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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
夢のような世界に迷い込んでしまったんだけども、私はモブ役じゃないんでしょうか?
141/155

141・心の橋渡しの呪文

「まぁ……そうなのですね」

 昼食を一通り食べ終えて、私たちはゆっくりと時間を過ごしている。


「れ、恋愛の事と言いますか……そういうのって、わからないものですね……」

「多くの方々は当然、許嫁がいらっしゃるものだと私も考えていました」

 会場にある舞台で、フルートとハープのアンサンブルが演奏されているのを聞きながら、鹿倉さんの世界をちょっとだけ聞いている。


「……例えば、やっぱり……あの、今、演奏されてる人たちも、許嫁っていらっしゃるんでしょうか……」

「私は当然そうだろうと気にも留める事すらありませんでしたけど……」


 綺麗な音色に清楚な雰囲気のふたり。

 たぶん、あの人たちも私には手が届かない、雲の上の人なんだろうなぁ……


「ああ、でも、昨日も申し上げましたけども、恋をしなかった訳ではありませんのよ」

「そ、そういえば……そう言っていましたね……」

「……はぁ、この音色。なんだか乙女心にとても染み入るようで素敵ですわね」

「きっと、素敵な恋愛、しているのかもしれませんね……」


 音大の学生さんのアンサンブル、本当に素敵だなぁ……

 静かにアンサンブルが終わり、拍手に包まれる。


「聞いてくださりありがとうございました!」

 フルートのお姉さんが元気よく挨拶をして、ハープのお姉さんは静かに一礼する。綺麗だなぁ。


「さて、交流合宿の方は皆さん、楽しんでいますかー?

 まだ2日目かもしれませんが、もう2日目です!

 明日の晩にはたくさんの催しもあるので、それに向けて準備している人もいると思います!」


 鹿倉さんたちの舞台も明日だったよね。


「その中でも特に、『舞踏会』あるいは『ダンスパーティ』は盛大ですよ!

 お相手がいる人は誘い合わせのうえで、

 お相手が見つかっていない人は今日の夕方に開催されるダンスレクチャーに来て、お相手を見つけてみてください!」


 わ、わぁ……そんなのあるんだ……わぁ……


「僭越ながら、お相手がいらっしゃらない場合は私ども交流合宿のスタッフでもご対応致します。

 皆様と素敵な夜を過ごせることを楽しみにしていますね」

「あ、そうそう! 相手は女の子でも大丈夫ですからね! 男の子はやっぱり少ないし!」

「ですけれど、気になる方へ声をかける機会にもなりますので、勇気を持って声をかけてみてくださいませ」

「それじゃあ、午後も楽しもうね! 失礼しましたー!」


 お姉さんたちが壇上から降りていく。

 きっとお姉さんたちみたいな人が舞踏会の主役なんだろうなぁ。


「その……鹿倉さんは、舞踏会って行きますか……?」

「ええ、そのつもりですわ」

「じゃあ、やっぱりお相手はいるんですね……」

「そうですわね。ノンノン様は……」

「えっ!? いないですよ!? いないです……!」


 いないわけではないけども、声をかけられるはずがなくって……むしろ、ヒロシさんとマイナくんがバッティングしないように気を付けたいし……


「……ともあれ、夕方のダンスレクチャーには顔を出してみてはいかがですの?」

「えっ……あ、はい」

「私は申し訳ありませんけど、舞台のリハーサルがありますのでご一緒はできませんが」


 鹿倉さんはそっか……確かに昨日も練習してたし、明日が本番なら時間が無いもんね……

 ふと、見れば鹿倉さんは私をジッと見ていた。

 怪訝そうではあるけども、これはたぶん、鹿倉さんなりの心配してる顔なんだなぁって思ってきてて……


「私、一人で、がんばって行ってみます……よ……!」

 いつまでもおんぶにだっこじゃ良くないから……!

 

「……承知致しましたわ」

「は、はい」

「さ、ロックの講義に参りましょうか。近藤先生、起きてくださいまし」

「……ふああ、お昼寝終わりかぁ…?」

「子どもではありませんのですから、シャキっとしてくださいまし!」

「待ってくれよー……ふああー……」


 午後もがんばろう!



 ――



「アレだ、歌詞書いてみたらどうよ」

 か、歌詞ぃ!?!?

「歌詞ですの? ですけど、どのような……?」

「思った事書くだけだぜ。それがロックだし!」

「か、書いた事無いから、わかりませんよ……」

「他の楽曲を参考にしてもよろしいかしら」

「おっ、そうだな!」


 ヒロシさんはスマホをポチポチし始める。


「ノンノンと鹿倉を見てて思ったんだけど、女ボーカルの色々聞いてみてほしくてさー」

「近藤先生を見ておりますと、どのような楽曲があるのか想像付きませんわね」

「ど、どうなんでしょうね……」

「まぁまぁまずは聞けってー」


 ヒロシさんがポチっとやると、静かにイントロが流れる。

 ――眩しいくらいに力強い歌声が、それに乗っかる。


 ……すごい、ドキドキする。輝いてるようなのに、だけども、歌ってる事はすごくありのままで、それが、眩しい。

 私なんかで比べる事すらおこがましい気がするのに、それでも、私も思う事を、こんなに力強く歌えるなんて。


 ……すごい。


「これすっげーいいでしょー。次はこれー」

 待ってー! 鬼リピしたいのにー!!

