76・打ち上げ企画始動!
「今週は何もなし。以上。じゃあな」
「待ってくださいよ灰野先生!!」
月曜日の朝のホームルームで灰野先生はさっさと終えようとする。
「生徒会からのお知らせとかありますし、他にもほら! ありますよね!!」
「わりぃけども覚えてないんだわなぁー記憶にございませんってなー」
先週末の体育祭で俺達は色々と優勝した。
学年別、組別、応援団でも総なめの完全優勝!
だからちょっとくらい褒めてくれたっていいのにー!
「先生、覚えてないのなら俺が……先生の愛の奴隷の馬園が思い出させてあげますよ……」
赤いバラを口に咥えながら手を差し伸べる馬園。映像作品ならキラキラしてそうだけども……
「警察に通報か病院に電話、どっちがいいと思うお前ら?」
「なんで緊急ダイヤルなんですかー!?」
「頭がおかしいヤバい奴か可哀想な奴か悩んでよー」
「えーん! せっかくバラも買ってきたのにー!」
うーん、俺でもちょっとドン引き……
見てる分には面白いんだけどね!
――
「普通さ、優勝したら好感度爆上がりして『キャー!馬園くーん!』ってなるはずじゃん……なんで!?」
「あれは普通にキショかったな」
「クラス旗のイメージピッタリ……うん」
「あはははは……」
体育祭で作られたクラス旗は見るたびに俺は苦笑い……
百歩譲って勝手に描かれるのは良いとして、馬園と纏めてヘンタイ扱いされて愛を捧げるみたいな感じになっていて、最初に見た時は恥ずかしくて堪らなかった……
一致団結できたのがせめてもの救い……恥ずかしい……
「てかさ、馬園が言い出しっぺには違いないけどさ、一番優勝に貢献したのって普通に山岸さんじゃね?」
「えー? 私ー?」
ダンス部の山岸さん。日々、馬園へ指導に加えて叱咤激励をずっとしてきていた。
団長の方針転換も馬園のやる気が出た一因だけど、日頃から支えてくれた山岸さんがいたから皆のやる気を出す下地は出来てたのは確かかも。
「私、馬園の尻を蹴ってただけなんだけどなー!」
「色んな意味で尻を蹴ってたよなー」
「その蹴りを一身に受けた俺の尻を見てよ!! 俺すごいがんばったんだから!!」
「もしもしポリスメン?」
「あーん!! 通報しないで!!」
教室は爆笑に包まれる。
「あ、そだ! 馬園、私にお礼したいよな?」
「えっ、あー……はい……」
「なら、優勝したわけだし打ち上げの企画して」
「え、ええー!?」
「尻を見せるチャンスかもしれないぞー?」
言い寄られる馬園。そしてその顔は俺の方を向く。
「マイナスー!! 手伝ってー!!」
「いや、俺もわかんないよ!?」
――でも、満更じゃない。
俺もクラスの皆で打ち上げ、やりたい!
――
「俺、幹事なんてできるかなぁ……失敗したら袋叩きだよなぁ……」
「馬園にはご褒美じゃないの?」
「愛のある暴力が欲しいの! 愛!!」
「うーん……」
昼休みに馬園と一緒に学食へ行く。
渡辺先輩なら詳しそうだし、聞いてみようと思ったんだ。
「――あ、ちょっとまってね」
森夜先輩と黒間先輩の姿が見える。
黒間先輩の謹慎が終わったみたいだし、せっかくだから挨拶しに行きたかった。
「こんにちは! 森夜先輩に黒間先輩!」
「ん……うーっす。なんか用か? マイナス」
「いえ! 見かけたもんで! 黒間先輩も戻ってきてよかったなぁって!」
「そっかそっか」
森夜先輩は前と比べてゆるーい雰囲気を感じる。
常に何かを意識して無理をするような感じが無くて、なんだか安心する――
「舐めてんのか」
黒間先輩はギラギラとした目で、そう言った。
「いやいや、マイナスは普通に黒間が戻ってきてよかったって言った通りだって」
森夜先輩が黒間先輩にそう伝えてくれる。
「ハァ?」
だけど、黒間先輩にとっては意外だったのかもしれない。
少し、呆然としてから森夜先輩にもギラギラとした眼差しを向け始める……
「まぁまぁ。後でゆっくり話すからよ。パン買って行こうぜ。黒間」
「……」
「んじゃあな。マイナス」
「あ、はい」
黒間先輩とはまだちゃんと話してないから当然だけども、黒間先輩に俺は受け入れてもらえていない。
これから仲良くなれるといいなぁ……
――
「えー♥ 打ち上げやるんだー♥ いいなぁー♥」
「私、速水先輩の為ならいくらでも打ち上げやりますよぉ!!」
渡辺先輩はそのまま宇宙に行きそうと思いつつ、速水先輩とファンも交えて打ち上げの企画の仕方を教えてもらう。
「ナベちゃんそういうの本当に頼りになるもんね♥」
「私、一生打ち上げの幹事で生きていきまぁす!!」
「そんな幹事のプロに聞きたいんスけどー」
「何でも聞いて。何でも」
速水先輩に良い所見せようと必死過ぎてちょっと怖い……
「えっと、俺達そういうの考えるの初めてで……あ、幹事は馬園なんですけどね」
「えっ!? いや、幹事だけどー!」
「俺は手伝うだけだからね!? 全部はやらないからね!?」
「マイナスくん偉いなぁ♥ 甘やかさないんだね♥」
「甘やかさない……そういう手もあったんですね……でも、私には無理……ムリムリムリぃ……!!」
渡辺先輩の高ぶる感情には誰もついていけないよぉ……
だけど、深呼吸してから渡辺先輩は恋する乙女から頼れるマネージャーに戻る。
「打ち上げの企画はね、大事なのは全部で2つ。
まず1つ目で大事なのはとにかく目的ね。
今回は優勝したお祝いだから問題ない筈だけど、目的は絶対に大事にするんだよ。
2つ目はいつどこで何をするかだね。
要するに店選びなんだけども、皆の予定や予算を考えるのが大事。
候補を2,3軒考えて、予算と一緒に皆に聞くといいよ。お金の問題は繊細だからね」
「は、はえー……」
「さすが渡辺先輩ッスね……!」
「これくらいはね! でもそれよりアンタたち」
「はい……?」
「メモ取らないと忘れちゃうよ!」
「あっ、はい!」
うーんやっぱり渡辺先輩ってすごい頼りになるなぁー!
