150・世界は優しい人の方が多いと思う
「例えば10人誘ったら10人と行くもんじゃないの?」
「アンタは分裂するの? 1人で10人とどう過ごすつもりなの?」
「やめて、私のために皆争わないでって――」
「ちゃんとした彼氏をひとりでも作ってから言ってよ」
「傷ついたー! 私傷ついたー!! 私の王子様来てー! 早く助けてー!!」
「あ、あの、それで、舞踏会の相手探しについてなんですけども……」
――困った時は相談するに限る。
そういうわけでフルート&ハープのお姉さんにまずは声をかけたんだけども、漫才が始まっちゃった。
「うんうん。まぁ少なくとも良い気はしないし、トラブルも起きちゃうから、男の子たちには情報共有しておいてもらった方が良いね」
「はい。それはもう頼んじゃいました。それで、相手を探す為の場所を作る相談をしたくて……」
「へぇ、相手を探すプロの私に聞くのは大正解じゃん。そういうの得意だよ」
「貪欲さだけは尊敬してるよ」
「えへへ、ありがとう」
「そ、それで、私、考えたのがありまして……」
「うんうん、どんなのかな?」
「――舞台を皆で見て、その後に感想を伝え合うっていう集まりとかどうかなって……」
「合コンじゃん」
「えっ? ごうこん……って……?」
「お付き合いする相手を探すために皆で集まる事だよ」
「そういうのがあるんですね。初めて知りました……」
「合コン行った回数、誰にも負けない自信があるから任せてとしか言えない」
「盛り上げるの得意だよねー」
「アピールが得意って言ってくださる?」
「おかげでいつも楽しい時間を過ごせてるよ。ありがとう」
「えへへ、どういたしまして」
「そういうわけで進行とかは私たちに任せちゃっていいよ」
「あ、ありがとうございます……!」
「じゃあ、片っ端から声かけていこうっか! あ、私よりカワイイ女の子に声かけちゃダメだよ」
「自分が世界で一番カワイイって思ってるから、気にしないで大丈夫だよ」
「は、はい」
「ごめんね、私がオンリーワンの花過ぎてみんなを引き立て役にしちゃって……」
一生懸命で自信に満ち溢れている所は私も見習いたいです。はい……
「その、それじゃあ、色々準備してきますね……!」
「うん、こっちも任せてね!」
「おっしゃー!! 狩りの時間だー!」
角笛があったら鳴っていそう……
「あっ、そうだ!」
「はい?」
「絶対に、最高に楽しい舞踏会にしようね!」
「――はい!」
――
お姉さんたちの許可をもらったから、ノートパソコンやプリンターを借りる。
レイアウトが得意っていう訳じゃないけども、何をするかとかどんな集まりなのか、それを明示できるものは欲しいよね。
プログラムとしては、舞台が始まる前に皆で集まって、皆で観賞して、それから舞台の感想を語り合うっていう形にする。
あっ、そうなると部屋を押さえておかないといけないかな? 舞台が終わってから、舞踏会が始まるまでの時間も確認して、それを踏まえると時間はどれくらいだぁ? 舞台までもそこまで時間が無いし、連絡が先かなこれは!?
「おや! 忙しそうにしているね! 何をしているんだい!」
「えっ? あっはい。その、舞踏会で相手を探すための企画の準備をしていて――」
振り向いて気が付く。この人は交流合宿の主催さんだー!?
「ほう……? そんなものがあると聞いた覚えは無いのだけども……」
「そ、その、思いついたもので。ダメでしょうか……?」
「いいや、全く! むしろ土壇場で困っていないかな!? 手伝えることはあるかな!?」
「あ、ありがとうございます……! その、集まる部屋って、予約必要ですよね」
「うむ、その通りだね! 具体的な計画は聞いてもいいかな!?」
「はい……舞台を見て、その後に、舞台の感想を話しながら、相手を探す……その時の場所が欲しいなと」
「おお! なるほど! そうなると広い場所がいいね!」
「そ、そうですね……あ、でも人数とかわからなくて……」
「なーに! 大丈夫さ! ちょっと待っておくれ!」
「は、はい……!」
主催さんは電話をかける。こんなにフットワーク軽く手伝ってくれるなんて、ありがたすぎる……ありがとうございます……
私はその間に印刷と、あとは名札みたいなのを作って――
「では、どうぞ!」
「えっ?」
主催さんは通話中のスマホを私によこす。
「もしもし、こちらコンシェルジュサービスです。イベントの為に会場を用意してほしいと賜りましたが――」
えぇっ!? 主催さんが手配してくれるんじゃなくて、コンシェルジュさんに電話してくれただけ!?
