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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(下)
83/114

83・知らない世界への架け橋

「それで、頼りになりそうだなぁって思ってマスターに相談したんですよ」

「なるほどね」

「いや、すみません……いきなりなのに聞いてもらっちゃって……」


 土曜日の朝、喫茶店に森夜先輩と一緒にやってきた。

 口数が多くない人って所でマスターにお話を聞けたら何かいいんじゃないかなぁって思ったんだよね。


「労働がオススメ」

「えっ、働く……ですか?」

「うん。働いてお金を稼ぐのは色々いいよ」

「あーでも、俺たち高校生で……」

「夕方や土日は、ダメかな?」

「……探したらありますよねぇ。でも、俺たち雇ってもらえるかなぁ……」

「必ずあるよ。探すの手伝おうか?」

「えっ、いいんですか……?」

「うん。僕も昔、困ってた。その時に助けてもらったから」

「あ、ありがとうございます……!」

「時間がある時に連絡するね」


 そう言ってマスターは奥に引っ込んでいく。


「……いや、なんか変わった人だな」

「森夜先輩もそう思いますか? それでも良い人で、聞いてくれるって思ったんですよー」

「そうだな。なんていうか……普通に手伝ってくれるのは驚いた」

「そういう人なんですよー!」


 出してもらった飲み物を頂きながら一息ついて、俺は店内を見渡す。

 前にあった嫌がらせのような張り紙は無くなったし、穏やかで平和な喫茶店に戻ったと思う。

 公園の女の子の件は、なんだかんだ良い方向に向かってると聞いて安心もしている。


「そろそろ行くか」

「はい! 今日、黒間先輩にも何か良いきっかけになるといいんですけど……がんばりましょう!」

「いやマイナスの方が張り切ってるのは笑うだろ」

「俺、一緒にちゃんとバンドやりたいんですもん!」


「……念のために聞くけどよ、ちゃんとバンドやるってどういう意味でなんだよ。別に俺も上手くないしさ、ちゃんとっていうなら俺も黒間も向かないと思うけど」

「ん、んー……その、なんていうんスかね……確かに下手とか上手とかありますけども……でも、表現したいものに対して真面目に取り組みたいっていうんですか……?」

「具体的に言えるか?」

「……今度、ライブでやる曲ってどこか心の声を叫ぶような感覚あるじゃないですか。諦めているっていうのか、それでも漏れ出した心の声が歌になったような感じで。すごく切なくなるし、共感できる所もすごいあるじゃないですか。でも、それなのに言われたとおりに演奏してるだけだとなんだか嘘をついてるような気がしちゃうんです。

 演奏するって、人によって色んな解釈があって、それを音にする事だって思うから、その人の音を聞きたいし知りたいって俺は思うんです。そのうえでそれを人に聞いてほしいって思います。上手かったらもっと色んな表現ができる、それでも今、自分のやれる事でやって良いんだって俺は思っています」


 とめどなく溢れる自分の言葉に少し驚く。思ってる事、考えてる事は自分でも色々あるけども、ちゃんと喋ったのっていつ以来だろう? それに、自分でもそう思っているって事がわかっていなかったかもしれない。


