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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
夢のような世界に迷い込んでしまったんだけども、私はモブ役じゃないんでしょうか?
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149・いいから泣きたいと思ったのに逆の事が起きているの

 死にそう。推しのロス? いや違う。勝手に私が自滅してるだけ。推しを推しとして見れなくなって、ガチ恋をし始めたら関係性壊れるよ。いや、ガチ恋は別に構わないのかもしれないけども、それを相手に悟られるようになったりとかダメダメのダメだよね。今回は鹿倉さんのおかげで迷惑をかける前に、勝手に自滅できるんだから本当に良いのかもしれない。学校でも勉強でも、事務的に教えるとかで距離を適切に取ればいいよね。うん、私の暴走。ごめんねそしてありがとう。マイナくんの事、本当に大好きだけどもちゃんとケジメを付けるね。


 ああ、心が無。心が無。

 キラキラしたホテルの装飾も、大きな窓から見える澄み渡る青空も、楽しそうにしている皆の喧騒も、私が物語のモブ役だからそりゃ気にしないみたいな感じ。

 いや、逆にモブ役として、主役であるマイナくんを引き立たせるためにも、モブ役としての務めを果たすのが大事なんだよね。

 だけども心が無。今私が食べているコレハナンダロウ。


「ねえねえ、私たちとご飯一緒に食べない?」

「えっ、あっ、はい」

「わーい、お邪魔するねー!」


 思わず適当に返事してしまったけども、初日に声をかけてくれた人たちだ。


「何食べてるの――って水を掬って飲んでるの?」

「アッ……考え事してたら……」

「えー! おもしろ! もしかしてプリンス様ってうっかり屋さんが好きなの?」

「あ、えと……ど、どうでしょう……」

「でも、土田先生もぼんやりしてるし、プリンス様ってきっと、ああ見えて世話焼きなのかも!」

「あー、私もプリンス様の前で転んでみようかなー!」

「迷子になったから道教えてくださーい! とかね!」


 皆の話題はミヤネくんの事……私はよくわからないのに一緒についてきたよくわからない何かだから当然だね……


「ねえ、今日の舞踏会、宮音くんは誰と踊るか知ってる?」

「えっ……えっと……」

「もしかしてだけどさ、あなただったりする?」

「あっ、えっと……そ、そうかもしれませんけど……」

「大丈夫?踊れる?」

「ダンスレクチャーに居たの見たけども、初心者だったよね」

「というか、おじさんと楽しそうに踊ってたけど、恥ずかしくなかった?」

「ヤバいってヤバいって。皆、心配してたよ?」

「は、はぁ……そ、そうですね……」


 わかってる場違いなのわかってる。本当はここにいちゃいけない人間なのはすごいわかってる……


「そうだ。鹿倉さんとはどう?」

「えっと……良くしてもらっていて……」

「でも、一言多い人じゃない? あの人って」

「ちょっとしたミスでもすぐ怒るし、遅刻も厳禁でさ」

「がんばってるアピールキッツイよね」

 ……え、何言ってるのこの人たち……?


「鹿倉さんと一緒に居て疲れたでしょー?」

「いえ……そんな事ありません」

「気を使わなくて良いって! 鹿倉さんには言わないからさ!」

「いえ、本当に、お世話になってて……」

「えー、私たち、本当に心配してるのになぁー」

「まぁまぁ。鹿倉さん怖いもんね。仕方ないって」

「いつでも困ってたら相談してねー?」

「……はい」

 鹿倉さんの事を悪く言われているのは少し癪だけど、この人たちなりに私に気を使ってくれてるんだろうからグッと飲み込む。


「あー、でも今日の舞踏会、楽しみー」

「えっ、何それ。誰か相手見つけたの?」

「手あたり次第に頼んだら何人か返事あってさ」

「選び放題じゃん! えー、私にも分けてー」

「もちろん! でも、正直余りものしかいないから期待はしないでね」

「まぁチケットみたいなもんだし、そこは妥協しなきゃね」

「うわっ、気が付いたんだけども、アイツからもOK来てるじゃん」

「きっと誘ってもらえて喜んでるんだろうね。勘違いおつかれさまー」

「でも、他も点数低すぎ。できるだけマシなの選ぼうー」


 ――気分が悪くなってきた。

 私が今、落ち込んでいて機嫌が悪いっていうのはあるけども、それでも他の人に敬意が無いのはもちろん、値踏みするような人たちは本当に気分が悪い。こんな人たちとはそもそも縁が無いからネットで観測できるだけだと思ってたけども、実際にいる事にクラクラしてくる。いつもの私だったら何も言わないんだろうけども不機嫌なのもあって、物申したくもなってしまう……いや、トラブル起こしたくないから言わないけど。


