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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(下)
89/114

89・誰の為のルール?

「そういえば上井先生は"ヤキニク"って知ってますか?」

「ええ、もちろん知っていますよ」

「あれって屋内でするBBQなんですか?」

 そう聞くと上井先生はフォークを持ったまま少し考えはじめる。


「テルくんは焼肉、ご存知ないのですね」

「BBQじゃないんですか?」

「違いますね」

「へー、そうなんですね」

 どんな風に食べるのか聞こうとする前に、上井先生が話を続ける。


「考えてみればテルくんやカナさんを手軽なお店に連れて行く事がありませんでしたね」

「友達に連れていってもらったおかげで買い方とかは覚えましたよ!」

「ふふ、それは素晴らしいです。思えばバスの乗り方などもがんばって覚えましたからね」

「えへへ、自分で決めた事ですから」

 上井先生に素直に褒められるとすごい嬉しいなぁ……!


「ふふ、それで焼肉の事でしたね」

「はい!どんな風に食べるものなんですか?」


 この後、焼肉について教わったり、レッスンをしたり、勉強会をしたりしていつもの夜を過ごした。



 ――



「波多野さんおはよう!」

「マ、マイナスくん!?」

 朝、波多野さんの家に寄ったらちょうど波多野さんがいて、声をかけてみた。


「近かったし、ちょうど一緒に登校できるかなぁって思ってたんだー!」

「い、一緒に……? いいの……?」

「自転車持ってないから途中までだけど、良い?」

「う、うん……大丈夫だよ……」

「じゃあ行こうっか!」


 波多野さんとは夜の勉強会で一緒に過ごしていると思う。だけどもそれは勉強のための時間で、のんぴりと過ごす時間じゃない。

 だから、昨日一緒に歩いて帰った時間はなんだかすごいワクワクしちゃったんだよね。

 今もこうして、波多野さんの引く自転車の音とふたりの足音、そして周りの音をゆっくりと聞く時間がすごく楽しい。


「その……」

「ん、なあに?」

 波多野さんに声をかけられて、続く言葉をゆっくりと待つ。


「えと……朝ごはん……」

「うん」

「何食べた……?」

「パン食べたよ!」

「そ、そっか……」


 画面越しじゃない時の波多野さんは、どこか緊張してるのがなんとなく伝わる。

 話すが苦手な波多野さんだから、俺は波多野さんが喋るのとゆっくり待つようにしている。

 その間、じいっと波多野さんの様子を見てどんな事を考えてるのか想像している。


「波多野さんは何食べた?」

「えっと……パン食べたよ……」

「一緒だね!」

「うん……」


 波多野さんはパンが好きなのかなぁ? どんなパンが好き? 他には何を食べる?

 色々思い浮かんで聞きたくなっちゃうけども、波多野さんの様子を見て待ってみる。


「……あ、お昼は買う……?」

 コンビニの前で波多野さんが聞く。

「今日は学食に行く予定なんだー」

 俺が買う事が多いのを波多野さんはちゃんと知ってるんだなぁ。

「そっか……」

「波多野さんはいつもお弁当だよね」

「あ、うん……作ってもらってて」

「いいなぁーお弁当って特別感があって羨ましい!」

「ふふ……そうなんだね」

「ママが忙しいから仕方ないんだけどね」


 今日のお昼ご飯は何にしようかなぁ。

 波多野さんのお昼ごはんは何だろうなぁ。

 そんな風に考えていたら駅に着く。


「じゃあ……また、後で」

「おう、また後でー!」



 ――



 学校での忙しい、けども楽しい時間を送る。

 予定も改めて見直すと、ライブに期末試験、コンクール、夏祭りと目白押しだ。熊谷の野球部も気になるし、吹奏楽部はどうしてるのかなぁっていうのも気になる。

 目の前の事をひとつずつやっていくしかないんだけども――


「おい、マイナス?」

「ふあっ!? すみません、ぼーっとしてました!」

 学食に向かう途中で、紅蓮先輩に声をかけられていた。


「マイナスらしいな。いや、それはともかく……少し話があるんだ」

「あっ、はい! なんッスか……!?」

「先日の学食での事……ハンカチも含めてなんだが、それについてな」

「えっ? はい、構わないッスけども」

 どうして紅蓮先輩が話を聞きに来たんだろう? そう思いながらも断る理由は無いから了承する。


「じゃあ、昼飯を済ませたら生徒会室に来てくれ」

「わかりました!」

 そのまま紅蓮先輩と別れる。


「紅蓮先輩も動いてるんだなぁー怖いけど頼りになるー」

「その通りだけど、馬園はなんで隠れるの?」

「いやだって紅蓮先輩怖いし」

「馬園は怖がり過ぎでしょ……今日も帰りは置いていくからね!」

「いいけど俺が教室に帰れなかったら化けて出てやるからなー!」

「この間はちゃんと帰れたでしょ!」

「あの時だって奇跡の大冒険だったんだぞ!」


 もう、馬園のヘタレはどうしようもないかもしれない。



 ――



 宣言通りに馬園を置いて、お昼を済ませた後に生徒会室へと向かう。

 早めに来たけども紅蓮先輩は既にいて、それから渡辺先輩にもう一人3年生が来る。


「さて、早速だが話に入ろう。先日の学食での騒ぎとそれに纏わる件だ」

「一応だけどさ、それって俺らで動いて何かできる話なの?」

「学校の大人が動かないからと放逐していていいものじゃないだろ」

「そうじゃなくてさー、警察に通報でいいでしょって話。生徒会長だからってがんばりすぎっしょ?」


 紅蓮先輩って生徒会長だったんだ……!

