表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
夢のような世界に迷い込んでしまったんだけども、私はモブ役じゃないんでしょうか?
153/155

153・世界が変わった後で

「あのアドリブから本来の展開へ戻っていくの凄かったなぁー!」

「ちょっと強引な所もあったけど、トラブルの事を考えるとむしろよかったと思う」

「どうなるかわからなくなったから、知ってた舞台なのにドキドキしたなぁ」

「ハッピーエンドが際立った気がする」


 舞台が終わった後、私たちはテラス付きのラウンジに案内された。座ってゆっくり話しても良いし、舞台にまつわるちょっとした小物を見る事もできる。外には噴水や花壇もあるから、そっちに行っても良い。みんなが自由に過ごして、話せる素敵過ぎる場所だ。

 その中で私は、誰かの感想を勝手に聞いて勝手に喜んだりしている。舞台、最高でしたよね私もそう思います。


「なんか結果的に私のナイスアシストだったって事だよなぁ」

「それは……それは厳密には違うと思います……灰野先生」

「アドリブがよかったってつまり、アドリブ起こさせた要因がやっぱり私だしさ」

「鹿倉さんたちが華麗にトラブルを乗り越えただけです……!」

「いや、だからその見せ場を私が提供したっつうわけで」

「素晴らしいフォローをしてくれた鹿倉さんたちに感謝しましょうね……?」

「なんで急にそんな正論で詰めてくるんだよ……」

「いえ……その……でも、謝る時は私も一緒に行きますから……」

「なんで急に保護者?」


 フワフワと思う事はたくさんある。ちゃんと言葉にしようとすると難しいけど、灰野先生も実は申し訳ないっていう気持ちがあると思うし、でも、謝るキャラクターじゃないからこんな事言っちゃうみたいな。だから灰野先生を引きずってでも、ちゃんと謝罪した方がいい気がする……みたいな。

 仮に、私が鳴らしていたら……合わせる顔が無いけど謝りたいなぁ……


「あ、あの……」

 声をかけられて、顔を向ける。最初のあの人だ。飲み物を両手に持っている。

「これ、よかったら……」

「おー、ありがとよ。気が利くじゃん」

「あ、いえ……」

 灰野先生、それ、私の為に持ってきてくれたものだと思うんですけど……まぁいいや。

 そのまま彼は去ろうとするけども――


「舞台、すごいよかったですよね」

「えっ? あ、はい」

「あのアドリブ、本当に感動しちゃって……あなたはどうでしたか?」

「えと……みんなと同じような感想……になっちゃいますけど」

「よかったら聞きたいです。どうですか?」

「あ、その……喜んで」


 彼の後ろに、彼の友達たちが応援している様子が見えていて。

 たぶん隠れているつもりなのに丸見えなのが面白いなぁ。

 灰野先生も見えていて、なのにイジワルするのは良くないと思いますよ。


 ……


「失礼致します。灰野さま、先ほどの件でよろしいでしょうか?」

 談笑中にさっきの警備員さんから声をかけられる。

 これはさっき後回しにしてた色々の事だよね。私も行った方がいいかなぁ……?


「よろしくねえからまた後でな」

「そんな事無いので行きましょうね……」

 灰野先生の手を取って立ち上がる。駄々こねても連れて行きましょうね。


「あ、行っちゃいますか……?」

「ええ、はい。その……あなたとお話できて、本当によかったです。ありがとう」

「……はい。舞踏会も、予定、あるんでしたもんね」

「その通りです。なので、一緒には行けないんですけども、会えるのを楽しみにしていますね」

「……わかりました。また」


 断るのはやっぱり申し訳ないなって思う。だけども、それが即ち私は悪い人間であるという事でも無いってなんとなく思えてる。

 後ろで見守っているあなたたちの友達のように、私も応援しています。


「そういうわけで行きましょう」

「はい、ではこちらへ」

「後でで良いってー」

「ダメです」



 ――



「あー、いや……その、悪かったな。マジで……」

「そう仰いながらおタバコに手を伸ばすのは、どなたかに相談なさった方がよろしいかと存じますの」

「癖なんだって。マジで」


 途中で鹿倉さんに合流、舞踏会の準備のために私に用があって、なんだかんだと話が進んで灰野先生が鹿倉さんに謝る事になった。

 だけども灰野先生が思ったよりも深刻に謝っているのは想定外。


「ともあれ、反省されているようでしたら私は構いませんわ。繰り返さないよう今後はお気を付けくださいまし」

「うっす……てか私が言うのもなんだけどよ、アドリブ最高だったわ」

「それは大変光栄ですわ。皆で精一杯力を尽くしましたので、褒めて頂けるのは本当に光栄ですの」

 私からも最高でした。ブラボーでした。後でいっぱい伝えよう。


「つーわけで反省してまーす。これでいい? オッケーだよな?」

「いえ、今の件も重要ですが、もうひとつの件についてを伺いたくて」

「ああ、コイツが鍵かけられて締め出されてた話?」

「えっ!? どういう事ですの!?」


 待って待って!? いきなり切り出さないでくださいよ!?

 鹿倉さんに伝えるべきかも悩んでたのに、なんでスルっと言っちゃうんですか!


