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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(上)
58/114

58・練習中って大変だよね。だけどがんばるぞ~

「あーん!! もっと優しく蹴ってよー!!」


 朝、教室に来ると馬園が『ソーラン節』の練習を山岸さんとしていた。


「蹴られたくてわざと変に踊ってるんでしょー? おらーちゃんと通せー!」

「あっ!マイナス! 俺の盾になって! 一緒に蹴られて!!」

「きょ、今日も捗るね……」


 昨日に俺も練習したけども、まだちゃんとできるかは不安だ……でも、今日は貴重な軽音部の練習の時間だから、そのためにもちゃんとできるようにならなくちゃだ!


「っていうかさ! やっぱり恥ずかしいもん! 上手くできないし……」

「恥ずかしくて当たり前でしょー! 下手だから変な事してるようにしか見えないしー!」

「まぁまぁ……できないと居残りにもなっちゃうし、がんばろ……!」

「やっぱ応援団優勝は諦めよう……クラス優勝だけでも優勝は優勝だってー!」

「ええ……あれだけ馬園が煽ってたのにそれは無いって……」


 なんだかんだ皆がやる気を出したのは馬園が発端だ。しかし馬園はビックリするくらいヘタレですぐに諦めようとしちゃう。


「でもなんかB組も盛り上がっててさー、やる気出してきてるらしいなー」

「えっ!? なんでー!? やる気なら俺たちA組じゃなかったー!?」

「応援団が盛り上がってるんだー、今も練習してたぞー」

「マジで!? 見に行こう! 行くぞ! マイナス!」

「行くから行くから……引っ張らないでー!」



 そういうわけで隣のB組を見に行く。もちろん鷹田が応援団に入ってるのは知ってるから、どんなの踊るのかなっていうのも楽しみだった。


 鷹田を中心にみんなで踊っているのが見える。すごいお洒落だしキレも良くってカッコイイ……!! というか、B組の応援団ってこんなに多いの!?スマホから流れる曲が終わるとみんなで楽しそうにし始める。


「ちょ……なんでこんなにB組団結してんのー!?」

「おっ、マイナスとヘンタイじゃん。そんなに見てると見物料取るぞー」

「鷹田にみんな、すっごいカッコイイね……」

「そら流行った奴だからよー」

「鷹田ー、ここってこんな感じ?」

「あー、そこは気を付けないとカッコ悪くなりがちでよー」


 そのまま鷹田はダンスの指導を始める。というか、鷹田って本当に何でもできるイメージだけど、ダンスもできるの!?!?


「流行りだ……流行りの力でみんなを纏めてるんだ……俺たちの負けかも……」

「馬園!諦めないでよ!? 俺たちもまだまだこれからだから!!」

「『ソーラン節』で勝てるわけないってー!!」

「なんでそうなるのさー!! 普通にカッコイイって! 俺たちがまだ下手なだけだって!!」


 泣き言を言い始める馬園を諌めつつ戻る……


「俺、灰野先生ともう一生喋れないのかも……」

「馬園が灰野先生と喋れないのは割とどうでもいいけど、諦めるの早いって!」

「無理だって……俺たち、ダサいもん……」


 そんな時に山岸さんの蹴りが馬園に刺さる。いつもよりキツい蹴りな気がする。


「痛いって! 今のはガチで痛いって!!」

「いや、なんか普通にムカついたから」

「落ち込んでんだよー!! 優勝できないかもって……」

「練習中だから下手で恥ずかしいって思うのと、ダサいって思うのは別なんだけど? 何? 教えてやってんのにダサい?」

「え、いや、だってその……」

「おら、仕込んでやるから真面目にやれー!」

「痛い!! 今までの数倍痛い!! ダメ!!死んじゃう!!」

「マイナスくんはまだ練習中なだけだよね?」

「は、はい……がんばって覚えてる最中です……」



 ――


 

 演奏する時でも、曲へのイメージってあるよね。その曲がどんなのか自分の中でイメージしてそれを表現する。それは踊りだって同じだ。体格のいい熊谷が踊る『ソーラン節』はイメージにピッタリだし、すごくカッコよく見える。俺も馬園もまだ振り付けを覚えるのに必死だから、カッコよくするのはまだまだこれからなんだと思う……


