146・ゲームとバレエの共通点?
「とても……素晴らしい曲ですわね」
「鹿倉さんも、そう思ってくれますか……!?」
「ええ、特にバイオリンの旋律が本当に聞き入ってしまって……」
「は、はい。私も、大好きで……」
マイナくんの演奏を聞いてから、私も以前の数十倍好きになってます……
「どちらの曲なのでしょう、こちらは」
「これ、ゲームの曲なんですよ……!」
「ゲームの曲、ゲームですのね」
「ゲーム……遊ばないですよね……」
「そうですわね。時間が無いというのもさながらですけれど……」
「本当はもっと、鹿倉さんが知ってるような曲にしようかって、思ったんですけども……」
昨日の続き。お互いに好きな音楽を聞かせあいっこで私の番。
鹿倉さんは私も知っている曲を選んでくれたのに、私は鹿倉さんが知らない曲を選ぶのはどうかってすごい悩んだ。だけども、やっぱりこれが一番好きって聴いてもらってしまった。
「いえ、まるで世界が広がったような感覚でして、もっと聴かせてほしいですわ」
「は、はい!」
あー!! 鹿倉さんのその感想、すごい嬉しい!!
「その、ゲームの音楽、BGMっていう都合上で、ちゃんと一曲が終わりってならない事もあるんですけどね、これとかもすごい好きで」
一番のお気に入りが終わった後は別の曲。
――これは、すごく儚くて、綺麗な曲。
どう説明したら良いんだろう。
夜の中に、海と満月があって、星がキラキラしていて、寂しいんだけども、でも、バイオリンの音が儚くて、切なくて、温かくて。
「綺麗ですわね……こちらもゲームの曲ですの?」
「はい……! その、廃墟って言うんですか? 海に沈んでるそれを眺めながら、時間は夜で、月が綺麗で……」
「そんな場面で流れますのね」
「はい、その……ゲームって遊ぶから、物語と音楽で、思い出にもなっていて……」
聞いてくれるなら一生語りたい、自覚があるオタクの悪い所。
抑えて次の曲。
――それは一音目から泣ける、悲劇の曲。
ようやく乗り越えてきたイベントの末に、ギリギリで助けられなかった人たちがいてさ……思い出すだけで目頭が熱くなるんだけども、それを抜きにしても曲が好き。思い出含めると大好き過ぎる――
「こちらも綺麗な曲ですけど、とても胸が締め付けられるようで――ノンノン様!?」
「あっ、ごめんなさい……感極まっちゃって……」
「思い入れのある曲なのですね……?」
「は、はい……すごく、良いんですよ……」
「一度、私も見てみたいですわね」
ネタバレになるから話さないけども、鹿倉さんにも体験してほしい……絶対に脳が焼けますから……思い出は流れて次の曲へ。
――落ち着く曲。安らかで安心する、癒しの曲。
町のBGMなんだけども、ずっと聴けて、それで安心する曲なんだよね。
「……あら? こちらの曲……」
「えっ? 知っています?」
「いえ……ですけども、雰囲気が似ているものを知っていまして……作曲はどなたでしょう」
「もしかしたら、鹿倉さんも知っているかも……『ひのきやまどらきち』氏ですね」
「まぁ……! ひのきやま先生の曲でしたのね……!」
「鹿倉さんも知っているんですね……! さすが、ひのきやまどらきち先生……」
「『バレエ・ドラゴンファンタジー』という舞台で先生の楽曲を聴きまして、その雰囲気に近しく感じまして」
「えっ、ドラゴンファンタジーのバレエ……?」
「ご存知ではありません……?」
気になってそのまま調べさせてもらう――あっ!? 本当だ!? ある!!
「そちらの舞台、とても素晴らしくて……」
「知りませんでした……どんなのなんでしょう……」
「初見での感動を奪いたくないので、内容を申し上げる事はできないのですけども……」
「あっ! そ、その気持ち、わかります……!」
「ですけれども、ひのきやま先生の他の作品を知る事ができて、私、とても嬉しいですわ……」
鹿倉さんは感動した様子で口に手を当てている……どんな舞台だったのか気になるのもさることながら、鹿倉さんもそんなにひのきやま先生の曲が好きなのがなんだか嬉しい。
「ノンノン様のお好きな曲、どれも本当に素晴らしいですわね……」
「そ、そうですか!? 嬉しい……です……!」
「その……目を閉じると、情景が伝わってく楽曲で素敵ですわよね」
「は、はい……!」
「舞台では場面に合わせた楽曲、劇伴があるのですけども、同じくたくさん浮かびまして……」
「劇伴……?」
「ええ。曲を聞いた時に、感情も一緒に思い返す体験ができて、私、好きでして……」
「もしかして、例えばなんですけども、『くるみ割り人形』の曲を聴いたら思い出して感動する……感じですか……?」
「恐らくは……そうですわ」
曲×思い出って最高なんだけども、舞台でも一緒なんだー!?
――
私はゲームでの、鹿倉さんは舞台での思い出の曲がたくさんあって、それはそれは会話に没頭しそうになったけども、明日の為に早く眠る事にする。
ああ、もっと鹿倉さんと話したいなぁ。
なんだか興奮しちゃって、眠れるかわからない。明日は鹿倉さんと何を話せるかなぁ。もっとオススメの舞台を知りたい。というか、『くるみ割り人形』も見てみたいなぁ。
遠い遠い、違う世界に住んでいる気がした鹿倉さんと、好きな音楽について熱中できるなんて、本当に嬉しい。好きで、誰かと繋がれるって本当に嬉しい。
もっともっとマイナくんに好きな曲を聞いてみてもいいのかなぁ
もっともっとマイナくんに好きな曲を話してみてもいいのかなぁ
どんな音楽が好き? きっと、それは私も好きになれると思うから、教えてほしい。
ああ、友達の皆にも改めて聞きたい。きっと、私も好き。友達の好きな曲だもん。
知らない誰かに会っても、怖がらずに好きな曲を教えてもらってみたい。
私の知らない世界にある、私の好きな音楽があるかもしれない。
そう思うと、世界がキラキラして見えてきたような気がする。
あなたの好きな音楽、教えてくれませんか?
