147・転生せずに一般的知識の範囲で無双ってあり得るんですか?
「好きな音楽! そうですね、すぐに思い浮かぶのはこちらなんですけども……」
真中さんはそう言って鼻歌混じりにハミングをする。というか、鼻歌でもすごく上手過ぎる……
「あら、懐かしいですわね」
「ノンノンは知ってるかな? 『キティー』っていうミュージカルなんだけども」
「えっと……孤児のキティーが大富豪に引き取られて、って話でしたっけ」
「ええ! その中で主人公のキティーが歌う曲なんですよ!」
「ふふ、私も歌いましたわ」
「辛い時でもがんばろうって思えて、お気に入りですね」
そうだ、聞いた事ある。映画でしか見た事がないけども、面白かったなぁ。
「僕もお気に入りはたくさんあるけども、今回の歌も大切な思い出になると思ってるよ」
「もう! 新内さんはすぐにそんな事言っちゃうんだから!」
「あはは、いつもそう思ってるから仕方ないよ」
「新内さまの舞台ひとつひとつが本当に素晴らしいですものね」
「取り柄がそれしか無いからね。だけども鹿倉さんにそう言ってもらえると本当に光栄だよ」
「あっ、もしかして、プロ……ですか……?」
「プロ……というかはわからないけども、何度も舞台に上がらせてもらっているよ」
「新内さん、すごいご活躍してる方で、なので私が一緒に舞台なんて恐れ多い人で……」
「そんな、とんでもないよ。真中さんも引っ張りだこじゃないか」
「ぐ、偶然ですよー! それに、演技力や歌唱力なら鹿倉さんの方が本当に素晴らしくて」
「恐縮ですわ。ですけれども、舞台の主役には真中さまが一番相応しいのは間違いありませんの」
「厳しい事ばかり言わせてしまってごめんなさい! 鹿倉さん……」
「いやぁ、僕にも責任があるからさ。指摘ありがとうね、鹿倉さん」
ああ、当たり前だけども、このお二人も私からすればやっぱり雲の上の人だぁ……こうして食事を囲んでいるのがおこがましく感じてしまう。
「ノンノンさんはどんな事してる?」
「あっ、えっと、学業以外でって事ですよね……?」
「私たち学生だもんね! でも、勉強に打ち込む人もいるから学業でも何でも!」
「そ、そうですね、えっと……」
――なんて答えたらいい!?
専らやっている事と言ったらゲーム作ってるって話になると思うんだけども、求められてる答えってそうじゃない気がするんだよね!!
他に打ち込んでる事ってパッと思いつかないし、今のD高校に通ってる理由って学業というよりも仲良くなった皆と一緒に居たいって気持ちが強い。あれ!? 私って学校に遊びに行ってる!? いや、それを今考える必要は無いんだけども。私、D高校で友達の皆と触れ合う時間が大好きです! それは置いておいて!
あっ、じゃあやっぱりゲーム作り……プログラミングもそういえばしてるし、そっちの方が良いのかなぁー!?
「プログラミング……とかして、ゲーム作ったりしてます……」
「プログラミング! じゃあカタカタするの得意なんだ!?」
「そうなると美術系なのかな」
「昨日に拝見したのですけども、ゲームはとても素敵なもののようですわ」
「あっ、昨日のはまた違うものなんですけども……」
「あっ! 『バケモンワールド』ってゲームだよね?」
「は、はい」
「遊んだことはないんだけども、キャラクターは知ってるよ!」
「人気な子、いっぱいいますもんね……!」
プログラミングをカタカタって言うのがとても可愛すぎるのですけども、でも、それくらいの認識しか無い人たちだった事にビックリ。いや、私も舞台とかに関しては完全に素人だから、世界が違うと全くわからないのは当たり前の事で……だけども、グラフィックを作るのはまた別の人なんですよって説明しても仕方ないから、話を合わせておいた方が良いのかなー!?
「ノンノンさん、プログラミングってパソコンかな?」
「えっと……そうですね、パソコンでするものですね」
「鹿倉さん、ノンノンさんに見てもらうってどうかなぁ?」
「そうですわね……『プロジェクションマッピング』はご存知かしら?」
「えっ、あっ、は、はい」
「すごい! じゃあ、ノンノンさんに直してもらえるかなぁ?」
「そう、実は困っててさ……パソコンに詳しかったら見てもらえないかなぁ」
「えっ!? その、直せるかは全然わかりませんけども……」
「私たちが見るよりは絶対詳しいから大丈夫だよ!」
「わ、わかりました……!」
たぶん期待に応えられないだろうけども、見るだけ見させて頂きます……
――
「このオブジェクトが回転すると、何故かこっちのがすごい回転し始めるんですね……」
「なるほど……触らせてもらってもいいですか?」
「は、はい。どうぞ」
美術担当さんに話を伺ってから、実際に編集ソフトの画面を見せてもらう。
あっ、このUI、結構馴染みがある奴だ……
全てが同じという訳ではないけども、動画編集ソフトの画面構成に割と似ている。
「ちょっと弄ってもいいですか?」
「だ、大丈夫です」
単純な図形を描画してからパラメーターやエフェクトを少し確認。うーん、流石しっかりとした企業のソフトだからか、たくさんの機能があるなぁ。
「えっ、今、何をしたんですか?」
「確認のために新しい図形を描画して、それぞれの項目がどんなものかを確認しています」
「だけど、すごい綺麗なのを一瞬で作りましたよね……?」
「備え付けのテンプレートですよ。すごいソフトですから、簡単にできちゃうんですね」
「す、すごいなぁ……」
全く関係ない物を使って確認してから、問題の箇所を見る。
あー、そういう事かぁ。これをこうしてこうでよし。
「たぶん大丈夫です。確認してもらえますか?」
「はい……あっ! すごい! できてる! すごい!」
「荒ぶる方の基準がそのオブジェクトだったんですけども、値の取り方がちょっと変だったからそれを直したんですね」
「そ、そうなんですね……勉強します……でも、本当にありがとうございます!」
「いえいえ……とんでもないです」
「あ、あの、もしかしてなんですけども、色の調整とかってできます……?」
「えっと……このレイヤーを触ればできますね」
「ああっ! すごい! すごい!!」
「いえいえ、どういたしまして」
よかったぁ。私でもわかる程度の不具合で。
「私、勉強中で、これ、直せると思って、触ったら、こんな風になっちゃって……」
「少し特殊でしたからね」
「練習台無しにしちゃって、でも、直せなくて……本当に、本当にありがとうございます……!」
いえいえ、と返そうとして気が付く。彼女がすごく涙目になっている事に……!