 なんて声は届かずに次の曲。


 ――今度は歌声から入る。それは綺麗過ぎる声で、耳からそのまま胸に届くような感覚で。

 感情っていうのかな、小さな悩み、それにすごいフォーカスして、でも、それはすごく共感できて、言葉にできない心の声を歌ってもらえているよう。


 心にたくさんの余韻を残しながら終わって……


 間髪入れずに次の曲。


 ――今度は早いテンポで、なんだかとっても楽しい感じ。アゲアゲっていうのかも。

 カワイイ。カワイイ声! 声カワイイ!!

 女の子! 女の子の歌なんだけどもさ、私もそうなの! 弾けるような、夢を見ているような、その感覚大好き!

 憧れちゃう。私も夢見るその感覚。男の子にはわかってもらえないかもしれないけど、そうなんだよ!


 ヒロシさん、色んな曲を知ってるんだなぁ……


「ここらへんは鉄板的な感じなんだけどもさ、俺、こういうのも好きなんだよねー」


 今までは鉄板かぁ……

 その次に流れた曲は――あっ!? これ知ってる!?

 アニメの曲だぁ!?


 というかそうだよ! 女の子のバンドものとか流行ってるし、そこらへんでも色々あるよねぇ!?

 今まできちんと聞いた事は無いんだけども……あっ、こういうのでいいんだ!?


 ……以前なら何も感じなかったような歌詞だった気がするのに、今の私にはなんかすごい刺さる……


「独り占めしたーい! って所とか可愛すぎ! ってなるんだけどもどう思うよー」

「ま、まぁ、その、とても愛らしいというのは、私も思いますわ」

 鹿倉さんもそう!? 私もそうなの! ウンウンウンウンウンウン!! 頷いちゃう!!


「他にも色々あるからよー、聴いても良いし、聴きながらでも歌詞になりそうなの書いてみ!」

「む、難しいですわね……」

「思ってる事書くだけでいいんだぜー」

「わ、私は、恥ずかしいなって……」

「それもロックだぜ!」



 ――



 夢の世界に来たみたい

 あなたを 顔を きみを 王子様を 見て良いかも悩む だけど見たい?

 ドキドキ? 切ない? 嬉しい? 甘い フワフワ

 迷う 申し訳ない どう思う 知りたい 聞きたい 聞きたくない


 歌詞なんて、もちろん思い浮かばない……

 だけども、ふわっと浮かんだ言葉を紙にしたためている。


 ……書き出せば書き出すほど、なんだか悲しくなってくるなぁ……切ないのかなぁ?


 違う世界 幸せになってほしい 私は見ているだけで幸せ

 応援したい それだけで良い 好きは好き だと思う

 恋じゃない 恋だとしても求めてない 推し

 言い聞かせてる 泣いちゃう時があるのは なんでだろう

 ごめんなさい 迷惑かけたくないけど 傍にできるだけ居たい


「ノンノン様……?」

「……ハッ。鹿倉さん、どうしましたか……?」

「いえ、捗ってらっしゃるようですから、私もどうすれば筆が進むか知りたくて……」

「えっ……いえ、その……」


 鹿倉さんの方を見る。中身は見ないけども、確かに紙に書いてる量が少ないのは確かみたい。


「自由に……思い浮かんだことを……」

「……そうですわよね」

 鹿倉さんはそう言って、もう一度紙と向き合う。……だけども、難しい顔をしたままで動かない。


「……その、あの……」

「はい?」

「私も、全然、人に見せられるもの、じゃ……ないですけども……その、見て、もらっていいですか……?」

「えっ……大丈夫ですの?」

「こ、こんなのでも良いんだって、知ると勇気出る事、ありますから……」

「……そう仰るなら、拝見させて頂きますわね」


 鹿倉さんならもっと良い歌詞を絶対に書けると思うし、私のひっどいのを見たら安心できると思うんだ……

 笑われるかもしれないけど、でも、鹿倉さんに笑ってもらえるならいいかなぁ……


「ど、どうですか……」

 鹿倉さんを直視できないけども、両手で顔を抑えながら恐る恐る聞いてみる。


「――す、すみません。少し、お待ちになって……」

「全然、ダメダメですよね――」

「な、なんてことを仰ってますの!!」


 鹿倉さんが声を――想像できない程に荒げて、そう言った。


「……失礼いたしました。ですけども私にとって、ノンノン様の選んだ言葉は……珠玉のようなものですから……」

「えっ……いえ、でも、歌詞とかじゃ――」

「それは承知していますわ。今はまだ、歌詞ではありません。ですけれども、私は、素敵だと思いましたわ」

「あ……ありがとうございます」


 鹿倉さんの反応が想定外過ぎてビックリしている。だけど、鹿倉さんを見れば、目から涙が零れていた。

 鹿倉さんはハンカチで涙を拭う。


「あの……その……――」


 大丈夫? そう聞いたとしたら、鹿倉さんは大丈夫って返してしまう気がする。

 私は今、鹿倉さんの事を聞きたいって思っている。

 だから、どんな言葉をかければいいんだろう。


 涙を言葉に変えればいい? 違う。

 隠れてる気持ちがあるんじゃないか? 違う

 どうして泣いたか教えてほしい? 違う


 私、私には、思い浮かばない……

 鹿倉さんを一生懸命眺めて考えるけど、わからない……


 ――マイナくんなら、どうするのかな……


 マイナくんなら、涙を流した鹿倉さんを見て……それから――


「――どこが……好きでしたか?」

 ――横に並んで、見ていたものを一緒に見てくれるんだ。


「……ええ、そうですわね……」


 鹿倉さんの感じた世界、教えてください。

※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです

※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。

 綺麗な本を作るので楽しみにしてください。

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