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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(下)
82/114

82・困ってたら相談に乗ってくれる人たち

「それで私に相談してくれたんだね」

「はい。俺、数学全然できないのにそれでもいつも丁寧に指導してくれるので……」

 時間を何とか縫って数学の先生、原田先生を森夜先輩に紹介する。


「いや、なんか……すみません。管轄とか違いますよね」

 森夜先輩は何となく申し訳なさそうにしている。でも、原田先生は静かに首を横に振る。

「子どもの面倒を見るのは大人の役目だよ。それに、君たちが私に相談したいと思ってくれた事はむしろ光栄に思うよ」

「あ、いや、その……ありがとうございます……」


 原田先生は高齢な方になるんだけども、とても安心できる話し方をしてくれる。1年生の数学の担当で臨時で来てくれてるんだけども、できたらずっと先生してほしい……


「今は時間を取れないから、後日に改めてゆっくりと話を聞けたらと思うんだけども、どうかな?」

「あ、はい……もちろんです」

「私の都合で申し訳ないね。ありがとう」

「あ、あの……俺、その間に何か心がける事とかありませんか?」


 森夜先輩が原田先生に聞く。原田先生は少し考えた様子を見せる。


「君が感じたこと、それを都度メモに残しておくと良い」

「わ、わかりました」


 次の授業の時間が迫ってきたから俺と森夜先輩は職員室を出る。


「……いや、あんな先生がうちの高校にいるんだなぁ」

「絶対に頼りになりますよ!」

「そうだなぁ。いや、ありがとな」



 ――



 金曜日の放課後、久しぶりの軽音部での練習の日。

「マーくん久しぶりだね♥ 元気にしてた?」

「……ウッス」


 何とか森夜先輩が引っ張ってきて、黒間先輩も合わせ練習に参加する。

 俺は黒間先輩に嫌われてると思うから何も言えないんだけども、上手くやりたい……緊張するなぁ……


「ライブも今月だからがんばろうね♥」


 そして合わせ練習が始まる。


 ドラムは演奏の土台――

 黒間先輩のドラムは今、有り体にいうと()()事になっている。

 ドラムを叩いてはいるけども演奏になっていないというのか、目の前にいるのに孤独で遠い場所にいて、作業をしているように感じられる、そんな音だ。


 ベースで合わせる……にしても調和しないビートは歪さを感じてしまう。

 鷹田は俺に合わせてくれるのを感じる。でも、森夜先輩は他の皆に合わせようと必死で、それがズレを生んで森夜先輩が焦ってどうにかしようってしてるのがわかる。


 ……


「んー、マーくん」

「……ウッス」

「バンド辞めたい?」


 速水先輩からの衝撃的な一言。俺は思わず何か言いそうになる。けども鷹田にそっと抑えられた。


「……」

「マーくん色々大変そうだし、無理しないでいいよ」

「そ、その……あ……あー……」

「でも今度のライブまでは頼むね」

「……ウッス」

「そういう訳でゆるーくがんばろうねー♥」


 ……


「どうしてですか……?」

 黒間先輩と森夜先輩が帰った後、速水先輩に聞く。


「マーくん抜けたら大変でしょ? マイナスくん張り切ってるの知ってるから♥」

「それは……そうですけども……でも、なんていうか……」

「サーセン、マイナスの奴がうるさくって」

「うー……」


 なんて言えばいいのかわからない……俺はライブをするだけが目的じゃない? 何をしたい? ロックがしたい。そのロックって何? あの日に聞いたロックで、思い浮かんだ光景は何?


「マイナスくんかわいいね♥」


 そういって速水先輩が手を伸ばす。

 俺はその手を拒む――いつもなら抵抗はしないのに。


「俺は――」


 諦めれば楽なのに、次があると思えばいいのに、運が悪かったと思えばいいのに、仕方ない中でも譲歩してくれたのに、それに自分なんかのために、なのになのにわかんないのに――


「俺は、ちゃんと皆で、バンドとして、ライブしたいです……!」


 ちゃんとってなんだろう? 上手くなくてもいいのに。なら、今の状況になんで不満があるの? わかんないのに。

 ワガママを言ってるのすごいわかるのに、なんで言っちゃうんだろう。どうしたらいいかもわかんないのに、どうしてだろう。


「どうしたら……できますか……?」


 俺は速水先輩と鷹田を見る。


「……んー。黒間先輩って普段、何してるんすかね」

「モーくんに聞かないとわかんない♥」

「どうせなら明日、呼んでみます? 森夜先輩と黒間先輩」

「いいんじゃないかな♥」

「あ……えと……その……?」


 鷹田が速水先輩と相談を始めたのが意外で、ぼうっとしちゃった。


「お前が聞いたから考えてんだよ。どうしたらいいかをよー」

「えっ、いいの!? いいの!?」

「放っておいたらマイナスがやらかすから先手打ってんだよ」

「た、鷹田ー!!!」


 鷹田が聞いてくれて、俺は嬉しくて嬉しくて仕方ない! 思わず飛びついちゃう!


「落ち着けっつうのマイナス!」

「俺、何でもがんばるから!! 鷹田の事、すっごい頼りにしてるから!!」

「速水先輩、マイナス取ってくださーい」

「ターくんも一緒にハグしてあげるね♥」

「そんなー」


 俺、鷹田や速水先輩に会えて本当によかった……!!



