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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
夢のような世界に迷い込んでしまったんだけども、私はモブ役じゃないんでしょうか?
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145・お風呂の大きさも器の大きさも桁違い

「そういえば、大浴場なんてあるんですね」


 鹿倉さんと部屋に戻り、鹿倉さんの日課に混ぜてもらった後、ホテルの設備を見て気が付いた。


「そうですわね。眺めも良くて良い所ですわよ」

「のんびり景色を見ながらお風呂に入れる……いいですね」

「その……行ってみます? ノンノン様」

「よ、よかったら行ってみようかなぁ……?」

「一人で参ります? それとも――」

「あっ、だ、大丈夫ですよ。流石に、その、お風呂まで面倒見てもらうのは、申し訳なさすぎて……」

「……承知いたしましたわ。ああ、ですけれども、行くのでしたらオススメのサービスがありまして。少しお待ちになって」

「えっ? は、はい」

 そういって鹿倉さんはフロントに連絡を取る。


「もしもし、スパをお願いしたいのですけれども」

 えっ、スパ!?

「はい、人数は一人ですわ」

「ま、待ってください……!」

「少々お待ちを。どうされました?」

「あの、私、一人で受けるなんて、そんな……」

「遠慮なさらないで構いませんわよ。私も好きですから」

「あっ、あっ……じゃ、じゃあ一緒にどうですか……」

「その方が良いのでしたら、そう致しましょう」

「す、すみません……」

「お待たせいたしましたわ。一人ではなくて、ふたりでお願いいたします」

 ……フロントとのやり取りを終えて、鹿倉さんは受話器を置く。


「い、良いんですか……?」

「全く。それよりも私と一緒で構いませんでした? お一人で過ごしたいかと私は」

「い、いえ。どちらかというと、鹿倉さんに、面倒かけてばかりなのが申し訳なくて……」

「ノンノン様が心配なのは違いありませんけども、むしろ付き纏われているように感じられていないか、私の方も申し訳なく思っておりますわ」

「と、とんでもないです……!」

 むしろ、浮き輪か何かのように頼り切ってて本当に本当に……


「まぁ、用意して向かいましょうか」

「は、はい」

 スパ……スパ、どんな事するんだろう……すごい気持ち良さそうなのは知ってる。けども、実際に受けるのはドキドキする……あっ、そうだ。


「た、楽しみです。スパ、私、初めてなので……」

 伝えておこう、気持ちを……こういうの大事ってマイナくんで気が付いたから……


「ふふ、そうですのね」

 鹿倉さんも少し笑ってくれた気がする。



 ――



 大浴場へと一緒に向かう訳だけども、やっぱりなんだか緊張してきてしまう。

 お風呂は大好きだし、家族旅行で温泉なんかも行くことがあるけども、友人や近い歳の人が多い中で入るのは不安。

 人目を気にしちゃうのか、それともただ単純に対人苦手なだけなのかわからないけども……あ、でも、鹿倉さんと一緒にお風呂入るのがイヤという訳ではなく、むしろ露天風呂とかで風景をのんびり眺められたらそれはすごい嬉しいし……