「……マイナス、お前って本当に好きなんだな」

「あっ、はい……! すごく……好きです!」

「俺ができる事なんてたかが知れてるけどさ……それでも俺ができる事、やってみるよ」


 森夜先輩の顔を見上げる。照れくさそうにしてるのが見えるけども、でも、それがなんだか嬉しくてうれしくてたまらない。


「その為にも黒間の事……そう、一緒にがんばろうぜ。よろしくな」

「……はい! よろしくおねがいします!」



 ――



「やあ、人数が多くなったね」

「せっかくだから皆呼んじゃったんですよ♥ こっちはモーくんマーくんです♥」

「ど、どうも、森夜です……」

「……黒間です」


 大神さんと駅で待ち合わせをして合流する。森夜先輩は黒間先輩を何とか連れ出してきてくれて、皆で速水先輩に興味を持ってくれてる人の所へ向かう事になっている。


「さ、ひとまず車に乗ってもらって、行こうか」

「うおーキレイな車っすねー。流石っすね」

「失礼しまーす!」


 人がいっぱい乗れる車で、俺たちは乗り込む。運転手さんもいて、全部で7人だ。


「マイナスくんはこっち来てね♥」

「は、はい……」

 一番後ろの座席で速水先輩がおいでおいでする。仕方ない、とはいえ少しだけ気を使ってくれてるんだけどもね……


「じゃあ俺こっちでー。森夜先輩、黒間先輩お先どうぞー」

 二列目に奥から森夜先輩、黒間先輩、そして鷹田と乗り込む。


 ――黒間先輩が話しやすい位置に置くぞ。

 そんな鷹田の意図で黒間先輩が真ん中に来るように計画してた……らしい。


「君たちはバンドをどうして始めたんだい?」

 車が走り始めてから大神さんが聞いてくれる。


「俺は憧れてる人がいたからっすねー。バンドカッコイイなーって思ってたんすよー」

 鷹田が軽音部に入った理由聞いちゃったー! 憧れの人って近藤さんのお父さんの事かな!?

「マイナスはやりたいって単純な理由だろうけど、速水先輩はどうっすか?」

 鷹田が上手く進行してくれてるからそれに乗っかろう……だけども俺も話したかったよー! やりたいからなのはその通りなんだけどね!


「俺は誘われたからだね♥ そんなに興味無かったんだけど、可愛がってもらえたから♥」

「えー、でも歌がめっちゃ上手じゃないっすかー」

「小さい頃に練習してたからね♥」

「森夜先輩と黒間先輩はどうなんすか?」

「あー俺たちは高校からで……誘われたんだっけ?」

 森夜先輩が黒間先輩に聞く。


「……ああ」

「高校デビューって感じっていうのか……まぁだから、なんかいいかなって思ったんですよね」

「なるほどね。きっかけは誘われるのが多いよね」

「やりたいと思っても人集めるの大変っすからねー。森夜先輩たちは最初、4人でやってたんすよね」

「そうだな。まぁ、誘った奴ももうひとりも辞めたけど……」

「最初はどんな曲やろうとしてたんすか? やっぱ定番とかからっすか?」

「あー……いや、合成音声系だったかなぁ……」

「好きだったから始めたのかな?」

「いえ、俺は教えてもらってから知った感じですね。黒間は……どうだった?」

「俺も……っす」

「今はどんな曲が好きなんすかー?」

「俺は雰囲気が良い曲が好きかな……」

「黒間先輩はどうっすか?」

「俺は……特には……」

「おや、好きな曲は無いのかい?」


 大神さんは意外そうに黒間先輩に聞く。


「……わからなくて」

「なるほど、そうなんだね」

「……ウッス……」


 沈黙が訪れ、微妙な空気が流れる……


「興味深いね」

「え……あ、はい……」


 それから到着するまで他愛のない話が続いた。



 ――



「収録中だから静かにね」

 俺たちは今、カメラの回っているスタジオで見学させてもらっている。高い天井にたくさんの照明、多くのカメラ、出演者の人たちとそれを見守るスタッフさんたちがいる。内容はなんだか難しそうな事を話してる。


「うおー、テンション上がりますねー」

「ふふ、鷹田くんは素直だね」

「めちゃくちゃ興味ありましたからねー。これってぶっ続けで撮るんすか?」

「そうだね。出演者の反応や考え、それをダイレクトに感じ取れるようになるべく編集は少なめで撮っているね」

「なんか大変っていうのも聞きますしねー」


 ……鷹田と大神さんが話してるのをぼんやりと聞きながら、なんだか頭がぼんやりする。ギラギラとした照明、それをジッと見守るスタッフさんたち。なんだか眠たくなっちゃったのかな。


