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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
夢のような世界に迷い込んでしまったんだけども、私はモブ役じゃないんでしょうか?
134/155

134・ご令嬢と自由人と私

「ねえねえ、あなた。プリンス様と一緒にいたよね?」

「プリンス様は何受けるか知ってる?」

「どういう仲なの?」

「あっ、あっ、え、えと」


 カナちゃんと少し別れて興味があるブースへと行こうとした時、同い年くらいの人たちに囲まれる。

 ミヤネくん目当てなのはわかるんだけども、な、なんて答えれば良いんだろう。


「やっぱりあなたもピアノだよね?」

「プリンス様に腕を見込まれてるの?」

「とりあえずブース行こうっか!」

「あっ、いえ、あっ、は、はい」


 そう、一応だけど興味があるのはピアノ。もちろん全然弾けない。

 ただ、パンフレットの中にピアノの初心者向けのものが見当たらなくて、とりあえず来ただけなんだ……


「今回って楽しむのが一応の目的なんだっけ」

「楽しめたら良いんだけどねー。副科対策行く?」

「私は一応オケ申し込んだけどさ、そしたら時間無くない?」


 音楽に関連するブースは割と簡素だけど、人が多い。

 音楽を勉強してる人向けの交流合宿だし、やっぱりこっちがメインなんだろうなぁ。


「あ、あのっ……」

「ん、なあに?」

「わ、私、その……ピアノ……」

「うんうん、どれにするの?」

「は、初めてとか……って……」


 勇気を出して言ってみると、彼女たちはポカンとする。


「もしかして入門コースの事?」

「あっ、は、はい」

「副科対策じゃなく?」

「そ、そうですね……」

「それならたぶんこれ……だよね……?」


 そう言って見せてもらったのは『ピアノ連弾入門コース』

 初めての人も◎って書いてある!


「……あっ、でも、えと……二人で申し込み……?」

「プリンス様とするの……?」

「ち、ちがいます」


 彼女たちの視線がちょっとだけ険しくなった気がする。

 連弾ってよくわからないけども、これじゃミヤネくんを誘おうとしてるように見えちゃうよね……

 誤解を解きたい。だけどもなんて喋れば良いの!?


「横からで申し訳ないのですけども、あなた、少しよろしくて?」

「ひゃ、ひゃい……?」


 綺麗で透き通る声で突然、話しかけられる。


(わたくし)鹿倉(シカクラ)と申しますわ」

「し、しかくらさん……」

「私もそちらの連弾入門を希望しておりましたのだけど、残念な事にお相手の都合が付かなくなりましたの」

「は、はぁ……」

「あなたは宮音(ミヤネ)さまのご友人でもあるようですし、私といかがかしら?」

 突然の申し出に、私はパニック寸前。


 まじまじと鹿倉さんを眺めてしまう。

 鹿倉さんの上品な喋り方はもちろん、頭からつま先まで、どこからどう見ても上流階級の人だ……!?


「何かご不満がありまして?」

「い、いえっ」

「恥ずかしながら、私の腕は未熟なのは確かですわ。ピアノも取り組み始めたのはごく最近ですし」

「そ、そうなんですね……!?」

「まぁ、あなたのお眼鏡に叶わないというなら仕方ありませんし」

「い、いえっ! わ、私で、よ、よければ、お、おねがいします……」


 まさか同じ初心者さんと出会えるなんて、それこそ奇跡……!

 声をかけてもらったのもそうだし、ここで断るなんてできないよー!


「では、申し込みましょうか」

「は、はい……!」


 私は慌てながら、失礼のないように申し込みフォームにササッと入力する。


「よ、よろしくおねがいしますね……」

「ええ、宮音さまの友人のお手並み。楽しみにしておりますわね?」


 それでは、と鹿倉さんはこの場を離れる。


「……さすが、プリンス様の友人ね」

「……えっ、ど、どういう」

「鹿倉さん、厳しい事で有名だから」

「……えっ」


 私、もしかして大変な事をしちゃった……?



 ――



 連弾とは、1台のピアノをふたりで弾くこと。


 調べた瞬間に私は息が止まりそうだった。

 これ、絶対に簡単じゃないよね……?

 どうしよう、誰かに相談しなきゃ。いや、普通に勘違いしていましたって謝るべき……?


「あっ、見てみて。プリンス様がピアノ弾くみたい」

「あーん! 聞きに行かなきゃ!」


 今は昼食の時間。ビュッフェスタイルっていうので自由に食事ができるんだけど、そんな中でミヤネくんはピアノを弾くのかぁ……

 間違えましたってミヤネくんに伝えるのって、迷惑かもしれない……


 カナちゃん、あるいはマイナくんに相談したほうがいいのかなぁ。

 見渡すとカナちゃんは見つけられた。でも、同じくらいの歳の子と楽しそうに話してる。今はやめておこう……


 この際だし、灰野先生でも土田先生でも誰でもいい。

 知ってる人、いないかなぁ……

 もう一度見渡す。そうすると目が合う人がいた。


 えっ……なんであの人が……?