「シャンプーが選べるようですけども、どちらに致します? ノンノン様」

「あ、えっと……」

 備え付けの物もあるみたいだけど、試供品のような形で小分けにされているのが並んでいる。どれも高級そうだなぁ。


「実の所、私もどちらが良いものかは詳しくなくて……」

「そうなんですか……? 少し、意外ですね」

「勧められたものを使ってばかりでして」

「ああ、それは確かに……」

 鹿倉さんと私とでは全然話が違うだろうけども、美容とか気にし始めたのは最近だもんなぁ……


 ――そんな風に少し眺めていたら、試供品をゴッソリと抱えて持っていく人がいた。

 視界の隅に見えただけで誰だかわかってしまったけども、鹿倉さんは驚いたように声をかける。


「あのっ、何をなさっているんですかっ!?」

「ああん? いや、普通に試供品貰っただけだけど?」

「お一人で使うには多すぎるかと思うのですが」

「ご自由にどうぞって書いてあるだろ。クラス委員でもやってんのか? ――ってクラス委員いるし」


 いつかは遭うものだと思ってたから、仕方ない。


「灰野先生……他のお客さんの分もありますから……」

「えっ……ノンノン様のお知り合いですの?」

 私は頷く。


「その、灰野先生は髪が長いですけど、それでも2個くらいに……」

「明日も使うし、その分貰っとくだけだって」

「それなら、明日になってから貰いましょう……?」

「あーあとは土田の分」

「ダメです……土田先生、どこにもいないじゃないですか」

「どうしてお前はこう良い子ちゃんなんだよ。くっそー」

「ごめんなさい鹿倉さん……でも、素行や人間性、モラルなんかの悪い所に目を瞑れば、良い先生なんです……」

「……それは本当に良い先生なんですの……?」



 ――



 大浴場はピッカピカのキラッキラで、まるで天国を感じさせるような造り。綺麗な像からお湯がドバーって出てて、それだけでなんだか楽しくなっちゃう。

 大きな窓からの景色はすごい良いし、露天風呂もあるからそっちで楽しんでも良い。檜風呂やサウナなんかも揃ってるし、最高過ぎる!