「あーあ、プリンス様と踊りたいなぁー」

「チラッと見たけども、新内さまもカッコよかったよ」

「紳士的で優しくて、誰でもお姫様にしちゃう感じ、いいよねー!」

「でも、真中さんと舞踏会に来るんじゃない?」

「主演同士だからってベッタリし過ぎ。普通にブスなのに」

「愛想だけで主演になったろうし、ぶっちゃけ大したことないよね」

「あ、でも、鹿倉さんを悪役させたのはスッキリしたかも」

「苛められてないか声かけてあげよーよ」

「――ごちそうさまでした」


 ダメだ……ダメだダメだダメだ……この人たち――いや、モンスターって呼びたいくらい、と一緒にいるのは堪えられない。わかった、わかったからお前たちの鳴き声はわかったから。

 私は偶然にご一緒させてもらっただけで、鹿倉さん含めて素敵な人だっていう印象しか見れなくて、もしかしたらあなたたちの言う側面もあるかもしれないけど、私はそう思えないしあなたたちの話は不愉快極まりない。

 けど、ここで口論をしても仕方ない。荒らしに反応するのも荒らし……いや、これは厳密には違うかな? でも、私が面倒を起こしたら結局は鹿倉さんや宮音くんに迷惑がかかる。だからここは黙って引く。口には出せないけど、少なくともあなたたちは鏡を見た方が良いと思う。私も鏡見ようっと……


「あ、行っちゃうの?」

「はい。予定があるので」

「待って待って。私たち、あなたがプリンス様と踊るの大変だろうって心配でさ」

「いえ……まだ私が宮音くんと踊ると決まった訳でも……」

「そうだ! この人と行きなよ! 私たちから連絡しとくからさ!」

「えっ、いや、申し訳ないですけども」

「断るなんて可哀想でしょ。その子の気持ち考えてあげないの?」

「それは、申し訳ないというのはありますけども……」

「ちょっ、返信もう来たんだけど! 必死過ぎ」

「場所と時間、伝えておくね! そこで相談してきなよ。スマホ出して」

「えっ、いえ……スマホ壊しちゃって、今は持ってなくて……」

「それって本当?」

「ほ、本当に持ってないんです……」

「そっかー。言い訳にしてはあり得ないからビックリしたけど、それなら書いてあげる!」

「断りたいのはわかるけど、誠意って大事だよ」


 そういって、彼女たちは私に名前と場所、時間を一方的に伝えてくる。ご丁寧にメモまで書いてくれて。


「あっ、そうだ! 他の皆にも紹介してあげようよ!」

「いいね! 私たちって優しいー!」

「みんなで舞踏会、楽しもうね!」


 ……私はさっさと食器を下げに行った。



 ――



 押し付けられたとはいえ、受け取ったものは仕方ないと思ってその場所へと向かう。

 関係ないってしてもいいはずなんだけど、でも、その人の事を考えると、私ができる事をしてあげたいなぁってなんだか思ってしまって……


 ああ、なんだか日差しが憎い。焼けるかのような強い日差しは私たちに平等に降り注いでいて、隅っこで大人しくしていたい私を照らすのはもちろん、あんな人たちにまで燦々と照らさなくてよくない!? 太陽に言いがかりをつけてやりたいくらいに私は気持ちがモヤモヤしてる。叫びたい。ウワー!!

 ハッ、いけないけない……私は舞踏会になったら、マイナくんに今までありがとうって笑顔で伝えたいんだから……その為にも乱れた心を落ち着かせなきゃ……情緒不安定過ぎるでしょ私……深呼吸して、周りの風景を見て落ち着こう。


 今、私は湖のほとりに向かって歩いている。舗装された綺麗な道を通って、湖面に突き出すように造られた木製デッキにあるお洒落なスペースが目的地だ。すがすがしく晴れ渡った青空には綺麗な山並みと白い雲が映える。湖の波の音、鳥のさえずりも聞こえて、本当に素敵な場所だなぁ……

