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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(下)
75/114

75・相談できるって心強いなぁ

「以前に悩んでいたあの彼の話ですか」

 上井先生とのレッスンの合間に速水先輩の事について相談をする。


「そうなんです。昨日に招かれたのでお家にお邪魔したんですけども……」

「以前の相談の後、話を聞かなかったので解決したと考えていましたが……それとはまた別でしょうか?」

「はい、仲良くなれたと思ったんですけども、今はまた別で――」


 土曜日の事を話す。

 上井先生は俺のふわっとした内容を、気になった所を細かく質問して聞いてくれる。


「なるべくなら彼と関わるのは()した方がいい……というのは変わりませんが、そうもいかないから相談ですものね」

「うー、でも人としてもなんだか放っておけないですよー!」

「テルくんはそうなってしまいますよねぇ」


 上井先生は目を閉じ、頬に手を当て腕を組み少し考え始める。


「テルくんが彼の衝動的な言葉を受け入れなかった理由は何でしたか?」

「えっ……当たり前の事ではありますけども、カナにはもちろん、上井先生や梶原さんにも心配かけるだろうし……」

「では、私たちがいない場合、テルくんは受け入れますか?」

「う、うーん……悩みます……」


「仮定してみましょう。もし、彼の言葉を受け入れた場合どうなるか。

 法的、倫理的にどうかもさておき、テルくんは彼の為に過ごすとして……

 どうなると思いますか?」

「……速水先輩は幸せになるんでしょうかね……?

 でも俺、ペットみたいな扱いになっちゃうんでしょうか……うーん……」

「短期的に見れば幸せなのかもしれませんね。

 しかし、中長期的に見てどうなるでしょうか?

 極端にいえば人生の終わりまで考えた場合いかがですか?」

「そ、それはちょっとできないですね……俺もやりたい事があるので……」


「彼が辛そうにしている、それを放っておく事で罪悪感を感じるのかもしれませんが、受け入れる事がお互いの為にならないとなんとなくテルくんも感じているのでしょう」

「そうかもしれませんね……」


「なので、中長期的な視野を持って対応するのが良いでしょう」

「具体的にはどうしたらいいですか?」

「概念的な話として、命の危機に瀕している人は救出する必要がありますが、生き方がわからない人には手段を教えるといったサポートが必要になるんですね」


「代わりに問題を解決してあげる事は優しさでもサポートでもなく、成長する機会を奪う事だと覚えておきましょう。

 そのうえで成長の芽を育むという目的を持って対応しましょうね」

「なんだかちょっと不安になりますね……!」


「テルくんの抱える罪悪感は責任感にも繋がります。大変でしょうが、自分のそういった気持ちと向き合い続ける事ができれば大丈夫ですよ。

 そして困ったらいつでも相談してくださいね」



 ――



 昨日の夜に鷹田へ送ったメッセージの返信を確認する。

 一番に連絡を取ったのは鷹田なんだけども、返事はまだ無い。

 鷹田は忙しいから仕方ないよねって思う――


 と、そんな時にちょうど返事が来る。

 そしてとりあえず通話も始まる。


「うーっす。遅くなったな」

「いやぁ待ってたよ! 忙しかったよね?」

「まぁな。んで、相談って何よ」

「うん、実はさ――」


 ……


「やっぱりマジでマジマイナスお前って奴はって案件だな」

「わかんないけども呆れられてるんだろうなぁっていうのはわかる……」

「てかさ、森夜先輩ともなんか色々あったろ? めっちゃギターの事聞かれるんだけど」

「お、おう! ちょっと仲良くなれたと思う!」

「なんだかんだそりゃよかったけどよー、とはいえ均衡がなーどうなるかなーこれなー」

「えっ……? どういう事?」

「なんだかんだ3人――速水先輩と森夜先輩と黒間先輩の3人で上手くやってた訳でさー」

「そ、そうなのかな……?」

「そうなの。外から見てうわぁってなっても本人らはあれで良い感じなの」

「う、うーん……」


「まぁわかるぜ。近いうちに崩れて大変な事になるのが見えてるから、お前がうーんってなるのはよ。お人よしだし」

「でも、それならやっぱりどうにかしたいって思うし……」

「わかってねえなぁー。先々どうなろうと"今"が本人たちは幸せなのよ」

「え、ええー……?」

「なんつーの? そういう状態が"平穏"っていうの? ともかく安定した状態なの。歪でも」

「それでいいのかなぁ……」

「本人がそれで良いって思ってるのに、無理やり変える方がむしろどうなんよ、って思わねえ?」

「う、うーん……」


「まぁ今やっちまってる事は仕方ねえから。それはいい。けどお前が無理し過ぎてメンタルやられないかが心配だわ」

「……そっか……そう思ってくれてるんだ……ありがとう」

「まぁ一応相棒みたいなもんだし――」

 鷹田が咳払いする。


「無理すんなよ。相談があったらいつでも連絡しろよな」



 ――



 自分の部屋でベースを触る。

 今月に校外ライブで演奏する曲も聴きながら。


 甘い始まり、どこか切なさを抱えたままに愛を語りかけるような歌。


 誰かを愛したいのに愛せない。

 自分の心はまるで空虚で空っぽで、それを埋めてほしいと求めてしまう。

 愛される資格がないと自覚があって、だから愛したいのに愛せない。


 世界に愛は満ち溢れているはずなのに、どうして自分に愛は無いんだろう。


 世界から置いてけぼりを食らっているような、孤独感。

 行き場のない愛と、満たされない乾きと、世界。


 空っぽの愛でも誰かに受け取って欲しい……

 そんな風にして曲は甘く優しく、切なく終わる。


 言語を知らなくても胸に届く、心に沁みるそんな曲。


 ――そんな歌が昔から今までずっと歌われ続けている。


 この曲を作った人はどんな気持ちで歌ったんだろう。

 速水先輩はこの曲をどんな気持ちで歌っているんだろう。


 心にポッカリと空いた穴は、どうしたら埋められるんだろう。

 

 自分の、俺の心も全部満ち足りてる訳じゃない。

 だけど……だからこそ少しでも優しくしたいな……

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