「なんかついていったらバルコニーに締め出されたらしくてよー」

「――申し訳ありませんが、事実確認が終わるまでは関係者以外に話すのは控えて頂いても」

「えっ? 何? 加害者を守るためにも被害者は喋るなって?」

「いえ、そういう事ではなく、公正な判断の妨げになりますのでむやみに喧伝するような事は控えてほしいという事で」

「仕出かした事がそれだけヤバいもんなー。加害者がどうなるかわからないから被害者には我慢してもらわなくちゃだもんなー」


 被害者の私が言うのはなんだけども、灰野先生の言う事には一理ある……ただ、警備員さんの立場も考えると一概に肯定はできないけど。

 とはいえ、このままだと埒が明かなさそう。だから、ちょっとだけ勇気を出して言ってみる。


「私、よかったら鹿倉さんにも聞いてもらって、相談できたら嬉しいんですけども……どうでしょうか?」

「それは……私は構いませんけども、いかがでしょうか?」

「その方が話しやすいのでしたら、良いですよ」


 ……


「ありがとうございます。保安上の問題もありますので、この件は責任者と必ず共有しますので、ご了承ください」

「その……やっぱり、あの人たちには何かしら罰があったりしますか……?」

「それについては私からは何とも。しかしながら事実を確認した上で然るべき対応は行います」

「……わかりました」

 あの人たちがどうなるか、それ自体には興味が薄いんだけども、たくさんの人に対応させる事になるのが何となく申し訳ないなぁなんて思ったりする。


「ところで、私どもでできる事がありましたら対応致しますがいかがでしょうか。例えば食事などで鉢合わせないようになど」

「あっ、いえ……どうなんでしょう。うーん……」

「こっちが顔合わせないようにするんじゃなくて、あいつらを閉じ込めるとかがいいんじゃね」

「謹慎はホテルではなく、合宿側で働きかけるものですわよ」

「まぁそりゃそうか」

「それなら……特には大丈夫です。お気遣いをありがとうございます」

 私は警備員さんにペコリとお辞儀する。それでは、と警備員さんはこの場を離れる。


「……それにしましても、それにしましても……」

「おうおう、どしたどした。口外しないから言っていいぜ」

「……いえ、ノンノン様はもっと怒ったり、あるいは泣いたりしても構いませんのよ?」

「えっ、あー……そうですよね」

「どうしてそんな他人事のような振る舞いなんですの!? 私の方が怒りに打ち震えてたまりませんわ!」

「えっ、あ、その……舞台が素敵過ぎて、どうでもよくなったって言うんでしょうか……?」

「えっ!? それは、大変、光栄ですけども……いえ、でも私は冷や水を浴びせられたような感覚でして……」

「そ、そうですよね……すごい良い気分だから、あの人たちの事を考えるのがもったいなくて……」

「そこまで仰って頂けるのは本当に嬉しいのですけれども……ああっ、でも、ああっ……!!」

「ブチギレもんなのに、本人がどうでも良いって冷めてるとイマイチブチギレられねえよなぁ」

 鹿倉さんの感情の行き場が難しい事になってる……でも、本当に私は舞台の事と、これからの事で頭がいっぱいなんですよー……!


「……ですけれども、ご無事であられたのは本当によかったですわ……」

「私がベル鳴らしたおかげだぜ」

「それは偶然ですけどもね……」

「やはり、通信手段は何かしらで持っておくべきでしたわね……そのバルコニーには非常用の設備はありませんでしたの?」

「あ、えっと――」


 たぶん以前なら、無かった、あるいは見つけられなかったって嘘を付いてたかもしれない……でも、それを踏まえて私は――


「そうですね、実はあったんです。でも、使ったらたぶん、ベルが鳴るものだと思いまして……」

「……使わなかった理由を伺っても?」

「鹿倉さんたちの舞台に、迷惑がかかるかなって思って。……躊躇(ためら)っちゃいました」

「……えっ、マジで? はぁ? マジで?」

「あっ、いや、でも、だから、その、灰野先生がベルを鳴らしたの、私には幸運だったり、それに、それに……」


「トラブルがあっても、それを舞台にする鹿倉さんたち。それを見れたから、鳴らしても大丈夫だったんだなぁとか。

 ――いや、そうじゃないですね……えっと、使った方がよかったけども、でも、使わなかったから、今、良い感じなんだなぁって……感謝、感謝……? とは違うけども……」


「――そう、今、良い感じなんだなぁって思ってるんです。色々、あったけど」


「舞台見れて、今、鹿倉さんとお話できて、こうして話せて……あっ、ごめんなさい。私は変な感じで、だけども、鹿倉さんには、心配も迷惑もかけてます、ごめんなさい……でも、ありがとうございます……なんです」


 嗚呼、上手く言えない。

 溢れる感情だけじゃなくて、他にも勘案すべき事があり過ぎて、纏まらない。

 これでどれくらい伝わりますか?


「……ひとまず、私から申し上げる事ができるのは――、灰野先生の行いはまさに怪我の功名でしたわね」

「そうだな。私も知らねえうちにこんな役に立つなんてなぁ」

「そうなんです……!」


 1%は伝わったかな……? 私、嬉しいです。

※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです

※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。

 綺麗な本を作るので楽しみにしてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