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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
高校デビューは大失敗!?それでもロックがやりたいです!
19/114

19・引いてダメなら押してみる!つもりだったんだけどあれー?

 金曜日の朝、登校の前にちょっとした準備。速水先輩に話を聞いてもらうためにあるものを用意する。


「これとこれとこれと……よしっ!」


 上手くいくかはわからないけども……少なくともいつもと違うアプローチを仕掛けてみるぞ!



 ――



 そして、昼休み。

 恒例になってきたので速水先輩を見るために1年の他のクラスの人が来てたりもする。


「今日は甘んじて受ける今日は甘んじて受ける……」

「おー、先輩の迎え、受け入れるつもりになったかー」

「いや、違うの熊谷、その……作戦があるから……」

「おー、上手くやれなー!」

「わ、わかってる……!」


 ダメ元なのはわかってるから大丈夫……でも、話をするきっかけにはなればいいなって思ってる……


「……あれ、先輩まだ来ない」


 そろそろ来ても良いはずなのに、なんでだろう?


「確かになー。様子見てきたらどうだー?」

「…………そうしよっと!」


 来なくて残念というわけではなく、普通に心配だから見に行く事にした。



 ――



「えと、速水先輩ー……いませんかー……?」


 3年生のフロアに恐る恐る来て、なんとか速水先輩の教室へと行く。

 他の先輩にも声をかけられながら覗いてみると、ぼんやりと窓から外を眺めている速水先輩がいた。

 お邪魔しまーすと教室に入って速水先輩に声をかける。


「あ、あの、は、速水先輩……大丈夫ッスか……?」

「ああ……?」


 物思いにふけるのを邪魔されたからか不機嫌そうな様子でこっちを見る。ご、ごめんなさい……


「ああ……マイナスくんじゃん、お迎え来なくて寂しくなっちゃった?」

「は、はい……じゃなくて! 来なかったので、どうしたのかなって……」

「うーん、やっぱりかわいいね♥ でも今日は無し♥ 食欲も無くってね♥」

「ええ……!? 調子悪いんスか!?」

「そういう日もあるってだけ♥ だから今日はいいよ♥」

「ええ……いやでも……あー、うーん……!! ちょっと待っててください!」


 俺は走って教室を抜け出して学食へと向かう。走ってる途中で、先輩の返事を聞かずに行ってしまったのを思い出した。

 そして、学食で何とかパンを買い、自販機で飲み物を買って、もう一度先輩の下へ。


「これ、食べてください!」

「……えっ?」


 また窓から外を眺めていた先輩は少し驚いた様子だった。


「ちゃんと食べないと大変ですって! 俺もすぐ忘れがちなんスけど、そういう時は食べなさいっていつも言われてるんで……」

「……マイナスくん」


 ……もしかして先輩に言い過ぎた? 後輩として差し出がまし過ぎた……?


「かわいいね♥」


 そのまま手を伸ばされて、先輩に抱きしめられてしまう。


「あ、げ、元気出たんなら幸いッス……」


 翻弄されっぱなしだけども、元気が無いよりは絶対に良いから我慢する……


「でも、食欲無いのはホントなんだよねぇ……」

「せ、先輩ー……」

「だから、食べさせて♥」

「え、ええー!?!?」

「ダメ?」


 は、恥ずかしいよぉ……でも、買ってきたついでなのもある。だからパンをちぎって先輩の口に……


「ほら、あーんって言わないと♥」

「あ、あーん……」


 パクッと先輩が口にする。


「うん、おいしい♥」

「あはは、よかったッス」


 俺、いったい何をしてるのこれ……?



「私 も 速 水 先 輩 に あ ー ん し た い よ お お お お お ! !」



 渡辺先輩が咆哮とともに校舎の壁に頭突きしてるのが見えて、俺は考えるのをやめた。



 ――



「マイナスくんの指にまだ速水先輩の味が残ってるかもしれない」

「流石にその発言はドン引きっすよ渡辺先輩」

「ヒーン……」


 放課後の軽音部での鷹田と渡辺先輩との会話。

 渡辺先輩は間接速水先輩を味わおうと、どう俺を調理しようかと見ている。


「毛皮を剥いで私がマイナスくんになれば速水先輩とワンチャン……」

「体格差が問題っすねー渡辺先輩はデカいんで」

「誰がデカいって? ゴリラだって?」


 手に持っていた、像が乗っても壊れないペンを渡辺先輩は握り潰す。


「さーせん、マイナスは細いんで大きくしないとっすね」

「じゃあマイナスくん、いっぱい食べて大きくなってね」

「ヒーン……」


 俺、毛皮になる前提じゃないッスかヤダー!!


 ……


 そんなこんなで皆も集まってきて、速水先輩もやってくる。


「皆、来てるね」


 速水先輩はやっぱりいつもの調子じゃない。普段よりしっかりとしてる感じだ。


「今度の合同ライブなんだけど、俺たちが出るから」


 速水先輩はサラッと言う。他のバンドの人は少し不満そうにしてるが黙っている。


「そういうわけでよろしく。森夜と黒間、鷹田はやる曲決めたからパート練習して。時間来たら適当に合わせ」


 ズンズン決めていく……速水先輩には本当に何かあったみたいだ。


 話が終わり、皆がここから離れていく。

 そして、速水先輩もベースを手にして練習を始めようとした時。俺は考えていた計画をやってみる。


「あの……先輩」

「……なに?」


 普段の様子と違うから、少し躊躇うけども……勇気を出してみる。


「よかったらメンテナンスをさせてくれないッスか。先輩のベースの」

「練習したいんだけどな」

「う……そ、そうッスよね」


 タイミング、やっぱり読み違えたよなぁ……。


「まぁいっか。マイナスくんがやってくれるならお願い」

「は、はい!」


 そういうわけで早速取り掛かる。



 ――



「えっ、そういう所までやるんだ?」

「あ、はい。フレットって音にも関わるんで大事なんスよ」

「なんでテープ貼るの?」

「これ、金属磨きなんスけども、指板に付くと痛ませちゃうんス。なんで付かないようにテープで貼って保護するんスね」


 楽器の手入れも俺はレッスンで習っている。


「詳しいんだね」

「えへへ、本当に好きなんで」


 今、速水先輩が俺の話を聞いてくれた!! 聞いてくれたよね!?!?