 そして、紅蓮先輩と話してる3年生の人は見覚えがある! たしか、白組の応援団団長だ!


「まぁまぁ、落ち着いてくださいって! 一番大事なのは起こった事の対処じゃなくって、そういう事が起きる現状について考える事ですよ!」

「その通りだ。対処について考えている事はあるが……その前にマイナスにも話を聞いておこうと思ってな」

 紅蓮先輩が俺を見る。


「マイナスは犯人に対して、どうなったらいいと考える?」

「えっ……それは謝ってほしいとかって事っスか……?」

「それも一例だな」

「ん、んー……」


 聞かれると難しい……現状だと森夜先輩が大変な目に遭ってる訳じゃないのもあって、何がどうこうっていうのをむしろ考えてなかったかも……

 でも、落ち着いて考えるなら、森夜先輩がせっかく綺麗にして返してくれようとしてたのに酷い事をするのは腹が立つなぁ。うーん……なんでそんな事をするんだろうって疑問に感じる……あっ!


「なんでそんな事をしたのかを教えてほしい……ッスかね……?」

 許すかどうかの話は正直どうでもいい。少し前までは誰とでも仲良くできると思ってたけども、それができない事を学んだ。それでも、その相手に対して要求するなら理由を教えてほしい……っていう事になるのかな。


「理由ねー。普通に考えて悪ノリっしょ」

「悪ノリ……?」

「流行りがあってさ、誰々をバカにする流れとか空気がある訳なの。お前のクラスにもあるっしょ。イジメじゃないにしても」

「……あー……!」

 馬園の事かー!?


「ハンカチの事でも何でも、コミュ力終わってる空気読めない奴が面白いだろうなーって思いながら滑り散らかしたっつうのかなー」

「ええ……!? 全然面白くないと思うッスけど……!?」

「何かをバカにするのってバカでもできるからさー、それで注目集めて自尊心得るみたいな感じ」

 うーんよくわかんない世界だ……


「お前の言う通りなのかはわからないが、それでも原因のひとつに"空気"というのはあるだろうな」

「教師たちも諦めてるわけだし、もうどうしようもなくない?」

「そんな空気にならないよう徹底的に規則で締め上げるべきだ。スマホ厳禁、朝に挨拶を強制など徹底的に――」

「それなら被害届出して警察に突き出せば解決っしょ。なんで他の奴ら巻き込むわけ?」

「空気を変えるには皆で動くしかないだろう!?」

 紅蓮先輩が熱くなる……もう一人の先輩も引く様子はない。


「落ち着いてくださいよー! マイナスくんに意見聞くのが今回の目的ですよね?」

 渡辺先輩が諌めてくれる。やっぱり心強い……!


「そのうえで簡単に意見をまとめるなら、紅蓮先輩は規則を厳しくする、紫雲先輩は警察に事件として届け出るって事でいいですか?」

「ああ、違いない」

「厳しくするのには変わらないんだけどな」


 ……聞いている限りだとどっちも怖いなぁって思った。

 もちろん、必要があれば規則を作るのは良いと思うし、警察に介入してもらわないといけない事もあったりするだろうから、全部がダメっていうわけじゃない。だけど、なんとなく怖いなぁって思う……


「でも、マイナスくんは理由を聞きたいって言っていますし、厳罰化はまだ早いと思うんですよね。ねっ? マイナスくん」

「えっ、あ、はい」

「なので、まずは理由についてちゃんと話を聞くことにしませんか?」

「……まぁ、それでどんな規則を作るか考えるのも良いか」

「聞く必要無いと思うんだけどなー」


 そんなふうにして話し合いは一旦終わることになった。



 ――



「もうー! 紅蓮先輩ってば急に動くんだからー!」

「そうッスね、ちょっと驚きました……!」

 渡辺先輩に連れられて少しふたりきりで話す。


「でも、マイナスくんが流されないで良いこと言ったおかげで何とかなりそうだよ」

「ええ? そんな覚えはないんスけども……」

「罪を憎んで人を憎まずって言葉があるでしょ? 理由を知るってそういう事だって私は思うからね」

「たしかに……」

「言うならなんだけどもね、小さい頃だったら悪い事をしたら叱ってもらえたじゃない? でも、だんだん距離を置かれて叱られる事もなくなっちゃうし、悪い事をした自覚も無くなっていくみたいなんだよね。

 そういう意味では紫雲先輩の悪ノリって話もわかるんだけど……」


 ……なんだか胸が痛くなるなぁ。


「でもね、本当に助けが必要な人ってそういう人たちだって私は思うんだよね。例えば、森夜くんに黒間くん」

「それは……確かにそうかもしれませんね。俺が言うのもなんですけど……」

「あとは速水先輩もかなぁ」

「……えっ?」


 渡辺先輩から速水先輩を心配してるのを聞くのは意外だった。


「なんて言ったらいいのかわからないけど、速水先輩って次の瞬間には会えなくなるような、そんな気がしちゃうんだよね。わかるかな?」

「それは……ちょっとわかります」

「何とかしたかったんだけどなぁ……速水先輩も、森夜くんも黒間くんも他の皆も」


「私、がんばるからマイナスくんも速水先輩たちの事、頼んでいいかな?」

「それはもちろんですけども……でも、渡辺先輩が直々にやらなくていいんですか?」

「黒間くんの事を森夜くんががんばってるみたいに、適材適所ってあるから! それにね……」

「それに……?」

「速水先輩が幸せならOKだから!」


 渡辺先輩って本当に良い人だなぁ……!

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