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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
恋愛経験ゼロだけど『愛の挨拶』を弾いてもいいですか?というか恋人とか結婚って何の為にあるの……?
31/114

31・やる時やる奴最強ナンバーワン!

 日曜日の朝、今日は熊谷に誘われていた野球部の交流試合を応援しに野球場へとやってきていた。

 野球部の他の人の案内も受けて観客席にまで行くことができた。


「熊谷ー!! 来たよーー!!」

 みんなよりも大きい熊谷はすぐに声をかけられた。

「おー! マイナス! 本当に来たんだなー! なんか嬉しいなー」

「いやいや、来るよ! 友達なんだし!」


 これはちょっと嘘……助けてもらった後からずっと気になっていて……

 会って確認したくて無理して来ちゃったんだ。


「あの後はちゃんと行けたかー?」

「おう! おかげさまで! 本当にギリギリだったからさ……本当にありがとう!」

「よかったよかったー」


 熊谷が聖人過ぎてつい拝みたくなる……

 ありがとう、ありがとう……


「熊谷こそ、あの後は大丈夫だった……?」

「あー、うんー。駅員さんとか来ちゃったけども、何とかー」

「そ、そっか……何ともなかったならよかった……」


 思ったよりは騒ぎやトラブルになっていなくてそれはちょっと意外。

 だけども熊谷が無事なら本当にまずはよかった。


「あー、時間だ。色々してくるなー」

「おう! いってらっしゃーい!」



 ――



 うちの高校は割とバカ高校らしい。

 ただ、過去に野球で夏の大会に出たことがあって野球部の人気があるそうだ。

 チーム入りはもちろん、ベンチ入りできない部員も多い。


「熊谷の友だち系?」

 野球部の部員ではなさそうな人に声をかけられる。


「おう、同じクラスメイトなんだ!」

「練習試合なのに来るなんて、熱心系だなー」

「あはは、誘われたしねー。でも野球はあんまり知らないんだー」

「なのに来るって熊谷にゾッコン系ー? まぁ俺も好きだから来た系なんだけどさー」

「そうなんだ? 同じ高校……じゃないよね」

「中学までは野球一緒にやってた系なんだけど、高校は別になった系なのよ」

「へー、今はやってないの?」

「俺ってば熊谷応援してる方が楽しい系って気が付いちゃったんだよねー」

「そうなんだ……」


「熊谷には残念がられたけどー」

「熊谷は野球、上手いの?」

「もうそらな! 小中でバリバリ系よ!

 上手いだけじゃなくて真面目で誰にでも優しくて、たぶんゲームなら主人公系確定だな」

「真面目で優しいっていうのよくわかる! 野球してる所見れるの楽しみだなぁー」

「へへへ、俺も一緒系」


 今日はうちの高校を合わせて3校で試合をするらしい。

 最初はうちの高校がやるみたいで、選手以外の野球部はこっちに戻ってくるんだけども……


「あれ? 熊谷ってチーム入りじゃない系なの?」

「いやー、監督や主将の考えとかあるからなー」


 俺たちのいる観客席側に戻ってきた熊谷。

 てっきり熊谷が野球をしている所が見れると思ったのに、ちょっと残念。


「なんかあった系とか? 揉めたり?」

「あっ、もしかして――」

「いや、違うから大丈夫だぞー」


 あはははーと熊谷は笑いながら否定する。

 でも、やっぱり関係あるんじゃないかなって思っちゃう……


「そ、そっか……」

「あ、そうだー。こっちはマイナスでクラスメイト。

 こっちは幼馴染の新井。二人ともよろしくなー」


 よろしく、と言いつつ周りの野球部員と一緒に応援をする事にした。


 ……


「ところで……野球ってどういうスポーツなの?」

「えっ、知らない系……?」

「バットでボールを打つのはわかったけども……その後、よくわかんないんだよね」


 カキーン! と良い音がして良い感じなのかな!? って騒ぐとその後にサーッと静かになってたりする。


「なら説明するかー、熊谷は観察に忙しい系だしな」


 スタンドにいる野球部員たちは応援をしてたりする。

 その中で熊谷はグラウンドの選手たちをジッと観察しているのが見える。


 ……


「やったーー!! 塁に出たーー!!」

「ヒュー! こういうギリギリ系がやっぱり最高なんだよねー!」


 周りが盛り上がるのに乗っかって俺も盛り上がる!