 まだ約束の時間には早すぎるんだけども、さっさと来ちゃったからお相手はまだ来ていないみたい。私は適当な席に着かせてもらった。


 ……あーあ。本当に素敵過ぎる場所だ。たぶん、私は人生の中でこれ以上の素敵な場所になんて行けないんじゃないかな。どうしてこうなったんだろうって考えたらキリが無いけど、でも、本当に素敵な夢を見させてもらったんだよね。

 始めに声をかけてくれたのはマイナくんで、その時は仕方なくクラス委員を一緒にする事になって、その後に間違い通話がかかってきて……あはは、本当にお話のようだ。

 マイナくんの事を何も知らなかったら、ガチ恋なんてしないで推しでいれたかなぁ。あーでも、マイナくんの事を知らなかったらマイナくんが高校生活を送る手伝いもできなかったしなぁ。私が勝手に苦しくなってるだけだし、私はマイナくんが伸び伸びと活き活きとこれからも活動できるようにするのが一番の願いだし――


「あ、あの……こんにちは」

「あっ、こ、こんにちは」

「波多野さん……ですよね? すみません、ま、待たせちゃいましたよね……」

「い、いえ。そんな事ありません……早くに来過ぎちゃっただけで……」

「あ、えっと、その……席、ご一緒、大丈夫……ですか?」

「は、はい。もちろん。どうぞ」

「し、失礼します……」


 私はもちろん、お相手さんもすごく緊張している。一緒の席に座ったものの、何をどう切り出したものか、もう頭の中が真っ白になりそう。すぐに私の頭ってショートするよね。


「あ、あの、その……」

「は、はい」

「舞踏会、に……僕、と、一緒に……って……本当、ですか……?」

「え、えっと……」


 お相手さんは同い年くらいだとは思う。男性の中では小柄だと思うし、繊細で控えめで、思った事を口に出せない、私のようなタイプだというのは一瞬でわかる。そして、私の事がどう伝えられているのかわからないけども、少し恥ずかしそうにしているのも伺える。


「ぼ、僕、その、あなたの事、知らなくて……」

「そ、そうですよね……」

「聞いた所、その……好意を寄せてくれているって……」

「……えっ」

「……あっ、やっぱり、違います……か……?」


 ――深呼吸する。


「すみません、どんな連絡を受け取りましたか?」

「あ、えっと……」

「よかったら拝見させてください」


 お相手さんはたどたどしくスマホを見せてくれる。

 私がこの人を好きになっていて、声をかけられないのを代わりに誘ったって……


「これ、お相手のメッセージが消される前にスクリーンショットを撮っておきましょう」

「えっ、あ、はい」

「正直に言うと、私はあなたを誘うつもりはありませんでしたし、あなたを見かけたのも初めてです」

「……あ、やっぱり……そうですよね……」

 不安と期待が入り混じっていたのが、愕然としているのが伝わってくる。


「――でも、私は皆で舞踏会を楽しみたいです」

 そんな悲しい気持ちで終わらせてたまりますかって。


「えっ、はい……?」

「舞踏会、あなたは楽しみでしたか?」

「えと……どうせ行けないかなぁって……」

「でも、仮に私があなたを本当に好きで、そんな人と舞踏会に行けたらって思ったらどうでしたか?」

「そ、それは……とても……夢みたいだなって……」

「そうですよね。そんな夢のような時間を過ごせるかもって期待させておいて、嘘でしたなんて酷過ぎます」

「は、はい……」

「舞踏会で、あなたのように傷つけられた人がいるなんて、それが私は許せないんです」

「え、えっと……」

「行きましょう。舞踏会。探しましょう。一緒に楽しめる人」

「で、でも、僕なんか……」

「あなたが幸せになったら、一緒に喜んでくれる人は必ずいます!!」


「私もそうでした! どうせ私なんかって思ってました!!」

「だけど、本気で一緒に喜んでくれて、本気で一緒に泣いてくれる人、会えました!」

「そして、だから、私はあなたが楽しんでほしいです! そうしたら私は嬉しいです!!」


「……ハッ、ごめんなさい。私、大きな声を出しちゃって……」

「い、いえ……大丈夫です……け、けど、その……どうしたら……」

「えっと……考えはあります。手伝ってくれませんか?」

「も、もちろんです……」


 時間はあまり残されてない。急がなきゃ。

※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです

※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。

 綺麗な本を作るので楽しみにしてください。

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