 ――



「また面倒ごとに首を突っ込むのか」

「ライブ、全力でやりたいからね……!」

 帰りのバスでショウくんと話す。


「変な所で拘りが強いからな。マイナは」

「えへへ……そうかも……!」

「再来週の週末……だったか」

「おう! 何とかなるといいなぁ……」


 森夜先輩はもちろん、鷹田も助けてくれるし速水先輩も話を聞いてくれてる……だから、俺もがんばりたい。


「……どこでやるんだっけか」

「ライブハウスでやる予定だよ。駅の方のね」

「そうか。どんな所なんだろうな」

「えへへ、俺も楽しみなんだー」


 うー! がんばるぞー!!



 ――



「マジでさー、マイナスのせいで忙しいわー」

「ふふ、いいじゃん。楽しそうだし」

「金の匂いがするからな。このまま起業家にでもなるかー?」

「会社って高校生でも作れるの?」

「うん……作れるみたい……わぁ……すごいなぁ……」


 夜の勉強会、今日は話が盛り上がっている。


「色々と手続きが必要なんだけども、それでも事業主として動いた方が楽になるからね」

「そういうわけでこれからは社長って呼んでいいんだぜ」

「まだ個人事業主だから社長じゃないし、そもそもマイナスくんへの賃金トラブルで汚名スタートだから反省してね」

「えっ、賃金トラブルって何?」

「鷹田と一緒にバイトに行ったんだけども、そのバイト代を鷹田がくれなかったんだよね」


「――それって労働法違反だよね!?」


 月野さんがいつもより大きな声でそう言った。

 皆、驚いて少し静かになってしまう。


「あ……! ごめん、ちょっとその……たまたまこの間に見て……」

「ああ、うん。労働法違反なんだよね。本当に驚いちゃったよ」

 近藤さんが笑って場を和ませる。


「今回は何とか穏便に済ませてもらえる事になったけども、続けてたら社長どころか逮捕されてもおかしくなかったし早くにわかってよかったよ」

「そ、そうなの!?」

「面倒な事を代わりにやってただけなのによー大袈裟だぜ」

「うーん……私文書偽造とかって事……?」

「そんな感じ。ノンノンそういうのわかるのはやっぱ流石だなー」

「あ……うん……有名だもんね……」


「――3か月以上5年以下の懲役……!?」


「月野さん、何かあった……?」

 なんだかいつもの月野さんと様子が違うって思って、思わず俺は聞いてみる。


「あ……その、ご、ごめんね……ちょっと興味があって……」

「えっと……法律について……?」

「あ、う、うん……」

 月野さんは恥ずかしそうに小さく返事をする。


「へー、いいじゃん」

「えっ……いいのかな……?」

「だって法律詳しかったら穴をついて色々できるしー」

「えっ!? それっておかしくない!?」

「法に定められてないんだったら何しても別に悪い事じゃないっしょ?」

「それは……そうだけども……」

「法律はなるべく守るけどさー、やっていいライン知りたいよなー」

「そういう事言ってると絶対にまたやらかすよ。鷹田、アンタって奴は」

「そんときゃ聞くから平気平気。ツッキーよろしくなー」

「え、えと……あ、う、うん……でも、勉強難しくってね。自信がちょっと無いなぁ……」


 月野さん、難しい事を勉強してるんだなぁ。すごいなー!


「きっと俺よりできると思うし、何かあった時に相談できたらいいなー!」

「えっ!? あ、あははは……! がんばってみるね……!」

「すごい大事だからね……法律って……トラブルって多いしね」

「私、難しい事があったら頼ってもいいかな……!?」

「うん……! 私ができる事なら手伝うよ……!」

「俺も勉強させてもらおーっと」

「私もニワカ知識が多いけども、少し勉強してるから一緒にがんばろう!」

「えっ!? 近藤さん勉強してるの!?」

「商売って法律大事だからね。その辺りを齧ってるだけだよ」


 すごいなぁ……! 頼れる人がいっぱいいて、なんだかすごい嬉しくなっちゃう!


「お兄ちゃーん!! ちょっと開けてー!!」

 そんな時に部屋のドアが叩かれて、カナが俺を呼ぶ。

「えっ!? どうしたの!? ごめん! ちょっと妹が呼んでるから行ってくる!」


 そのまま扉へ向かい、開けるとカナがお盆に飲み物とお菓子を乗せて立っていた。


「見てみてー! 私、お茶淹れてお菓子も作ってみたの! 一人で!」

「えっ!? 何それすごい!!」

「お兄ちゃん勉強もがんばってるみたいだし、どーぞってしてみようって思ったんだよねー! いる?」

「いるいる! 俺、すっごい嬉しい!! カナも一緒に食べようよ!」

「いいの? 勉強の邪魔になっちゃうでしょー」

「みんなとのんびり話してる所だし大丈夫だよ!」

「じゃあちょっとだけお邪魔しよーっと!」


 お邪魔しまーすとカナが俺と一緒にビデオ通話に並ぶ。

 友達や色んな人だけじゃなくて、家族もこうやって気にかけてくれて嬉しいなぁ。


「カナがお茶、淹れてくれたんだー!」

「お兄ちゃんがどうしてもって言うから少しだけお邪魔しまーす! いつもお兄ちゃんの勉強手伝ってくれてありがとうね!」


 俺もがんばるぞーー!!

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