「――マイナスくん? 行くよ♥」

「あっ……はい!」


 速水先輩に連れられて、俺たちは別室へと連れられて行った。



 ――



「君が速水くんだね。ディレクターの朝井だよ。よろしくね」

「よろしくおねがいします♥」

 自己紹介をしてくれた朝井さんは思ったよりも若い感じの人で、穏やかな印象を受けた。


「番組を作る人って難しい人が多そうって思ってたんすけども、朝井さんはなんだか違いますねー」

「はは、時代の流れっていうのがあるからね。殿様商売は昔の話で今はシノギを削るビジネスだよ」

「ふふ、今の子どもたちにシノギを削るなんて伝わるんでしょうかね」

 シノギを削るってなんだろうなぁ……


 そのまま朝井さんは今、作っている番組について教えてくれる。

 現代の若者の考え方や過ごし方について知り、時には密着してドキュメンタリーな作品を作るそうだ。


「速水くんは小さい頃に子役もやっていたらしいね。それから今までどうだったのか興味がとてもあるんだ」

「特に面白い事はないですよー♥」

「そうかな? 少なくとも僕は君たちと話してみたいんだ」

「なんだか恥ずかしいなぁ♥」

「例えば休みの日はどんな風に過ごしているのかな」


 そんな風に朝井さんと速水先輩が話し込み始める。


「僕達は一旦、席を外しましょうか?」

 大神さんが良い塩梅で切り出す。

「ああ、それがいいかな? どう? 速水くん」

「マイナスくんも行っちゃう?」

「大事なお話みたいですから、俺も席外しますよ!」

「えー♥ 寂しいなー♥」

「まぁまぁ、ゆっくり待ってますからまた後で!」

 そうして、俺達は一旦席を外す。


 ……


「世代とまとめてしまいがちだけども、実際は色んな子がいるよね」

 次の収録の準備をしているスタジオの隅っこで、大神さんが俺達に声をかける。


「自分で言うのもなんすけど、俺とかはバリバリに動く方っすからねー」

「鷹田くんのように野心家な子を見るとむしろ安心するよ」

「学校の休みの日もバイト三昧ですし、将来に備えて今から動いてますよー」

「将来はどうなりたいのかな?」

「人生の勝ち組っすねー。良い所に住んで良い飯食って良い遊びする、みたいな」

「ふふ、すごいね。他の君たちはどうかな?」


 大神さんは俺達にも聞いてくれる。


「俺はわかんないですけども、パパの手伝いとかするのかなぁー?」

 パパはオーケストラの団長をしているし、音大に行く約束もしている。将来がどうなるか、どうしたいかはフワフワしているけども、そんな感じなのかなぁ?って思っている。


「いやー、俺もわからないっすね。別にやりたい事って言っても思い浮かばなくて」

 やりたい事、仕事とかって難しいもんなーって俺も思う。


「黒間くんはどうかな?」

 大神さんが黒間先輩に視線を向けながら聞く。

「……あー……いや……無い……っすね」

 目を背けながら、居心地悪そうに答える。


「それはどうして、と聞いてもいいかな?」

 大神さんが黒間先輩を見据える。黒間先輩は困ったように固まってから、絞り出すようにしてから静かに話す。

「……俺がバカだから……」


「……うん、それで?」

 その後に続く言葉を待っていた大神さんが問いかける。そうすると黒間先輩がみるみる険しい顔になる。

「俺が、バカだからって、言っただろ」

「待て待て黒間! 聞かれただけだろ!? なっ!?」

 明らかに怒り始めた黒間先輩を森夜先輩がなだめる。


「……気に障ってしまったのは謝るよ。だけど、落ち着いてほしい」

 唸るようにしながら黒間先輩は警戒した顔で大神さんを睨みつけている。

「いや、すみません……」

「森夜くんが謝る必要はないよ。でも、やっぱり僕としては――」


「黒間くんの事も知りたいなって思う。どうかな?」

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