主催さんはとても良い笑顔でサムズアップする。少々ご年配のはずなのに、全くそれを感じさせませんね……でも、まぁいい、これも私の仕事だもんね!
「はい。舞台の感想を話しながら、その後の舞踏会に行く相手を探すのにピッタリな場所を探しています」
「なるほど、規模はどの程度になるでしょうか?」
「……わかりません。突発で企画したので、10人か、あるいはもっとたくさんかわかりません」
「承知致しました。そうなりますと、私どもで提案できる場所はいくつかございますが、少々質問よろしいでしょうか?」
「はい」
「お相手を探す、その交流の場を設ける為のスペースがご希望でお間違いありませんか?」
「ええ、はい」
「そうなりますと、皆で集まれる、各々で感想を語り合う、思い思いに過ごせるといった要素もあると素晴らしい時間をお過ごしできるかもしれません」
「あっ……そうですね。でも、そこまでは私、何も考えていませんでしたから……」
「でしたらば、私どもコンシェルジュにお任せくださいませ」
「えっ……あ、はい」
「会場のご案内は後程に、直接スタッフを派遣して致しますので少々お時間をくださいませ」
「は、はい……ありがとうございます」
「お客様が当ホテルで夢のようなひと時を過ごして頂くのが、私どもの努めですので滅相もございません」
「あ、いえ、でも、本当にありがとうございます……」
「感謝のお言葉、誠に光栄です」
それでは、と通話が終わる……やっぱりコンシェルジュさんって凄すぎるよ……さすが一流……すごい一流……
「バッチグーだったかな!?」
「は、はい。おかげさまで、ありがとうございます」
「よーし! バリバリやっていってしまおうか!」
「はい、よろしくおねがいします……!」
「ハッ! ところでやはり人が多い方がいいよね!?」
「えっと、そうですね。色んな人が気軽に来れるといいなぁって……」
「閃いた! 閃いたぞ! 失礼! 少し行ってくるよ!」
「えっ、あ、はい。わかりました」
そう言って主催さんは飛び出していく……本当に自由な人だなぁ……
――
劇場のロビーへ、最初に集まってきてくれたのは男子たちだった。
「名前と、好きな物って何でも書いていいのかー?」
「は、はい。例えば、えっと、チャイコフスキー……とか」
「おっ、いいよなーチャイコフスキー。キミも好きなの?」
「主催ナンパするなし……というかお前は相手いるんじゃないの?」
「多い方がいいっしょ。枯れ木も賑わうとか言うし」
「むしろサクラ……って言うんじゃないかな……」
「あははは……」
彼らは最初に私と会った人のお友達みたい。女子には女子の、男子には男子のグループがあるだろうし、その人たちが来てくれるのはとっても助かる……
「てかさ、ダンスパーティ行くなら普通に男同士でもよくね?」
「それはなんていうか……なんとなく惨めにならない?」
「男同士の方が気楽じゃん。女子の目とか気にしなくていいし」
「それは一理……あるかなぁ……」
いやむしろ気になるというか、勝手に気恥ずかしくなりますよ……
「皆さーん! こっちですよー!」
フルートのお姉さんの元気な声とともに、そこそこの人がやってくる。
「おっ、結構いるじゃん。声かけたら普通に誰かと行けるっしょこれなら」
「それがハードル高いんだよ……断られたら怖いだろ?」
「告白でもするつもりかよ。飯誘うノリでいいんだよ」
「だけど急には……ああ、だから感想を話し合って……」
「そ、その通りです。好きとか、面白いとか、そこから話すの、すごく良いと思って……」
「うおー、キミって天才過ぎ」
「確かに感想とかで気が合えば……話しやすいもんな」
「そ、そっか……そこまで考えてくれて……本当に、ありがとう……」
「い、いえ。どういたしまして……!」
泣きそうだったあの人が、今ははにかんで笑ってくれるのが、なんだかすごい嬉しい。
「ごきげんよう。企画の方、大変感謝致しております。これよりは私たちが司会進行を務めさせて頂きますので、お任せくださいね」
お姉さんたちとその一段と合流。ハープお姉さんは別人格起動中だ。
「いや、アンタはビラ配りの方が良いよ」
「あらまぁ、お言葉が下品ですわよ」
「ビラ配りならイケメンに声かけ放題なのになー仕方ないなー」
「おっしゃ任せてくださいまし!!」
「じゃあ、皆も……」
「あ、えっと、このカードに名前と、好きな物を書いてください……」
「オッケー! 書き終わったら、劇場に来た人たちにも声かけていこう! 皆、よろしくね!」
フルートお姉さん、どうかよろしくお願いします!
