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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
恋愛経験ゼロだけど『愛の挨拶』を弾いてもいいですか?というか恋人とか結婚って何の為にあるの……?
33/114

33・すごく……鬱いです……

「今日はどうだった?」

 カナとの晩ご飯、いつものように聞く。


「宙太くんが転校しちゃったって、みんなしょんぼりしてた」

「あ、そっか……俺たちが知ったのって偶然だもんね」

「宙太くん、なんだかんだいつも元気で楽しくしてたからね。

 最近は優しくなったっていうのか、それで皆といっぱい仲良くしてたし……」

「急な引越しで、皆は挨拶できなかっただろうしね……」

 

「お兄ちゃんの方はどうだった?」

「あ、えっとね、今度、友達みんなと勉強会する事になったよ」

「へー! よかったじゃん! お土産持たせないと!」

「言ってる事が保護者過ぎるよ!!」



 ――


 晩ご飯を済ませた後、バイオリンを触る。


「……もしかしてショウくん、引越しでもしちゃったのかな。

 いや、だって留学とか全然あり得るし、そう考えるともう会えなくなってもおかしくないし……」


 会えるのが当たり前?

 何かがあって、それで急に離れ離れになるなんて普通にあり得る。

 ショウくんがバス通学を始めるって言ってウキウキしてたけども……


「……はっ、ショウくんの家に行ってみる……??」


 一応歩いて行ける距離だったはず……

 でも、こんな夜中に出歩くのは……

 いや、それに今日は偶々だったかもしれないし、まだ、まだ、ゆっくり落ち着いて、待ってみよう……


「……これって灰野先生の言う、鬱くなってるって奴なのかなぁ……」


 ――抱えてる気持ちを、バイオリンに乗せる。



 ――



「あれ? マイナスくん大丈夫? 元気無さそうに見えるけど……」

 夜の波多野さんとの勉強時間。開口一番に指摘される。


「え!? ええー!? ぜ、全然そんな事ないよ!? 大丈夫大丈夫!」

 勉強に切り替えるぞ! って気合入れて始めたはずなのになんで!?

 波多野さんってそういうのわかるの!?


「そ、そう……? 聞くくらいしかできないけども……何かあったら聞くからね……?」


 心配されてる……心配されてる……

 大丈夫、本当に大丈夫。

 ショウくんの事は俺が勝手にアレコレ考えてるだけだから……


「あ、そうだ! えと、今度の土曜日の午後さ、波多野さん空いてないかな!?」

 無理やりかもしれないけども、話を切り替える!


「え、えと……空いてるよ」

「土曜日にさ、みんなが勉強会してくれるって言っててさ……それで波多野さんもよかったらどうかなって」

「べ、勉強会……わ、私、行っていいのかな……」

「俺がいつも勉強教わってるの波多野さんだしね……それに、みんなで集まれたらいいなって……」

「そ、そっか……わ、わかった……そ、粗相のないようにするね……」

「波多野さんなら大丈夫だよ! いつも頼んでばっかりでゴメンね!!」

「ううん、大丈夫大丈夫……! 一緒に……がんばろうね! クラス委員とかも……」

「ま、任せて……! ちなみに灰野先生に何かされたら言ってね……ちゃんと抗議するから……」

「ふふ……ありがとう」


 少なくとも、今関わってくれてる皆と一緒に居られるように勉強頑張るぞ!!!



 ~~


 

(やっぱりマイナくんって隠すの下手だよね……)

 悩み事を抱えてる時はいつも以上に元気アピールをする所があって、今日は勉強がんばるぞー! って張り切ってる所でわかってしまう。


(でも根掘り葉掘り聞いても仕方ない事はあるもんね)

 一から十まで知る事なんてできないし、だからこそ知りたいなって思ってずっと眺めてる。


(灰野先生とも上手くやらなきゃなー)

 帰りのホームルームの後、灰野先生と何とか話をした。

 破天荒が過ぎる先生だけども、マイナくんがこの高校で上手くやれるようにしたいって伝えて、一緒に手伝うっていう話になった。


(そういえば、マイナくんの事、調べたらもっとわかるのかなぁ……)

 灰野先生にマイナくんの事は推しと伝えたら、すごい顔をしてたなぁ……だってすごい音楽家でたぶんお金持ちで、そんなマイナくんに並んで良い私じゃないってすごい思う。

 そして調べたらきっと、畏れ多くなってしまってギコちなくなってしまうのも予想できる。


 ――だから、まだ知らないままでいようと思う。


(あ、ハヤトさんからのメッセージ来てる)



 ――



 火曜日からは試験一週間前という事で部活動やらは休止になる。

 つつがなく一日を終えて、真っすぐ帰宅しようとする。


「おっ、マイナスやーん!」

「あ、渋谷さんだ。バスだったの?」

「せやで! 自転車やとスマホ弄れんしね!」

「あはは……ながら運転は危ないもんね」

「一緒に乗ろ乗ろー! つかマイナスに聞きたい事あんねん!」

「え、俺……? 他の友達の付き合いとかはないの……?」

「今日はリアタイで見たいのがあって帰る日なんや!」

「り、りあたい……?」

「まぁまぁええから! ほら、バス来たで!」

「お、おう……!」


 渋谷さんと話、合うのかなぁ……?