 応援するのって雰囲気だけでも楽しいなぁー!


「点数的には……うちって負けてるのかな?」

「負けてる系だなー。実力が同じくらいの所じゃないと練習にならないから仕方ない系だけど」

「うー、なんとか逆転しないかなー? がんばれー!!」

「へへ、熱込めるなー全力で応援しようぜー」


 ……


その後、うちの高校はなんだかんだ負けた。



 ――



「熊谷、熱心に見てたねー」

 昼休憩、合間を見て熊谷に声をかけにいく。


「いやー応援でも楽しいしなー」

「野球、本当に好きだね。熊谷って」

 たとえグラウンドに出れなくても前向きな熊谷……

 尊敬しちゃう……


「あはは、人のをじっくり見るのも勉強だからなー。

 投球フォームはもちろん、バッティングも。

 後から何とでも言えるけどもあの時はこうしたらよかったなとか……」

「ま、待ってね。えーっと……?」


 普段はのんびりな熊谷が、ガラッと雰囲気が変わって野球の事について語って考えてる。

 話してる事はよくわからない。


「ん、あっー! ごめんなー! 夢中になってたー!」

 あははーと笑う熊谷。


「ううん、俺の方こそ全然わかんなくて……」

「癖でさー、分析っていうのかなー?」


 俺は打てた打てなかったくらいしかわからなかったけども、熊谷が見てるのはそこから踏み込んだ世界なんだなぁ。

 そしてその感覚って、俺の音楽に対する姿勢と似てるなぁって思った。


「好きだとそうなるよね!」

「マイナスもわかるかー? 俺、野球が好きなんだー」


 分野は全然違う。だけども、なんだか勝手に親近感が湧いちゃう!


「熊谷が野球してる所、見たかったなー」

「あははー、ごめんなー」


 いつか熊谷が野球してる所見れますように……

 そう思っていた時に熊谷に声がかかる。


 元気よく挨拶する熊谷、そして話が終われば振り返ってこう言った。


「次、ベンチだけども出れるってさー!」

「本当!? やったあああああああああ!!!」


 熊谷が喜ぶ以上に、俺が大はしゃぎしちゃった!



 ――



「熊谷の出番まだかなー??」

 熊谷の出番を今か今かとかじりつく。

「そのうち必ず来るから落ち着いて待つし」

 野球については本当にわからないから新井の言う事を信じて待ち待ち……


「点数的に今は俺たちのチーム負けてる?」

「負けてる系だなぁー」

「そんなー……! がんばれー!!

 あ、打ったー!? うおおおお!!」

「おー、良い感じー!」

「がんばれがんばれー!!」


 よくはわからないけども、勝ちか負けなら当然勝ちが良い!

 だって熊谷のいるチームだもん!


「そろそろ系かこれー」

「熊谷の出番!? 出番!?」

「今な、塁に全員出てて……とにかく大チャンス系なわけよ」

「うん!! うん!!!」

「そんで、相談してて……ほら」


 ――熊谷がバットを持ってグラウンドに出てきた!!


「うおおおお!! 熊谷だああ!!!」

「ほれ、全力で応援していい系だ! マイナス叫べー!」



 〜〜



 ――バッターボックスに立つ。

 ――バットを構えてピッチャーを睨む。


 今日は練習試合なのはわかってる。

 だけども、チーム入りするために、一番大事な場面だ。


 ――凡退なんて絶対にできない。


 集中すればまるで世界には自分と投手の2人しかいないようにさえ感じる。

 一挙手一投足がコマ送りのように感じられて、どうしたら良いかを頭で考えるよりも先に身体が動いていく。



「――熊谷!! がんばれ!!!」


 

 ――そんな勝負の世界に届く声があった。


 誰が応援してるかすぐにわかる。

 どこから聞こえてくるかもわかる。

 視界に捉えることは叶わずとも、心に伝わる。



 ――応援に応えたいよなぁ。



 コマ送りの世界にグッと力が入る。


 

 ――手応えは完璧だった。

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