「ナベちゃんの言ったこと忘れないようにしなきゃね♥」
「ふたりが忘れないように脳に刻んでおいておきますね!!」
うーんやっぱりそれはきっと死んじゃうなぁー!
――
「予算の決め方……う、うーん……」
「波多野さんはわかる……?」
「教えてー! ノンノンー!」
放課後、波多野さんにも聞いてみる。
「調べたらきっとわかると思う……けども、すぐにはわからないかな……」
「えっ、じゃあノンノンに調べてもらってもいい!?」
「ダメ。それで波多野さんに決めてもらおうって魂胆が見えるから」
「どっかの有名なタヌキみたいに厳しい事言わないでよー!」
「タヌキじゃないからね!? すぐに楽しようとする馬園が良くないんだからね!?」
そんな様子を眺めて波多野さんはクスクスと笑う。
「あ……そうだ。近藤さんに聞いてみるのはどうかな……? クラスが違うけども……」
「あっ! いいかも! なんとなく詳しそうだし!」
近藤さんの家は楽器屋をやっていて、なんだかんだ切り盛りしているからそういうのわかりそう!
「おー! 聞きに行こうぜー!」
「わ、私も行こうかな……」
そのまま俺達は隣へ、ちょうど教室を出る近藤さんに声をかける。
「近藤さーん!」
「ん、どうしたの?」
打ち上げをやることが決まってさ、と事情を話す。
「なるほどね……規模感も考えると候補は3つくらいになりそう」
「おー! 聞かせて聞かせて!」
「まず、一番お手頃にやるなら飲み物とお菓子を用意して適当に公園とかかな」
「えー……ショボくてやだー。派手にドッカーンってやりたいー!」
「梅雨の時期だし、雨天中止の可能性もあって私もオススメしないけど一応ね」
皆でビニールシート敷いてお菓子食べるの楽しそうだけど、天気もあるかー。
「次はランチの時間にパスタ屋さんとかかなぁ。一人あたりお昼ご飯くらいのお金で行けるはず」
「あーいいかも! でも、なんか普通に昼飯になっちゃいそうな気もするなー」
「そうだね。テーブル席で別れる事になるだろうね。とはいえ予算は大分抑えめだよ」
皆でお昼ご飯食べるのは良いけども、確かになんか物足りないのは確かだなぁー。
「ラストは!? ラストの案は!?」
「定番だけど『焼肉』だね。もちろん3つの中で一番お金はかかるけどもコスパは良い方だよ」
「おっ! いいじゃん『焼肉』!! えー、それがいいなぁー!」
馬園がすごい盛り上がってる。
――けども、なんでだろう?
「『肉を焼く』……っていう事?」
ステーキとかハンバーグの事……? あー、でもBBQって事かな? クラス皆で移動も必要だし、すごい大掛かりで大変そうだけど、それが一番コスパが良いのかなぁ? うーん?
「そ、そう。網でお肉を焼いて皆で食べるの、美味しいし楽しいよね」
「ノンノンも焼肉好きー? えー俺も焼肉やりたーい!」
へー! 網でお肉を焼く! そういうのもあるんだー!
それで波多野さんも好きっていうならそれが断然良いかも!
「よかったら私、見積もり取ってきていい?」
「えー!? いいのー!? やったぜ!」
「馬園を甘やかしちゃダメだよ!」
「大丈夫、紹介料を貰うからね」
「あ、はい……」
さすが近藤さん……!
〜〜
マイナくんの金銭感覚が心配でついてきたけども、焼肉を知らないのは予想外だったよ……
金銭的なトラブルを避けるために、家がお金持ちなのを皆には隠してるんだけどもどこかでバレちゃうかも……?
そうならないように私、がんばらなきゃ……!
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