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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(上)
52/114

52・大好きな幼馴染と一緒に帰れるのってすごく嬉しい!

 次から次へと悩みは降ってきて絶えない。

 この間に色々解決した気がするのは気の所為だったのかな? そう思うくらいにはドサドサと、問題というべきかはやってきていて、頭の中で回り始めていく。俺がどうにかできる訳でもないのに考えちゃうのは悪い癖なんだろうな。


 真っ暗とは言わないけども、日はすっかり沈んで隅っこが微かに焼けている空を眺める。カバンを鍵盤に見立ててぼんやりとピアノの練習。


「心ここにあらずだな。マイナ」

「あ、ショウく……ミヤネ」

「テンポが適当すぎるぞ」

「あはは……ごめん、何も考えてなくって」

「知っている」


 幼馴染でピアニストの宮音翔くん。今は音大付属高校に通っていて、時折こうして会えるんだ。


「ピアノの方は何も考えてなかったって意味だからね……!」

「知っている。だから滅茶苦茶なんだろ。マイナは感情に左右されがちなのだから尚更だ」

「うー……だって悩み事が多くって多くって……うー……」

「ナントカの考え休むに似たりって知らないか」

「ナントカの……? ナントカって?」

「お前みたいな奴のことだ」

「うーん、なんか良い感じの言葉じゃなさそう……」


 そんな時にバスがやってくる。


「あ、もう来ちゃった。もっと話せたらよかったのにな」

「今日はバスにちゃんと気が付くんだな」

「いつもボーッとしてるわけじゃないからね!そりゃ」

「ほら、乗るぞ」

「おう! ……ってあれ?」

「僕がバスに乗るのはおかしいか?」

「!!!!」


「勘違いするな。送迎の連絡をするのが手間で、バスに変えただけなのだからな」

「おうっ!! おうっ!!!!」

「……お前の為じゃないんだからな?尻尾を振るのをやめろ」



 ――



「友達が心配なんだけどさ、どうにもちゃんと声かけられなくてさ……」

「それはどうしてだ?」

「聞いたところで解決できないかもしれないのは当然として、何があったかを聞くわけにもいかなくて……」

「何もできる事が無いのに考えてるのか」

「知り合って短いけども、良い人なんだもん……なんていうか……恩人……」

「……つきなみだが、食事をご馳走したり、気晴らしに誘ってみたらどうだ?」

「……えっ!?」

「自分ではどうしようもない、なんて当然だ。当人の悩みは当人にしか解決できない。だから、それに立ち向かえるように支えてやるのが……ってなんだ? 僕の顔に何か付いてるのか?」

