるくなるぞ」

「ん……それならわかった」


 お風呂場は確かに想像以上に小さかった。うちのトイレの方が広いかもしれないし、湯船で足を伸ばせないのも少し驚く。


「ワンプッシュだけだからな、ワンプッシュだけ」

「お、おう……!」

 体を洗うにしても気にしないで使ってたなぁ……!


「えっと、お邪魔するよー……? ってアッツ!? お風呂熱すぎない!?」

「はぁ? 風呂は熱いほうがいいもんだろ。つか追い焚きがねえから仕方ねえんだよ」

「水入れてヌルくしちゃダメ……?」

「この後はいねえから、まぁいいけどよー」

「あ、ありがとう……!」


「なぁなぁ、マイナス。これ見てみ?」

「ん、何?」

 鷹田が両手を合わせて何かを包むようにしているから、それを見る……


「喰らえ水鉄砲ー」

「うわっ!? 目に入ったんだけど!?」

「完璧に引っかかってオモシロー」

「酷い!でも、すごい! それどうやってやるの!?」

「おう、こうやって湯船の中で両手を合わせてな……」

「うんうん……」

「で、ギュッとやる」

「うわっ! また目に入った!」

「普通に自爆してんのマジで面白すぎだろ」

「うぅ……こうやってこうで……こう?」

「そうそう、そんでってうおっ!? 急に不意打ちしてきやがって!」

「やり返せた! やったー!」

「風呂遊びの達人として容赦しねえからなあ?」

「もっと教えて! もっとー!」

「じゃあ次はこれだな。よーく見てろよ」

「おう!!」



 ――



「ア、アホくせー……ガキかよ……」

「扇風機……独り占めダメ……」

「お、俺も……のぼせてんだよ……」

「あ、遊び過ぎたぁ……」


 夢中になって遊んでふたりでのぼせ上がってしまった……フラフラで動けない……


「ギター……教えてもらうつもりだったのによー……」

「少し休憩してから……にしよう……」

「バーカ……流石に真夜中とかだと……繋げてなくても騒音になるんだよ……」

「そ、そっかー……」


 それなら明日に、って言いたいけども明日に教えられる保証は無い。そもそも、飛び出してきたけども無計画過ぎて次に何をしようかもよく考えていない。速水先輩に何かしたいのはあるけども、具体的にどうしたらいいかはわかってない。


「マイナス、お前さ……来週のライブは来れんの……?」

「うー……行きたい……行きたい……」

「わかんねえって事か……期末試験も近いし……それも大丈夫なのかよ……?」

「うー……わかんない……けど……D高校……通いたい……」

「マジで……バカだな……あそこで学べる事とか……あるわけ……?」

「いっぱい……あるよ……」

「例えば……何だよ……」

「えーと……水鉄砲とか……」

「それ……さっき俺が教えた奴だろ……」

「おう……」


「どこ通う予定……なんだよ……」

「え……転校……話してないよね……?」

「通いたいんだろ……D()()()()……けど、ダメって言われてる……じゃあどこってわけ……」

「……音大付属の高校……」

「お前に……ピッタリじゃん……」

「鷹田も……そう思うんだ……俺も……だけど……」

「マジで……マイナス……お前って奴はなー……」

「ロックが……やりたい……」

「……やりてえよなー……」


 扇風機の音とベランダの外の音だけが聞こえる。外を見れば梅雨なのに晴れていて、夕日と夜のグラデーションががとても綺麗だ。

 おもむろに鷹田がスマホに手を伸ばす。


「速水先輩……どうにかなんねーかなー……」

「このままじゃ……よくないから……どうしたら……いいかな……」

「ほれ……見てみ……? 速水先輩の投稿……」

「ん……」


 空に落ちてみたいとか、詩的な表現だけども不安な言葉が並んでいる。他には画像と一緒に歌詞も載せられているんだけども……


「……この歌……鷹田は知ってる……?」

「ああ……? 有名な曲だから知ってっけど……それが?」

「……リリースした後、その人は……その……」

「あー……今の速水先輩、全然やりそう」

「これ、場所はどこになるかな!? 止めなくちゃ!」

「いや、おまえ……あー! とりあえず服着るぞ!!」

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