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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(下)
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80・ヤキニクをするキギョー!

「おいマイナス話すなって言われてただろ!」

「まだ何も話してないよー!!」

「何の話なの?」

 夜の勉強通話の時、近藤さんに声をかけて色々聞こうと思ったら鷹田が乱入した。


「ちょっと面白い所を見てくるってだけだっつーの。でも、それは守秘義務があって喋るなってなってんの」

「近藤さんに聞きたいのはそっちじゃないよ! バイトするまでって大変なのか聞きたかったんだよ!」

「あー! そっちも話すな! 守秘義務!守秘義務あるから!!」

「俺そんな話聞いたことないけど!?」

「え、待って。マイナスくんはどんなふうに鷹田と一緒にバイトしてたの……?」

「連れられてそのまま気が付いたらバイトが始まってたけど……」

「契約書にサインとかしてないの?」

「したこと無い」

「……鷹田、どういう事?」


 近藤さんの声色が変わる。


「契約書は代わりに書いてるだけだっての。あ、そろそろ忙しいし――」

「手伝いに行こうっか? ついでに話もたっぷり聞けるし」

「あーわかったつーの! 会社名乗って委託受けた事にしたんだよ! マイナスはこれからもバイトしてくれるって契約してくれたって事にもしてよー」

「待って……? え、会社名乗ったって? え、登記はしたの?」

「税金とかかかって面倒くせえだろ。委託って形ならバイトめっちゃしやすいし」

「それは普通に違法だからダメだからね? え、待って待って……」


 近藤さんは頭を抱える。なんだか俺も不安になる……


「もしかして大変な事なの……?」

「普通に逮捕されてもおかしくない事してるよ……」

「意味わかんねえ法律が多すぎるだけだっつの。誰も困ってねえからいいじゃん」

「そういう事じゃないでしょ! 鷹田、明日の学校が終わったら一緒に来て!」

「うええ……面倒くせえ……バイトしたかったのになぁ」

「マイナスくんも教えてくれてありがとうね……」

「いや、ううん……その、皆も手軽にバイトできたらいいなぁって思っててさ。打ち上げするためにお金の話題が出ててね」

「ああ、なるほどね。バイト始めるのって大変だもんね」

「バイトくらい余裕なのによー。むしろ手伝ってくれって連絡を時間が無くて断ってるレベルなんだぜ、俺って」

「なんだっけ……『エージェント契約』だっけ……?」

「おい! 言うなって!」

「いや!そうじゃなくて! 単発バイトを紹介するみたいな事言ってたじゃん! あれってどうなのって?」


 鷹田が一瞬考える。それからハッ!と閃いたように話し始める。


「なあ、仕事の紹介業ってどうなの? 会長」

「え……待って。調べないとだけど……待って」

「波多野にも声かけようぜ! 金の匂いしてきたー!!」

「もしかしてなんか良さそう!?」

「俺、起業しちゃおうっかなー」

「キギョー! 俺、手伝える事あるなら手伝うよ!」

「マイナスはクラスの奴らに声かけてこいな!」

「わかった!!」


 鷹田がバイトを紹介してお金を稼いでヤキニクををするキギョーをする!

 わかんないけども、皆と楽しい打ち上げできるならがんばるぞー!



 ――



「『1-A焼肉打ち上げ運営委員会の発足』って何これー!?」

 朝、教室で馬園にプリントを見せる。


「あ、う、うん。そ、その……」

「なんか必要なんだってさ! それで打ち上げのお金を管理するんだって! これは波多野さんが作ってくれたんだ!」

「うおー!すげー!流石クラス委員!じゃあ俺、幹事とかしなくていいって事か!」

「え!? そこは馬園が幹事だから会長になってもらう予定で」

「えー!? やだやだそんな会長とかやだやだ!」

「幹事から会長になっただけだろー! おらー!」

「痛いって!! 蹴らないでーー!!」


 鷹田は地域の中小企業から人手が欲しい所を探して、纏めた情報をクラスの皆に紹介する。

 クラスの皆はそれを見てバイト、あるいは手伝いをしてくる。

 お給料、あるいは謝礼を受け取った後、一定の金額を仲介料として鷹田に納める。

 『焼肉会』には会費を払うか、あるいは斡旋された仕事をする事で参加できる。そして集まったお金で無事に打ち上げができる。

 ……っていう事らしい。


「うわー、すごい良さそうだなー!」

「親にいい感じに誤魔化せそうだなそれ!」

「まさかヤバいバイトが来たりしないよなー?」

「焼肉だけじゃなくって普通にすごい楽しそう……!」

「普通にやってみようかな……」


 クラスの皆も前向きだ……!