「ううん……ミヤネが人との事を考えてるってわかって……なんか、嬉しくて……!」

「常に心配されているのはマイナ、お前の方なんだが……?」

「だってだって……ミヤネは友達できた……?」

「僕に友達なんて必要ない」

「そんな事言わないでさ! 世界が広がるよ!」

「はぁ……向こうからやってきたら友達になってやるからわかったわかった」

「友達できたら教えてね……!!」



 ――



 ショウくんと同じバス停で降りてそれぞれの家路へ。

 家の門を開けてちょっとした庭を通り、玄関の鍵を開き、ただいまと声をかける。


「お兄ちゃんおかえりー!」

「カナ、ただいま! 晩ご飯はもう食べた?」

「ううん! 待ってた! 一人で食べるのは寂しいでしょ!」

「食べてても良いって言ってるのに! じゃあすぐ着替えてくるから待ってて!」

「はーい!」


 自室へと向かい、ドアを開ける。


「ただいま!」


 声をかけたのは部屋に置いてあるバイオリンとベースに向かってだ。もちろん、物だから返事はしない。でも、帰ったら楽器に声をかけるのが習慣になってるんだ。


「カナを待たせてるから、また後でなんだけどもね、今日も学校で色々あったよ」

「応援団とか、灰野先生の事とか、友達の事とか。それでね、今回は友達を誘ってみるのに挑戦しようと思うんだ」

「……やっぱり話してると触りたくなる! また後でね!」


 手早く家着に着替えたら、楽器の誘惑に囚われる前に部屋を後にする。



 ――



 パパはオーケストラの団長、ママはオペラ歌手として世界を巡っている。お手伝いさんはいるけども、晩には帰るから夕食は妹のカナとふたりきりが多い。


「友達を誘うならカナはどんな所が良いと思う?」


 そして俺は厳格なパパに秘密でロックをしたくて音大付属高校に入らずに普通科の高校に入学をした。だけど、そこで痛感したのは音楽以外の事を全然知らない事だった。


「えっ……お兄ちゃん、もしかして波多野さんをデートに誘うの!?」

「ち、違うって! 友達を! 誘って! 遊びに行く場所!!」

「お兄ちゃんの恋心はまだ未熟だもんね……でも、誘うのはすごい大躍進だよ……!」

「だから波多野さんとはそういう仲じゃないって……同じクラス委員で毎晩勉強教えてもらってるけど、友達だって……」

「じれったいのは置いておいて、遊びに行く場所……うーん。私も女の子だけども、小学生だしなー。遊園地とかだと高校生のお兄ちゃんたち的にどうなの?ってわかんない」

「あ、でもふたりきりじゃなくて何人かで行くのがいいかも……」

「それすっごい名案だね! お兄ちゃんにしては!」

「いや! だって! 元気づけたいっていうか! その!! なんていうか!!」

「じゃあ、いっそのこと波多野さんに聞いてみようよ!」

「確かにそれがいいかも……!」



 ――



 お風呂や練習を済ませた後、波多野さんとビデオ通話で勉強を教わるのが日々のルーチンになっている。


「波多野さんは遊びに行くならどんな場所が良い?」

「あ、遊びに行く場所……わ、私?」

「この間一緒に行ったゲームフェスみたいなのがやっぱり良いのかな?」

「ア、アレは行けて、すごい嬉しかった……一緒に来てくれてありがとうね……でも、そのね、いつも開催されてるわけじゃないから……」

「お兄ちゃんはね、みんなで遊びに行きたいんだって!」

「み、みんなで……そっか……え、待ってね……調べる……」

「カナは小学生だから遊園地とかがいいなー!」

「ふふふ、カナちゃんのプランは絶対楽しいよね」

「じゃあやっぱり遊園地が良い?」

「うーん……悪くないんだけどもね、お金の問題になるかな……」

「それなら俺、出すから大丈夫だって!」

「ダ、ダメダメ!! 違うの! その、マイナスくんがお金持ちだってみんなにバレるのもそうだけども、そんな事されたら、違うっていうか……イヤなの」


 俺たちが通ってる高校はかなりバカ高校という話で素行が悪い。そして俺の家は正直に言うと比べて裕福で、それが知られて金銭的なトラブルが起こると厄介だからという事で、皆に秘密にしてあるんだ。高校では波多野さんと灰野先生だけが知っている秘密。

 

「なんだろ……鷹田くんって、そういうの嫌いって言ってるでしょ?多かれ少なかれ……皆、ある。私も……マイナスくんにそういうのされるのは……イヤ……なの、ごめんね……」

「そ、そうなんだ……知らなくてゴメン……」

「ううん……なんだろ……友達でいたいから……隣に並んでても良い……って思いたいから……」


 わかる……俺も波多野さんや皆を見てて、こんなにすごいのに友達なのか、隣にいていいのか悩んだもんね……


「わ、わかった……お金でどうこうっていうのはやらない事にする……!」

「うん……聞いてくれてありがとうね……それでね、お金の事も踏まえてなんだけどもね……」

「おう……なんだろ……!」

「ゴメンね……私だと遊びに行く場所、わからなくて……皆に聞くのがいいと思う」



 ――



「はじめまして! 妹のカナです! お兄ちゃんがいつもお世話になってまーす!」

「ほえー! カナちゃん言うんか! かわええなぁー! ウチは渋谷やで!」


 最近にとある流れで始まったグループ通話。最初は勉強するという名目だったけども、今は雑談もしたりしている。


「俺は同じクラスの熊谷だー。よろしくなーカナちゃんー」

「あ、あれ……今日は4人……だけかな……?」

「近藤さんや鷹田、新井は忙しいだろうからなー。でも月野さんが来ないの珍しいなー」

「そ、そっか……月野さんに見せたいのがあったんだけど……」

「そうなんだ。どんなのだろ……?」

「ま、まだ秘密なの……も、もう少しだけ待ってて……」

「そか……てかカナちゃんいるのにウチらの事ばっかり話しててゴメンなー」

「ううん! 大丈夫だよ! 私も急にお邪魔してゴメンね!」

「その、渋谷さんは知ってると思うんだけどもね。月野さんが今日、元気が無かったでしょ?」

「それな、ウチも気になってん。なんか知らんか皆に聞きたかったんよ……」

「月野さん元気無かったの……? し、知らなかった……」

「俺も知らなかったなー……金曜日はいつも通りだったし、土日になんかあったのかなー」

「むむむ……名探偵シーちゃんでもわからん……調べる必要があるで!」

「この前みたいにこっそり尾行するかー?」

「クマヤンそれは言うなや!! バレるやろ!! バレる!!」

「探偵ごっこしてたの!? いいなー!」

「あはは、何追いかけてたんだろ……?」

「そ、それは言えんよ! 探偵は秘密を言わんからな!」

「つまりバレてないんだなー」

 

「とりあえずね、俺、月野さんが心配で……気が紛れるなり晴らすなりしたくてさ……どこかに皆で遊びに行くのってどうかなって相談したくて」

「おお……ええなっ! 友達が落ち込んでたら元気付ける! 完璧な青春や!」

「あ、そ、それなら私……月野さんが喜びそうな場所……き、聞いてみる……」

「波多野さん、最近積極的だー!」

「と、友達に……なりたいの……」

「ノンノン……!! 少なくともウチらはノンノンの事、友達やって思っとるからな……」

「あ、ありがとう……その……友達って……私も……自信を持って言えるように……がんばる……」

「波多野さん、大袈裟だなー」


 そっか。友達だ、って自信を持って自分が思えるようにがんばってるんだ。波多野さんも。隣に並んでても良いって、そういう事なんだ。そして、俺が波多野さんの隣に並んでても良いって思えるようになったのは月野さんのおかげなんだよね。


 

 だから、できることをしたい。

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