――
「波多野さんだー!」
「あっ、カナちゃん……!」
開場の時間近くになり人が来始めた頃、カナちゃんがお友達たちと一緒にやってきた。
「舞台を見ての感想会、波多野さんも参加するんだね!」
「う、うん。その、賑やかしというかなんというか……」
「私たちも行ってもいいー?」
「それはもちろん……! 来てくれたら嬉しいな」
「えへへへ、じゃあ皆行こうね!」
カナちゃんはお友達に声をかける。人の輪が増えるきっかけになるのはすごく嬉しいから来てほしいなぁ。
「あっ、そうだ。舞台が始まる前には飲み物とか用意しておいたほうがいいよ!」
「そういえば……お昼から何も口にしてないかも……」
「えー! じゃあ買ってきた方がいいよ!」
「あっ、でも、私、スマホを今持ってないんだった……」
「そうなの!? それじゃあ私のあげるよ」
「あ、ありがとう……!」
カナちゃんからペットボトルの水を受け取る。ありがとうございますカナちゃん……
「あ、あの……その……」
「はい?」
「ずっと、忙しかったでしょうし、その……休憩、しても、大丈夫……ですよ」
「えっと……そうですね。ペットボトル、中で飲みたいから、今のうちにちょっとお水、飲んできますね……!」
「う、うん。いってらっしゃい……」
「それじゃあ、カナちゃん、またあとでね」
「うん! またね!」
歩き始めて気が付く。私、喉カラッカラだぁ……
……
給水所を求めて、人通りの少ない場所へ。通路に置かれたウォーターサーバーを発見。紙コップに注いで飲む……おいしいー!
「ねえねえ」
声をかけられて振り向く。そこにはモンスター……じゃなくて、あの人たちがいた。
「ど、どうしましたか……?」
「そのね、私たち、誤解させちゃったかなぁって思ってて、それを解きたくってね」
「うんうん、謝らなくちゃなって」
「そ、そうですか……」
誤解ってなんだ……? いや、でも悪い事した意識があるみたいなら、それは聞いておきたいとは思う……
「ここだと、ちゃんと話すには良くないかなって思うから、ちょっと来てもらってもいいかなぁ?」
「えっと……」
「来てくれない……?」
「その、狭い部屋とかだったら……行きたくないです……」
「それならバルコニーはどう?」
「隠れスポットでね、風景も綺麗だし座って話せるし!」
「……まぁ、それでしたら……」
「ありがとー! じゃあ行こう行こう!」
「私たち、仲良くしたいのは本当だからさ!」
「舞台も楽しみだね!」
警戒は解けない。連れ込まれそうになったら叫ぶなり逃げるなりするぞ……!
……
「で、それで間違えて好きって送っちゃったのー! 他の人宛てだったのに!」
「うっかり屋なんだよね。今はメッセージ消したけども、消す前に見られちゃったみたいでさ」
「それに、本当に私たちも行きたくて、必死になっちゃってー。迷惑かけちゃったなーって」
「そ、そうですか……」
やった事を許す許さないは正直どうでもよくって、その前の会話が私はイヤだったんだけどなぁ……
「本当に悪気は無かったんだ。ごめんねー!」
「謝ってるし、許してくれるよね?」
「は、はぁ……」
「ありがとー! 私たち、これからも仲良くできるね!」
「私たちも感想会、参加しちゃおうよー。いいかなー?」
「それはご自由に構わないですよ……」
「えへへー、楽しみー!」
何を言っても仕方ないというか、相手にしてもどうしようもないから、適当に流しちゃおう……
「そうだ、せっかくここに来たし、ゆっくり風景眺めるのオススメだよ」
「風景……ですか」
青い空とそびえたつ山並み。眼下には木々が生い茂っていて、秋にでもなったら紅葉で真っ赤になっていそうだ。
「それじゃあ私たち、先に戻っているね!」
「あ、はい」
もうすぐ舞台が始まるから、行かなくちゃなぁ。そう思いながらも、時間が過ぎるのが名残り惜しくなって風景に目をやる。
――ガチャン
明らかに鍵か何かをかけられた音が聞こえて、思わず振り向く。
ガラス張りの扉の向こうに、あの人たちが見える。
私の事なんて一瞥もせず、後ろを向いたまま楽しそうに笑いながら去っていく。
私は慌てて駆け出して、扉を開けようとして――開かない事を確認する。
――泣いた方がいいのか、怒った方がいいのか、今の私はわからない。
※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです
※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。
綺麗な本を作るので楽しみにしてください。