「よし! マイナスと熊谷は合格!」

「ありがとうございます!」


 紅蓮先輩から何とか合格をもらって居残りは回避する……けども。


「にしても二年のお前ら! 先輩として恥ずかしくないのか!?」


 課題をこなせなかった皆、特に二年生を厳しく叱責する。熊谷と一緒にだけども、自分が引き合いに出されて誰かが叱られるのはすごく気まずい……先輩なのもあって尚更だ。


「できなかったヤツは走ってこい! 10週だ!10週!!」


 先輩の指示に従って皆が出ていく……


「熊谷は元々踊れるんだったな」

「はい、中学の時にやる事になって」

「マイナスは細かい指導はあるが、よくがんばってるな」

「あ、ありがとうございます……」

「根性なしどもに見習ってほしいもんだ……」

「皆、忙しいのもあって時間が取れないだけですよ」

「しかし、マイナスができるんだ。他のやつができない理由にならないだろ」


 熊谷がみんなのフォローをするけども、ピンポイントで俺が引き合いに出されて肩身が狭い……狭すぎる……何か上手いことを言わないと……


「その、振り付け……振り付けが、その、いいなって思って」

「ああ、違いない。洒落てカッコつけた今時のとは違う、力強さがある。細っこいのにそこに気が付くとはわかっているな」

「今まで知らなくて……」

「そうかそうか! まだ稚拙な所があるが見込みがある! 楽しみにしてるぞマイナス!」

「あ、ありがとうございます……!」

「流行りなんてくだらん! 伝統の前では今時のものなんてゴミだ!」

「えっ、そんな事無いと思いますけども……」


 思わず口をついて出てしまった意見。正しいかどうかじゃなく、トラブルを起こさないためにも従うフリをしておけって鷹田に習ったのに、本当にうっかり言っちゃった……紅蓮先輩にこんな事言ったらすごい怒られそうで、頭が真っ白になる。


「お前……」

「あ、いや、す、すみません……その……」

 

「先輩だろうと意見する根性があるとは、見直したぞ……!!」



 ――



「すみません、遅くなりましたー……!」

「マイナスくんだ♥ 応援団の練習お疲れさま♥」


 軽音部の部室では速水先輩が迎えてくれた。


「すぐに準備しますね……ってあれ? えっと……」


 よくよく見てみると速水先輩と森夜先輩のふたりしかいない。鷹田も応援団の方に顔を出してるならそれはいいとして、黒間先輩はどこだろう?


「ああ、マーくんがいない事かな♥」

「えっと……はい。どうしたんスか……?」

「謹慎だってさ♥ 大事な時期なのに困っちゃうね♥ ねー、モーくん♥」

「ええー!? 謹慎!? あれ、きんしん……?ってなんスか……?」


 速水先輩は俺に手を伸ばしてそのままギュッと抱きしめる。


「うーんかわいい♥」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよー!」


 恒例になりつつもあるけども、速水先輩の過度なスキンシップはやっぱり苦手だ……


「謹慎は悪い事した人への処分、お仕置きって事だね♥ しばらく部活とかは無しだって♥」

「ええー!? 黒間先輩、何をしちゃったんですか……!?」


 速水先輩は森夜先輩に目を向ける。


「あー、いやねー、カッとなっちゃったみたいで備品壊しちゃったんだよねー」


 空笑いしながら森夜先輩はそう言った。黒間先輩は口数が少なくて、どちらかというと手が先に出る方だと感じるから、そういう事もあるんだなって思った……前に殴られそうになったからわかる。


「マーくん今までなんだかんだ良い子にしてたのにね♥」

「そーっすねー! すみません! 俺、止められなくてー!」

「いつも一緒にいるからモーくんもひとりで寂しいね♥」

「次は無いようにするんでー! すみませんー!」


「俺達も悪い事して一緒に謹慎になろっか♥ マイナスくん♥」

「しませんよー! ダメです!! 悪い事しちゃダメです!!」



 ――



 鷹田も来て、そのまま流れで合わせ練習が始まる。速水先輩はボーカル、森夜先輩と鷹田がギター、俺がベースで今日はいない黒間先輩がドラムだ。


「モーくんはさ、普段どんな練習してるの?」


 速水先輩の普段の甘い雰囲気とは違う、冷めていて刺すようにして森夜先輩に言葉を投げかける。


「あー……えと、コード練習とか……曲の練習とかしてますねー」

「ターくんは?」

「いやー、俺もそんな感じっすね」

「クロマチックしてみてよ」


 うっす、と鷹田はギターやベースの基礎練習である"クロマチック"を始める。

 ギターの弦ひとつひとつに対して人差し指から小指まで順番に押さえて鳴らしていくという、準備体操でもあり基礎トレーニングだ。(小指から人差し指に逆に抑えたり、フレットをひとつズラしていく等もっと細かく解説したいが冗長なので省略)

