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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(上)
57/114

57・真面目と適当のバランスは大事なのかも~

「おっ、マイナスも朝練? おはよー」

「馬園だ! おはよう! 見ての通り『ソーラン節』練習中!」


 上井先生の家は高校に近いのもあって早くに来れた。空いた時間で練習練習……


「昨日からめちゃくちゃ上達してるー!! どうやったらそこまでできるの!?」

「俺も教えてもらってなんだけども、なんていうか……いきなり全部じゃなくて少しずつやって……」

「正直、俺、紅蓮先輩の課題までできてないんだよね……俺にも教えて!」

「そうなんだ!? え、じゃあがんばらなきゃ。どこまでできる……?」

「本当に最初の方だけ……」

「放課後までには厳しいかも!? と、とりあえずまずは流れ、覚えよう!」

「マイナスもきっとできないって踏んでたのに……!!」

「確かにアドバイス貰えてなかったら俺もできてなかったよ……がんばろっ!」



 ――



「おー、二人ともがんばってるなー!」

「振り付けウケるー! 本当に体育祭でやるの?」

「白組の方はすっげーカッコイイのになー」

「ま、まだ練習中だから……!!」


 クラスの皆もだんだん登校してきて、その前で練習する俺と馬園……お手本の動画はめちゃくちゃカッコイイけども、素人の俺たちは振り付けを覚えるだけでやっとだ。


「なんか俺、恥ずかしくなってきちゃった……イイね……」

「なんでイイになるの!? 集中してよ! 馬園!」

 

「欲しいなら蹴ってやるから真面目にやれマゾー! おらー!!」

「ああん!! 痛い! もっと優しく蹴ってってば!!」

「うわぁ……」


 馬園の発言にはドン引き……


「マイナスくんも蹴られたい?」

「全く羨んでないから大丈夫……」

「あはは、でもキレが足りなくてビシって言いたくなるよねー。どっこいしょ!の所とか動き硬すぎで笑わせにかかってるよね? こんな感じでやらなきゃ!」


 そう言っていつも馬園に蹴りを入れてる彼女は踊り始める。彼女なりのアレンジか、力強さよりも華やかに、しかし自信満々に舞う。俺たちよりもずっとずっと上手い……!


「す、すげー……!」

「そりゃダンス部だからね!」

「なるほど……だから山岸って蹴りが良い感じなんだ……身体動かしてるから……」

「ほれほれ、ダメ出しに蹴ってやるから練習続けろー!おらー!」

「俺は優しい愛のある暴力が欲しいのにー!!」

「マイナスくんもいる?」

「指導は欲しいけども蹴りは大丈夫です……」



 ――



 音楽でも当然、練習はする。練習するという事はすなわち下手という事なのか?

 もちろん、それは違う。


 練習するっていうのは、磨くようなイメージだ。

 思った音を出すための、思った通りの演奏をするための、初心者なら初心者なりに、ベテランならベテランなりに練習する。


 そのうえで上手や下手って何か?感覚的な話なので結論は省くけども、少なくとももっと上手になるために練習するんだ。

 これはどんな事だろうと同じ。最初は下手なのは当然なんだ。

 