「あー、やっぱり足伸ばせるっていいわー」

 灰野先生と一緒だからのんびりできるかは微妙だけど。


「普段はお風呂、どうされていますの?」

「シャワーだけだな」

 学校のシャワーを勝手に使ってるのかなぁやっぱり……


「湯舟が無いのは何とも、考えられませんわね……」

「別に慣れるっつうかなんつうか。とはいえたまにこうやってデッカイのに入ると最高だわー」

「それは、私もそう思いますね……」

 伸び伸びとできるのはやっぱり、お家のお風呂じゃできないもんね。


「……鹿倉さんのお家のお風呂って、やっぱり大きいですか……?」

「恐らくは、そうだと思いますわ」

「お風呂大きいの、憧れちゃいますね……」

「ノンノン様のお家のお風呂はどれくらいの大きさなのでしょう?」

「えっとですね……」

 普通に座って入るくらいはできる大きさ。伸び伸びーとはならないだけで。


「なるほど、それでしたら確かに私のお家のお風呂の方が大きいですわね」

「どれぐらいですか?」

「そうですわね……これくらい……でしょうか?」

「わぁ、やっぱり伸び伸びできますね」

「とはいえ私、寮で過ごしておりますので大きなお風呂を利用させて頂く事が多いですの」

「あっ、寮暮らしなんですね……?」

「雰囲気的に、名門のY学園とかか?」

「あら、その通りですわ。末席ではありますが置かせて頂いていますわ」

「音大付属じゃなくて、Y学園……だったんですね」


 私は勝手に鹿倉さんも音大付属の生徒さんだと思ってた……でも、そっか、Y学園かぁ。


「そうなると、クッソ堅苦しいのも納得だな」

「差し出がましいのは承知しておりますけども、そのような言葉遣いはよろしくないと思いますわよ」

「はいはい。けどよ、それって鹿倉、お前がY学園に行くって決めた訳?」

「いえ……当初からの予定でしたけども?」

「もしかして許嫁とかもいる?」

「ええ、おりますけども」

「やっぱりかー。いや、そうなるとさ――窮屈じゃね?」


 自由人過ぎる灰野先生が言うと重さを感じられないけども、私も鹿倉さんが大変そうって思うのは同じだ。


「いえ? むしろ自由に、私の我儘を聞いてくださっていて感謝しかありませんけども……」

「えっ、ええ……? そ、そうなんですか……?」

 思わず、私の方がビックリして声をあげちゃった。


「バレエ、歌唱、演劇といったお稽古をさせて頂いていますし、興味がある事をいくらでも学ばせて頂いていますし……」

「けどもよ、将来は? 嫁しながらそういう仕事すんの?」

「家庭に入ったらという事ですの? その時は家庭に尽くす所存ですけれど」

「いや、夢とか無いの? 舞台してるならもっと上を目指したいとかさ」

「憧れはしますけども、役目を果たす事の方が大事ですわ」

「じゃあ極端な話、自分よりも家の方が大事って事?」

「そうですわね。その通りですわ」


 灰野先生も私も、絶句しちゃう。


「あ、あの……なんで、って聞いてもいいですか……?」

「何も難しい理由ではないのですけれど、両親に祖父母が好きだから……ですわ」

「……マジか」

「長い家系の中に苦労と愛があってこそ今が在るとわかってからは、私自身も一族が末永く幸せであってほしいと願っていますの」


 ――そっか。だから、違う世界の人なんだ。

 見ている物が違う。私は私とほんの近くの人を見るだけでしかできないのに、鹿倉さんはたくさんの人を見ている。そして、『好き』のスケールも違う。


「……一応だけどさ、今、やってる事をやめる事になっても別にいいのか?」

「必要とあらばその通りですけども、無下にそのような事を家族がする筈ありませんわ」

「信頼……すごいですね」

「ええ、大好きな方々ですから」


 当然のように言う鹿倉さんを見て、自分はどうなんだろうっていう気持ちで胸がいっぱいになる……


「お前……なんか、すごいな」

 ぽつり、と灰野先生が呟く。なんだかすごいしおらしい……?

「いえ、相応しくなるためにまだまだ精進している最中ですわ」

「おう。まぁ……がんばれな」

 そのまま灰野先生は湯舟から上がる。


「お先」

「あっ、はい。また」


 灰野先生には鹿倉さんが眩しすぎるのかなぁ……



 ――



 ホカホカのタオルを頭に撒いて、顔にはパックされて、座り心地の良い椅子に座って、とっても良い香りのアロマが炊かれていて……気を抜いたらはしたない声をあげそうになる、極楽スパ体験。最高過ぎる。あぁ……!


「ノンノン様、灰野先生について伺ってもよろしいかしら?」

「えっ、はい! 灰野先生、なんでしょう?」

「ノンノン様とはどのような関係ですの?」

「担任の先生……ですね」

「土田先生とお知り合いだそうですけども、どんな方です?」

「音楽の先生で……あ、でも、私、灰野先生が演奏している所、見た事ないんですよ」

「……音楽の先生ですのに?」

「すごい上手らしいんですけども、いつも理由を付けて、授業をまともにしてくれなくて……」

「信じられませんわね……」

「でも、その……実はみんなの事をよく見てくれていて、私、灰野先生にお世話になりっぱなしで……」


 口は悪いけども、応援してくれたり見守ってくれたりしてる感覚があって、安心するんだよね。


「人は見かけによらないと言うのかしらね……」

「灰野先生、半分以上は見かけ通りなんですけどね」

「ふふ。ですけれども、ノンノン様のお知り合いは変わった人が多いですわね」

「あっ、そうですね……はい。えへへ」

「私から見れば、まるでお話の中から出てきたような人ばかりですわ」

「そうですか……?」

「ええ」

 私としては、鹿倉さんたちの方がお話の中の人たちに感じるんだけどなぁ。


「あっ、そういえば、Y学園って中学から、ですか?」

「ええ、そうですけれど?」

「その、私、中学の進路で、Y学園、あったなぁって思いだして……」

「そうなんですの?」

「色々でダメだったんですけども、もし、行ってたら、どうなったんだろうなって……」

「もしかしたら、級友でしたかもしれませんのね」

「はい。あっ、でも、声をかけられなかったかも……なので、そう。面倒かけてばかりですけど、こうして、今、鹿倉さんと時間を過ごせるの、結果的によかったのかなぁ……なんて」


 喋っている間に思考がゴチャゴチャに……私なんかが友達になれる訳無いっていう自信の無さと、でも、鹿倉さんに感謝してる気持ちをがんばって言葉にしたい。


「……どう、なのでしょうね」

「あっ、でも、ずっと本当に、感謝してて、ありがとうございますって……」

「いえ、構いませんの。不慣れな中、ノンノン様はひたむきに努力していますし……」

「もちろん鹿倉さんもですけど、お世話になってる人たちのために、私もがんばりたいですから……!」


 スパの極楽気分のおかげで、通じているかはわからないけども、気持ちを言葉にしようってできてる気がする……!


「ノンノン様のその誠実さがあれば、きっと級友になれましたわ」

「そ、そうですか? す、すごく嬉しいです」

「ふふ、そう仰ってくださると、私も嬉しいですわ」


 友達になれたらいいなぁ。

 そうは思うけども、鹿倉さんにたくさん施してもらってばかりで、こんな状態の私ではやっぱり友達とは言えない気がして言い出せない。

 だから、鹿倉さんとの良い思い出になるように、大切に過ごしたいなぁ。


 本当に極楽です。ありがとう。

※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです

※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。

 綺麗な本を作るので楽しみにしてください。

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