私、聴いてみたいんです!!
――ピピピピピと鳴るのは始まりの音かな。
シャアッ、と幕が開いて、その先には輝く舞台が見える。
私は暗い暗い観客席にずっといるつもりだったのに、舞台の上には鹿倉さんがいる。
――そっちに行ってもいいですか?
そう声をかけずとも、目を合わせるだけで、私は安心して立ち上がって舞台へ登る。
恥ずかしがりやで人見知りの私では考えられない行動だったはずだけども、鹿倉さんの見る世界を私も見たくて堪らなかった。
眩しくて、鹿倉さん以外何も見えないけども、でも、私はこれから鹿倉さんと見る世界が楽しみで仕方なかった。
――マイナくんもいるのかな?
きっと居るんだろうなぁ。鹿倉さん、マイナくんが私の王子様なんですけども……あっ、やっぱり恥ずかしい!
――ノンノン様
鹿倉さんが笑う。凛とした笑顔じゃなくて、優しい優しい笑顔で。
そして手を差し伸べられる。私は迷わずに取る。白い光の中で、微笑む鹿倉さんは本当に本当に素敵なの……
「ノンノン様、おはようございます」
「おはようございます……私、鹿倉さんと踊ってもいいですか?」
覚えたてのワルツだけど、鹿倉さんとなら恥ずかしくない。
「えっ……? ノンノン様、まずはお顔を洗ってお目覚めになってくださいまし……?」
「夢の中じゃないと、誘えませんよぉ……」
「ノ、ノンノン様。起きてくださいまし。夢の中ではありませんのよ」
「……はえ……?」
「す、すみません。夢の中で、鹿倉さんに、会いまして……」
「も、申し訳ありませんけど、夢ではない方の私が聞いてしまいましたわね……」
恥ずかしい! 恥ずかしい! 聞かれちゃうなんて恥ずかしい!!!
「で、ですけれども、練習のお誘いでしたら、全く構いませんのよ……」
三日目は、赤面スタートと相成りました。
――
朝食の前に、私たちは運動着に着替えて運動場へと行く。
「鹿倉さま、ごきげんよう」
「佐々木さま、ごきげんよう」
「ご、ごきげんようです」
向かう途中に鹿倉さんの知り合いさんから挨拶がある。一言交わすくらいなのだけども、皆お上品で緊張する。
「あっ、鹿倉さん! おはようございます!」
「真中さま、おはようございます」
「お、おはようございま――」
「やあ! 鹿倉さん、おはよう!」
「新内さま、おはようございます」
「お、おはようございます……」
あぁ! このふたりは舞台の主演のおふたりだー!? 鹿倉さん含めて、三人そろい踏みは恐れ多すぎる……
「いやぁ、とうとう今日だねぇ」
「身内の多い公演ですから、そこまで緊張しなくてもいいはずなんですけども……」
「リハーサルは完璧でしたわ。信じて、皆で最高の舞台に致しましょう」
「えへへ、はい! がんばりましょうね!」
「君たちと一緒に舞台ができて僕は――っと、これは終わった後に話す事だね!」
「さ、そろそろ朝の体操が始まりますわ」
「はい! じゃあ、また後で!」
「今日も良い一日を!」
舞台の上の様子しか知らなかったけども、やっぱり仲が良いんだなぁ。鹿倉さんの演じる悪役は本当に酷い人なんだけども、こうやって仲良くしてるのを見るとなんだか嬉しい。
そんな風に勝手に感慨深くなっていると、音楽が流れてくる。体操の時間だ。
これ、ちゃんとやるのってなんだか恥ずかしいんだよね……鹿倉さんはどうするんだろうと見てみる。
あれっ!? すごいバッチリやってる!? いや、周りの皆もちゃんとやってる人の方が多い!?
ダラダラやる光景の方が当たり前だった私には衝撃的過ぎるんだけども、そうなると逆にちゃんとやってない方が恥ずかしい気がして、出来る限り真面目にやってみる。
あっ、でも、隅の方にはグループで固まってダラダラやってる人もいるなぁ。ああいう人から見たら、やっぱり私って恥ずかしい人なんだろうなぁ……
こんな小さい事でも、私の『私の無さ』に直面して苦しくなる……ごめんなさい今は鹿倉さんのためにもがんばらせてください!
……
両手を上げて、深呼吸……
無我夢中で体操をした人ってたぶん私だけだと思うけど、がんばったと思う……
運営の人が軽く挨拶をしてから解散となる。
「ノンノン様、全力で体操していらしましたね」
「えっ、そ、そうですか? す、すみません、恥ずかしかったですか……?」
「いえ。誠実で素敵だと思いますけども……緊張なさってます?」
「は、はい……がんばらなくちゃって思ってて……」
「ノンノン様らしいですわね」
……えっ、私らしいってなんだろ!?
「なあ、鹿倉さん。よかったら朝食一緒にどうかな? 真中さんも一緒なんだけどさ」
「新内さま。こちらのノンノン様もご一緒で構いません?」
「それはもちろんだよ。ノンノンさんも良いかい?」
「は、はい。よろしく、おねがいします」
上手く、皆さんと、仲良くできますように……
「バレエ・ドラゴンクエスト」ってあるんですよ
すごい良い物でした
※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです
※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。
綺麗な本を作るので楽しみにしてください。