 不安ー……!



 ――



「うああー……良い曲過ぎるよこれ……」

 アニメの劇中歌、それを渋谷さんに教えてもらって一目惚れ……いや、一耳惚れになるんだろうか……?


「せやろ! もう歌のタイミングとかも含めて最高の最高でな……

 このシーンに至るまでもしーーーっかり知ってもらいたい所なんやけどな」

「映画とかでも印象的なシーンに流れる曲とか耳に残るもんね……」


 アニメ、映画に限らず、演劇やオペラといった舞台でも劇伴というのは切っても切れない関係にある。

 物語を歌にするという場合もあるし、そういう意味でも順調に進化してこんな最高な曲が生まれるんだよね……!


「マイナス的にはこの曲のドラムって難しそうやろかー?」

「えっ、待ってね。もう1回聞かせてもらってもいい?」


 おそらく渋谷さんが叩きたいっていう前提でもう一度曲を聞く。

 ドラムっていうのは基本的な型があり、有名なものだと8ビートになる。

 これを叩けるようにするのを最初の目標にするのが一般的な上達への道だ。


 ――そのうえでこの曲は……


「完璧に叩くってなると難しいね……『ブレイク』ってわかる?」

「ブレイク??」

「曲の中で演奏がスッと無くなって、歌だけになったりする時とかを『ブレイク』っていうんだ。

 この曲は色んな表情を見せるように細かいブレイクが多くあってね……」

「うんうん……」

「ビートを刻む以外に考えないといけない事が多いから難易度は高いかなぁ」

「はえー……」


 渋谷さんって好きな事に対しての姿勢はすごく真面目で真摯だなぁって思う。


「練習したらいつかは叩けるようになるやろかなー?」

「えへへ、それはもちろん。渋谷さんの目標なのかな? この曲」

「そうなんよ! 叩けるようになりたいんやー! せやけど目標高過ぎやろか……?」

「目標があると捗るから良いことだよ! 楽譜を買って好きに練習するのも手だしね」

「マジか……! んなら楽譜、買ったろ……!」



 がんばってる姿ってやっぱりいいなぁ……できるだけ応援したいな……!



 ――



 渋谷さんとのドラム講座をしつつ、バスが駅に着く。


「やっぱマイナスは音楽博士やなぁー」

「それ以外からっきしだけどね!」


 渋谷さんを見送って俺も帰ろうと思った時に、見覚えのある人が目に入る。


「どしたん?」

「あ……知ってる人を見かけて」

「なら行ってくるとええで! うちはもう帰るからー!」

「えへへ……ごめんね、ありがとう。またね!」

「わかんない事あったらまた聞かせてーなー! またー!」


 渋谷さんと別れてからその人の所へ……


「ハヤトさんこんにちはー!」

 この間のゲームフェスの時に見かけたあの人だ。


「あ、えーっと――」

「ゲームフェスタの時に会った、波多野さんの友だちのマイナスッス!

 いや、マイナっていう名前なんすけどマイナスって呼ばれてて……」

「ああ、あの時の。マイナスくん」


 俺の印象はやっぱり薄かったかなぁ?

 まぁ、俺って関係ない人だもんね。


「見かけたんで声かけちゃいました! ハヤトさん、ここらへんで働いてたりしてるんスかー?」

「ん、ああ……そうそう、バイトでこっちの方にね」

「へー! じゃあ、もしかしたらそのうち波多野さんにも会えるかもしれないッスね!」

「いや、それはストーカーみたいっていうかさ……たまたま高校とか知っちゃったわけだしね」


 ……あ、これは俺がやらかしてた系で、もしかして邪魔しちゃってる感じだった……?


「あー……なら俺、波多野さんに伝えてみましょうか? 波多野さん、この間にハヤトさんの話してましたし!」

「え、そうなんだ。じゃあお願いしちゃおうかな」

「俺、ゲームについて全然わからなくて……

 だからたぶん、話が合うハヤトさんとの方が楽しいんじゃないかなぁって思ってて」


 ――あれ、なんだか自分で言っててちょっと胸がチクチクする感覚がある……。


「そうだろうね」

「えっ」


 ――いや。『えっ』じゃないよねって言葉にしてから思った。


「夜、たぶん君たちが一緒に勉強してる時、俺のところにあの子からメッセージ飛んでくるからね」

「そ、そうなんスか……?」

「君がどう思ってるかは知らないけども、やっぱり負担なんじゃないかなぁ。僕はわからないけど」


「まぁ、恐らくだけど迷惑に感じてるんじゃないかな。どうかな?」

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