「お前ら真面目にやってんのか!! 完璧にしてこいって言っただろう!!」


 放課後の応援団の練習で、団長の紅蓮先輩の怒号が飛ぶ……何とか振り付けを覚えてくるのがやっとで完璧とは程遠くてすみません……


「1年のマイナスと熊谷を見習え!! 特にマイナスは酷い有様からここまで仕上げたんだぞ!!」


 えっ!? 俺はまだ振り付けを何とか覚えただけど完璧……? ちなみに熊谷は前に踊ったことがあるからできるんだってさ。


「できてないヤツは走ってこい!! と言いたいが、時間も無い……続きの練習をするぞ!」




 昨日の練習は自分の事に必死で周りが見えていなかったけども、よくよく見ると皆のやる気の差があるなって気が付く。

 俺は今も振り付けを覚えるのに必死で、馬園も同じだと思う。熊谷は元々踊れるのもあるから、真面目にやっていて……紅蓮先輩以外の3年生はまだ楽しんでるように見える。

 紅蓮先輩は一生懸命なのだけども、一生懸命過ぎる……ちょっと怖い。そして、2年生の先輩たちは……


「覚えが悪いだけならまだしも、そのやる気の無さはなんだ!!『ソーラン節』をなんだと思ってる!!」


 紅蓮先輩が2年生たちを叱りつける。そして2年生たちは平謝りで返す。……この光景は軽音部でも見たなぁって思う……


「明日まで猶予はやる。しかし、明日はできるまで帰さないからな!!」



 ――



「あ、鷹田だ。そっちも応援団の練習終わった所?」

「マイナスじゃん。終わって疲れたから飲み物奢ってくれよー」

「奢らないよ! 疲れてるのは俺も一緒なんだからね……!」


 本当の事を言うなら、いつもお世話になってるし飲み物くらいって思いたい。だけども、これは鷹田なりのジョークだってわかってるし、本当に奢られたら鷹田はイヤだってわかってきてる。それを踏まえて自販機で飲み物をひとつ買う。


「一口だけね」

「センキュー!」

 


「にしても、紅組の方大変そうだなぁ。先輩の怒鳴り声たまにこっちまで聞こえてくるわ」

「なかなか練習が進まなくて……白組の方はどうなの?」

「もちろん上々よ。有名どころだし、ダンス部部長の指導もあるし、意外と楽しくやってんな」

「楽しく……そっかー」


 やる気、あるいはモチベーション。すごく大事な要素だよね。これは押し付けられて湧いてくるものじゃないからどうしようもない……


「お、マイナスくんだ。ふたりとも応援の練習終わった所?」

「あ、近藤さん。そうだよー。近藤さんも吹奏楽部の練習終わった?」

「こっちはもう少ししたら合わせ練習する所。っと、鷹田はこれ」


 近藤さんが飲み物を鷹田に渡す。


「ん、どうもー」

「一応、労いにね。頼んだわけだし」

「へいへい。ありがたく会長の頂きますわー」


 鷹田は当たり前のように受け取る。そしてそのままカバンに忍ばせた。

 

「ところでね……マイナスくんには責任とか何も無い話で、ただの報告なんだけども……」

「ん、どうしたの? 灰野先生の指揮?」

「そう、ちょっと見えてたことなんだけどもね」


 灰野先生に言われ、吹奏楽部の今後の活動の指針を皆で話し合ったらしい。そして、真面目にやるという事で灰野先生に指揮をお願いしたが……


「ダメ出しがすごくってね、もう叱られてばかりで皆、意気消沈って感じなんだよね」

「そうなんだ……」


 この間の灰野先生のバイオリンについての指導を思い出す。普段のろくでなし具合からは考えられない音楽への拘りや表現力を先生は持っていた。それを踏まえるとどんな事になってるか……