「皆さーん!! ノンノンさんが、直してくれました!! 本当に、本当にありがとうございます!」
「おお! よかった!」
「ノンノンさんすごい!! 本当にありがとうね!」
「本当に、本当に皆さんごめんなさい……本当にありがとうございますぅ……」
「私どもが詳しくない中で、貴女は一生懸命尽くしてくださったのですから、泣かないでくださいまし……?」
「その通りさ。それにトラブルがあっても、それを含めて僕らの舞台だからさ」
「うんうん! でも、直せて本当によかったよ!」
「ノンノンさん、本当に、本当にありがとうございます……!」
「い、いえ……でも、私も、皆さんの役に立てて、本当によかったです」
雲の上の皆から口々に感謝されるのが、嬉しいを突き抜けて現実感が無くなっちゃう。
あれかな。異世界に転生したら現代知識で無双しちゃったみたいな感覚なのかな。お話としてありきたり過ぎるんだけども、現実でそんな事ある?
ああ、でも、真摯で、お互いを大切にしあって、全力で挑む皆の力になれたと思うと、嬉しい。
「今日の本番、すっごい楽しみだね!」
「最高の思い出になるに違いないよ」
「ノンノン様、本当に……感謝致しますわ」
「わ、私も舞台、楽しみにしていますから……がんばってください!」
本当に、本当に本当に私も楽しみ!
――
響き渡る号令のような音色
私一人で奏でていると思うと、誰にも届かないんじゃないかなって不安にもなりそう。
――隣の鹿倉さんと呼吸を合わせる。
私が先頭で、鹿倉さんがついてきてくれる。
心の中でそう思い描くと、鍵盤の上を跳ねるように――待ちきれない子どものように、私は曲を奏でてるような気持ちになる。
同じ音なのに、2回目は溢れる感情を抑えきれなさそうになる。
期待に胸がいっぱいで、この道を歩く事が……この曲を奏でる事が楽しくて仕方ない!
――あらあら、そんなにはしゃぐと転んでしまいますわよ
そんな保護者の心配のような鹿倉さんの音色に、可愛く謝る無邪気な音を乗せる。
見てる世界が違う。けども、今は隣にいて、これから楽しい時間がやってくる事をお互い知っている。
さぁ、ここから!
キラキラと光が瞬く世界を一緒に奏でる。
ふたりだけの世界、それから皆がいる楽しい世界へ
鹿倉さんと、一緒に飛び込む――
「わぁ! すっごく良いです! 良いです!! 揺さぶられます! 揺れちゃいます!!」
「昨日の今日で、とってもお上手になりましたわね。ノンノン様」
「鹿倉さんのおかげ……です! あ、もちろん土田先生も……!」
「えへへ、楽しむ気持ちが爆発ですよ! 鹿倉さんもノンノンさんの事をすごい見守ってくれてて、通じ合ってますよ! 好きです!」
「光栄ですわ。けれどもノンノン様の努力もあってこそですから」
「えへへへ……感謝合戦……になっちゃいますね……!」
ピアノが簡単という訳ではないけども、音ゲーのイメージをして、指をどこに置くかとか鹿倉さんの事を思いながら、一番楽しくなれるように弾いたって感じでやったらすごいすごい楽しくて……
他のピアノを弾けるかっていうと、絶対に弾けないと思う。けども、この曲だけは覚えたかもしれない……!
「ふえー、これだと発表したくなっちゃいますねー」
「は、発表ですか……?」
「そうですよ! 人に聴いてもらえたら嬉しいじゃないですかー!」
「素敵なお話ですけれども、プログラムに含まれておりませんから機会は無いかと存じますわ」
「うー、そうですかー……私しか聴けないなんて、もったいなさ過ぎますよー」
「録音……とかしても、違う音になっちゃいますしねぇ」
「そうですわね。今、私たちが奏でるこの音色はここでしか聴けませんのね」
「時間があれば、もっと色んな曲も弾いてみてほしかったです!」
「あはは……本当に、そうですね」
ピアノを一緒にするのは今日が最後。当然といえば当然なんだけども。
「も、もう一回、弾いてもいいですか……?」
「ええ、もちろん構いませんわよ」
ありがとうございます、一緒に鍵盤に向き合う。私は息を吸ってから、楽しい時間の訪れを奏でる。
少し名残り惜しいけど、本当に楽しい。
手違いで大富豪に引き取られ、どんな仕事を引き受ける気概で絆を結ぶ事ができた孤児のお話が『キティー』かもしれません。
※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです
※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。
綺麗な本を作るので楽しみにしてください。