 合わせの時間もあるので他のも手早くやっていく。初めて見た時の、ずっと放っておかれていたベースを綺麗にしてあげる事もできて嬉しい。


「弦交換はこれ、どれくらいやってなかったんスかね……」

「覚えてないかな。少なくとも今年はやってない」

「マ、マジすか……」

「誰も期待してないからね、俺の演奏には」

「そ、そんな事無いと思うッスよ!?」

「歌と……後は顔と雰囲気だけ? 期待されてるのはそういうのだからね」


「その……ベースはなんで選んだんスか?」

「余ってたから。ホントは友だちと軽音部に来てさ、一緒にやってたんだけどね。それで」

「やっぱりベース、余りがちですね……」

「で、その後に先輩のバンドの面子が足りなくてね、引き抜かれたわけ。ちなみに元のバンドは解散しちゃった」

「ええ……」

「仕方ないね、音楽性の違い? も見えてきたし、解散してよかったよ」

「そうなんですか……」


 弦を張り終えてチューニングを始める。


「チューナー使わないの?」

「あ、使うッス使うッス!」


 ひと通りできた所でチューナーで測る。


「できましたー!」

「……絶対音感って奴?」

「あ、はい、まぁ……そうッスね!」


 速水先輩は俺の事をじっくりと見る。


「ベース、1回弾いてみてよ。さっきの曲とか」

「え、あ、はい……ま、待ってくださいね……」


 鷹田の言ってた事を思い出す。先輩より上手く弾かないように、って言ってた気がする……


「手は抜かないでね」

「え、そ、そんな事するわけー」

「流石に俺もわかるからね?」


 ギロリとした目で俺に言う……あからさまな事は許されないだろう。


「……わ、わかりました」


 楽譜を受け取る。先輩の好きな洋楽でそれは俺がずっと憧れていたロック。メロディアスな甘い、セクシーな曲だ。優しく包むようなベースを求められていて、言い方が悪いけども、"エロい"音になる。


 曲のイメージを頭に流しながら、曲が叫びたがってる事を思い浮かべながら、ベースを弾く。綺麗にしたベースは本当に良い音を出してくれていて、たぶん、誰もがこの音に振り向いてくれるだろう。


 ……


「マイナスくん」


 ひと通り弾き終えた所で速水先輩が静かに声をかける。


「は、はい」


 思わず、夢中て弾いてしまった……ど、どうしよう……怒ってたりしないかな……


「スゴいね、良いね」

「あ、ありがとうございます!」


 そのまま先輩は俺を押し倒す。気を抜いていた俺はそのまま床に仰向けに寝かされて、先輩に覆いかぶさられる。


「ねぇ、マイナスくん」

「は、はい……!?」

「本当に好きになっちゃったかも♥」

「えっ!? ええっ!?」

「俺の為にベース弾いてよ」

「えっ! それって……!?」


「バンドはさ、基本的に4人。ギター2人にベースとドラムね。これは当然だね?」

「は、はい! なんで、俺、補欠で……」

「これさぁ、人が多かった頃の昔の規定だからさぁ、別に今、守らなくていいよね?」

「えっ、あ……せ、先輩がそう言うなら……?」

「一応、俺もベースの練習はする。だけど、6月のはマイナスくん弾いて?」

「せ、先輩は……ボーカルッスか?」

「その通り♥ 専念したいの」

「そ、それなら喜んで……!!!」

「うん、じゃあよろしくね、マイナスくん♥」


 嬉しい! 嬉しい!! バンドに入れた!? 俺、ロックができるんだ!!


「あ、あ! でも、その! ひとつだけ! ひとつだけお願いさせてください!!」

「……何?」

「せ、先輩が可愛がってくれるのは嬉しいッス! けど……けど!!」

「だけど?」

「俺の話や気持ち、少しだけ、少しだけでいいんで、聞いてくれませんか……?」

「……どういう事?」


「お姫様抱っこは恥ずかしいとか……今、この状況とか、すごいど、どうしようとか……」

「……」


 思わず目を瞑る。ここまで言うつもり無かったのに、雰囲気で言っちゃった……

 先輩がそっと俺の頬に手を当てる


「……かわいい♥」

「あ、あうぅ……」


「うん、けどわかった♥ このかわいいマイナスくんをひとり占めしてほしいって事だよね♥」

「違いますよ!? 違いますよー!!」

「だって恥ずかしがるマイナスくん可愛すぎるんだもん♥ 他の人に見られるのイヤなんでしょ?」

「そうですけども、だからってそういう事でもなくてー!!」

「お昼にお迎え行くのはやめるけど……埋め合わせよろしくね♥」

「は、はいぃぃ……」


 速水先輩に話を聞いてもらう目論見が成功したのか、失敗したのか、わかんないです……


 でも、だけど、バンドができてロックができる。させてもらえる事になった。

 それは本当に意外で、だけど本当に嬉しい事だった。



 俺はすこく嬉しい!!!!

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