「そういえばなんだけどもさ……灰野先生が真面目にやるか適当にやるかって聞いた時に、近藤さんはなんで答えなかったの?」


 渋谷さんが元気よく答えた後、少なくとも近藤さんもやるって答えるって思ってた。けども返事がなかったから気になっていた。


「ああ、それはね……趣味だから……かな」

「え!? でも近藤さんはすごい真面目にがんばってるし、少なくとも適当じゃないよね……!?」

「ありがとう。それでも音楽で何か目指すっていう訳じゃなくてさ、楽しく吹きたい気持ちの方が強いんだ」

「そっか……それで……」

「まぁそういう訳で吹奏楽部がちょっと荒れてるけど、私たちの責任だから気にしないでねって伝えておきたかったんだ」

「わ、わかった……」


 それじゃ、と近藤さんはこの場を後にする。


「ぶっちゃけ言うと、俺も会長が適当なわけあるかって思うんだけどな」

「おう……趣味だとしても楽しく吹くために、がんばってると思う」

「能無し考えなしでぶら下がるのが"適当"っていうんだよ」

「そ、そうなのかな……?」

「ま、必要な事以外は"適当"にやろうぜ」



 --



 家に帰ると、上井先生とカナのレッスンの最中だった。適当にただいまと声をかけて、部屋に荷物を置く。


「おかえりなさい、テルくん。上井先生のお家はどうだったかしら?」

「あ、梶原さん。なんていうか……すっごい綺麗でした!」

「上井先生らしいお家だったって事ね。うふふ」


 上井先生と同じく、ずっとずっと俺達の面倒を見てくれているお手伝いの梶原さんだ。


「ついでに『ソーラン節』の指導とかも受けちゃいました……!」

「あらぁ! 『ソーラン節』! カッコイイわよねぇ。上井先生と踊ったの?」

「いえ、指導してもらっただけで……体育祭でやるんスよー」

「そうなのねぇ! テルくんが踊る所、見てみたいわぁ」

「あはは……がんばって練習します」


 期待されると頑張りたくなっちゃうよね……見てもらえるかは別として。


「あ、そういえばなんですけども、真面目にやるのと適当にやるのってどう違うんでしょうかね。なんとなくは違いはわかるけども……」

「あらあら、また悩み事? でも、テルくんにはすごーく簡単にわかる事だと思うわぁ。うふふ」

「えっ!? わかんないなって思ったから聞いたんですよー!」

「じゃあ、お洗濯物もらってもいいかしら?」

「えっ? あ、はい」


 昨日の泊まりの時に着たものを梶原さんに渡す。


「もうー、やっぱりしわくちゃね!」

「適当に突っ込んだもので……あっ!」

「ふふ、綺麗にしておくから安心してねぇ」

「す、すみません……次からはちゃんと畳みますね……」

「いいわよー適当で。他にもっと大事にしたい事があるでしょう? それに畳めないと思うの」

「す、すみません……」

「大丈夫よぉ。その分、真面目にがんばってるテルくんを応援してるからねぇ」



 ――



「あ、お兄ちゃんおかえりー! 交代の時間?」

「ええ、そうしましょうか」

「いつもレッスンの時間、融通させちゃってごめんな、カナ」

「ううん! 大丈夫! 後で上井先生のお家、どうだったか教えてね!」


「今日もよろしくお願いします、先生」

「ええ、よろしくおねがいしますね。始める前に相談なのですが、来週から体育祭が終わるまで、週の中三日は私の家で過ごすでいかがでしょうか?」

「いいんですか!? 助かります!」

「今回は体育祭の準備で時間が必要という事ですからね。何かしらでまた時間が必要な時は相談してくださいね」

「ありがとうございます!」



 ――



「もうそれなら上井先生のお家にずっとお世話になった方がいいんじゃないー?」

「えー!? いや、それは……えー!?」


 レッスンが終わってのカナとの晩ご飯。来週と再来週は上井先生の家でお世話になる事を伝えたら、こう返された。


「なんだかんだ時間かかるし、忙しいならそっちの方が良いと思うんだけどね」

「助かるは助かる……けども、普段は家からで大丈夫だしなぁ。それに上井先生も大変でしょ絶対」

「んー……まぁたしかにご飯とかお洗濯とか、そういうもあるかー」

 

「そのさ……俺、確かに忙しいのはあるし、家を空ける事もたぶん、これからもあるんだろうけどさ」

「カナを一人にするのはやっぱり心配だし、寂しいからさ」

「だから……なるべくこっちに帰りたいなって思ってるんだ」


 流石にダメダメな俺でも、カナが自分は一人で大丈夫って無理を言おうとしてるのに気がついちゃう。


「高校生にもなって寂しいなんて……仕方ないなぁー」

「それに上井先生とずっと一緒はやっぱりすごい緊張するって!カナじゃないとくだらない話もできないし!」

「確かに。お兄ちゃんの話は上井先生には絶対につまんないよ!」

「そこまで言うー!?」

「じゃあ面白い話してよー」

「なら聞いてよ。今日、学校でさ……」

「うんうん」


 カナは大切な妹で、こうやって他愛のない話をしながらご飯を食べるのも、かけがえのない時間だよ。

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