「そういう訳で馬園、会長よろしくなー!」

「あーん!! 責任怖いよーー!!」

「手伝うから安心しろー! おらー!」

「えーん! もっと蹴ってー!!」



 ――



「考えたんだけども会長って一番偉いって事だし、もしかして俺って権力を手に入れたって事……!?」

「絶対に大変な事になるパターンだ、それ」

「いやいや、何を言っているんだマイナスくん。会長である俺、馬園にそんな事を言うなんて身の程をわきまえてないなぁ!」

「ナポレオンっているでしょ。ベートーヴェンが曲を作ったけども皇帝に即位したのを見てプレゼントするのをやめたっていう人」

「ナポレオンとベートーヴェンってそんな関係なの!? っていうかナポレオンって英雄の事でしょ!?」

「皇帝に即位した後はなんか権力がどうのこうので色々大変でそのまま大変なことになったらしいよ」

「ナポレオンについての情報がフワッとし過ぎだろ!!」

「ともかく調子に乗るとよくないよって事!」


 今日もなんでだか馬園に頼まれて学食の購買に来ている。

 断る理由もないし、『焼肉会』の為の話とかもあるからいっかーってついてきている。


「あ、森夜先輩だ。挨拶してくるねー」

「えー! 一緒に並んでよー!」

「俺はお昼用意してあるから買うのは一人で買ってね」

「最近のマイナスがスパルタ過ぎるってー!」


 馬園をよそに森夜先輩の所へ。


「森夜先輩こんちゃッス!」

「ん、おう。いや、どうした」

「見かけたもんで! あー、でもその……」

 周りを見て確認する。


「黒間か? いや、一昨日のあの時から俺の事も避け始めちゃってさ……」

「そ、そうなんですか……?」

「別にお前は何も悪くないから、気にしなくていいからな」

「あー……いえ、はい……」


 気にしすぎるのはよくないって俺も思うから、森夜先輩の言う通りだけど、でもやっぱりちょっと気になるのは確かなんだ……


「……あー、いや、別に時間あったらでいいんだけどさ、ちょっと昼飯一緒に食わねえ?」

「えっ! もちろん良いッスよ!?」

「アイツはどうする?」

「馬園ッスか。うーん」


 馬園は列に並んだ後、周りから声をかけられて緊張しながらも楽しそうにしてる。急にいなくなったら後で泣きついてくるような気もするけども……


「大丈夫ッスね。むしろ一人にした方が馬園の為ッス」

「……そうか」


 馬園は何でもすぐに不安になりがちなだけだもんなー。だから問題なし!ヨシッ!



 ――



「いや、それでさ。黒間の奴、どうしたらいいかなって」

 人通りの少ない階段で、お昼を食べながら森夜先輩が話し始める。


「まぁ黒間は口より先に手が出る方でさ、そんなだから友達いなくてボッチなんだよな。

 逆に俺は口はそれなり周りの様子を伺うのも癖でさ、黒間が言いたい事とかなんとなくわかるっていうの?

 良い友達って言えねえけど、なんとなくつるむ仲なんだよなぁ」


 森夜先輩ははぁ、とため息をつく。


「俺が言うのもなんだけど、アイツって本当は優しい方なんだよなぁ……

 言い訳だけどさ、マイナスにキレてたのもアイツと俺なりのバンドの守り方だったんだよな。

 速水先輩が抜けて、俺達が上になったら前みたいに楽しくやれるって信じててさ」


「でも、黒間が戻ってきたら俺がお前と仲良くしてるの見て……

 裏切られたみたいな気分になってると思うんだよな。

 話が違うだろ、みたいな」


 森夜先輩が空笑いをする。


「正直、俺もお前の事を敵だと思ってたし、周り全員敵だと思ってた。

 加えて言うなら黒間も友達じゃなくて利用してるってどこかで思ってた。

 でも、お前が……お前は味方なんだって思ってさ、そしたら周りってどうでもいい奴らって感じて……

 その中でも黒間は、俺の友達なんだなって思ったんだ」


「黒間はこのままじゃ、いつ問題起こして退学してもおかしくないと思う。

 俺、それはなんか嫌なんだ」


「でも、俺、どうしたらいいかわかんなくてさ……

 優しくしてやればいいのかなぁ。

 けど、それもどうしたらいいかわかんねえんだよなぁ……」


「……あ、言っておくけどもマイナスに何とかしてくれって頼んでるわけじゃねえからな。

 俺ができる事って何かって話だからな」

 森夜先輩がバツの悪そうな顔で俺にそう言う。


「う、うー……俺も正直に言うとわかんないっていうのはあります……」

「まぁそうだよなぁ。いや、別に期待はしてねえからさ」

「でも、わかんない時、こうするに限るって事はあります」

「へぇ、何するんだ?」


「頼りになる人に相談してみる事ッス!」

 そう、困ったらとにかく誰かに相談してみる……わかんない事は聞くしかないってだんだんわかってきたんだ。


「……いや、そんな都合の良い奴、俺にはいないって」

「渡辺先輩やご両親や先生は……」

「渡辺はダメだろな、余計にこじれるって思うぜ。大人たちはムリムリ。俺達に興味無いっしょ」

「う、うーん……」


 俺が上井先生に相談するっていうのも見当違いだろうし……灰野先生は論外中の論外。

 他に誰か頼りになりそうな人……


「あっ! 相談に乗ってくれそうな人、俺、心当たりあります!」


 絶対に話を聞いてくれそうな人、ふたりいる!

◆専門家ではないので間違いがあるかもしれないのと、物語として詳細さや厳密さが必要ではないのを踏まえつつ、現代日本でのバイトについての補足


●一日だけ働くバイトは『単発バイト』と呼ばれる事が多い。

・『単発バイト』を紹介するアプリ等は、労働者と企業のマッチングを行っている。

・過去には『日雇い派遣』というのがあったが、様々な問題があり消えた。

 (現行法では派遣を行う場合、1日だけの派遣は認められていない)


●最低賃金以下の仕事をさせるために委託という形で業務をさせる事がある。

・有名なのでいえばアニメーターの仕事など。

・しかし、現在は『フリーランス・事業者間取引適正化等法』で規制されている。


●鷹田くんの行いはかなりヤバイので現実では絶対にやらないで

・少なくとも『私文書偽造』に問われる。

・『私文書偽造』を誤魔化すために『公文書偽造』にも手を出していたかも。


※なお本小説はフィクションであり、日本の法律は参考程度にしており厳密ではありません。私が専門家ではないので。

※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです

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