 鷹田はそつなくこなしていく。


「次、モーくん」

「あい……」


 緊張もあるのだろう、全くの不慣れという事はないけども少し動きか硬い。どちらが上手いかといえば、鷹田なのは明らかだ。


「上手い下手はあるから仕方ないよね。俺もベース、そこまで上手じゃないもん」

「あ……いやー……」

「だから教わったら?俺もマイナスくんに教わってるもんね。ねー♥」

「えっ!? あ、はい!? いや、でも、その……!」


 突然に俺に話が振られてビックリ。どう答えるのが正解なのかわからない……!


「マーくん戻って来るまで寂しいでしょ?」

「そ、そうっすねー……暇な時間できちゃってー……」

「じゃあちょうどいいね。かわいい後輩とも仲良くなっちゃおうね」

「は、はい……」


「ターくんもマイナスくんも、モーくんの事よろしくね♥」


 俺たちでよければーと鷹田は怖じけることなく言う。俺もそれに合わせる。



 ――


「おーい、マイナス」


 練習を終えて解散をしてから、改めて鷹田が声をかけてくる。


「ん、どしたの?」

「いや、普通に森谷先輩の事だけど」

「教える段取りについての相談!? その、どうしようっか!?」

「やっぱり素直に受け取ってたわ。いやさ、俺達から声かける必要ねえからな? てか関わらねえ方がいいっつうの」

「え!? ええ!?」


 やれやれ、とした様子で鷹田は続ける。


「マイナスお前さ、先輩らに何をされそうだったか忘れてねえよな?」

「そ、それはもちろん……」

「運良く事なき得たけどよ、それ抜きでもあのふたりに肩入れすんなって」

「いや、でも……その……」

「気にしてんのは演奏の質についてか?ライブで上手くやりたいからか?」

「……そうなのかなぁ……たぶん……」


 とある事務所が速水先輩に興味を持っているらしい。それを踏まえ、速水先輩のために上手くやりたいって考えてるのは間違いない。でも、森夜先輩と黒間先輩の演奏に指導をすれば良いって単純な話でもないって思ってる。どうしてそう思うかは……ちょっとわからない。


「お前がお人好しで速水先輩のためにがんばりたいって思うまでは百歩譲って理解してやるけどよ、あのふたりはマジで無理だって。やめとけ。時間の無駄」

「そ、そこまで言うこと……無いでしょ……!」


 鷹田の言う事、わからなくはないよ。そもそも俺が出来ることなんてそこまでなくって、どうにかできるなんて思えない……わかってるのに……わかってるのにな……


「……なんで泣くんだよ。いや、ひっでーこと言ってる自覚は俺もまぁ無くはないぜ?」

「ご、ごめん……」

「けどよ、やりたい事をやるために何を切るのか、見極めろっつう話なんだよ。マイナスのやりたい事はなんだ?」

 

「……ロックをやりたい……」


「だろ? お前はそのために勉強もしてるし、バイトもしてんだ。ちょっと我慢して、その後にパーっとやろうぜ」


 何も言えなくて俺はうつむく。鷹田は罰が悪そうにしている。なんで俺はそうだね、って頷けないんだろう。


「あー……ほれ、これやるからよ。納得できなくても飲み込め」


 鷹田がカバンからチョコを取り出して、それを俺にくれる。


「あ、ありがとう……」

「高くつくからな……? まぁ、投資ってヤツだけどよ」


「お前には期待してんだからな。一応」

【参考にさせて頂いたページ】

クロマチック奏法を練習しよう!

https://muzyx.jp/online/lesson/chromatic/


クロマチックはなんとなく聞いているだけでも楽しいです。なんかテンション上がるような、にゅんにゅん下がるようなそんな感じが好きです。


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