 お互い、一瞬硬直していたけども、おいでおいでされてその人の所へ向かう。


「よー。こんな所で奇遇だなぁ。ちょっと手伝ってくれよ」

「あ、あの。こ、近藤さんのお父さん、で、ですよね……?」

「おう。タッパーに詰めて持ち帰りたくってさー」

「な、なんて事してるんですか」


 誰でもいいって、誰でもいいって願ったけどさ!!

 クラスは違うけど近藤さんは友達で、目の前の人はその近藤さんのお父さん。

 少しだらしない印象があったけど、近藤さんのフォローが無いとこんな事する人なの!?


「ユミにも良い飯食わせたいし、料理もめちゃくちゃ余ってるしさー」

「だ、だからって、いけません! み、皆の迷惑、ですよ!」


 ミヤネくんの優雅なピアノが響く中、離れた場所で全く優雅じゃない私。

 あっ、詳しくないけどもこの曲知ってる。


 〜♪

 チャーンチャチャーンチャチャーンチャッ

 チャラララッチャ


 花のワルツ……だっけ?

 パニックになればなるほど、私の頭の片隅はどこか冷静になってしまう。


「あなたがた、何をされているの?」


 ツンとしてるけど、綺麗な声……それはもちろん鹿倉さんの声で……


「ん、ああ。料理余っているみたいだし、持ち帰りたくてよー」

「お部屋で召し上がりたいという事でしたら、スタッフに言いつければよくなくて?」

「マジか! それでいいのか!」

「あなたが関係者でしたら、ですけどもね」

「おう、関係者関係者。ほれ、首からカード提げて……アレ?」


 近藤さんのお父さん、正式にこの合宿の関係者なの……!?

 でもカードなんて見当たらない。もしかして、失くした……?

 このままじゃマズイかも……!


「い、一緒に、さ、探しましょうか?」

「いやいや待て待て、絶対あるはずだって。あっれー?」

「こ、ここの前はどこに? い、行きましょう」

「たぶんあっちかなー?」


 近藤さんのお父さんはテクテクと歩きはじめて、私は無我夢中でついていく。


「いえ、ちょっとお待ちなさい――」

「すぐ見つけてくるから待ってなー!」


 鹿倉さんの制止をスルーする……ご、ごめんなさいいいいい


 ……


「ケツのポケットだったとはなー」

「み、見つかってよかった……ですけど……」


 カードには『講師 近藤 (ヒロシ)』って書いてある。

 えっ、講師……?


「とりあえず、スタッフに弁当頼むかー」

「あ、あの、毎日帰る、予定、ですか……?」

「いや? 泊まりの予定だぜ」

「そ、それだと、ダメになっちゃうので、ダメ、です……」

「そうなのか?」

「は、はい」


 そっかー、と近藤さんのお父さん――長いからカードに書いてあったヒロシさんとこれからは呼ぶ――はあっけらかんと言う。

 近藤さん今すぐ来てー!って言いたいけども、マイナくんがお金持ちなのは知られるのはよくない!

 だって、通っているD高校は柄の悪い人が多いから、トラブルを避けるために秘密にしていて……


 ――あ、それだとヒロシさんにマイナくんの事が知られるのもダメだ!?

 いけない。絶対に、この人はポロッと教えちゃう気がするよ。

 隠さなきゃ。


「あ、あの。わ、私。そ、その。えと」

「ん、どうした?」

「講師……あっ、何をされるんですか……講座」

「おー、なんかロック入門について? 勉強させてやってくれってよ」

「す、すみません。わ、私、それ、したいです。すみません」

「んお。マジか。だーれも来なくてヨッシャーって思ってたのにな」

「つきっきりで、つきっきりでお願い、します」

「けどよ、お前ひとりじゃなぁ」

「だ、駄目ですか……?」

「うーん、どうすっかなぁ」

「お、おねがいします……どうか……」


 なんでだか涙目になっている私。

 言語化できないけども、マイナくんを守れなくて、もう会えなくなったらみたいな。そんな事が頭をよぎって思考回路はショート寸前……


「これは、どうされましたの?」

 鹿倉さんの凛とした声が響く。


 お、追いかけてきてしまわれたんですか……?

 あ、あ、ど、どうしよう。

 わからないけども、すごい怒られそう。


「あー、いやさー。俺の講座受けたいって話しててさー」

「それは本当ですの?」

 鹿倉さんは険しい目で、私を見る……あるいは見つめる。

 私はなんとかウンと頷く。


「あ、そうだ。お前もよかったらどうよ」

「あなたさまのような殿方からのお誘い、普通は受けませんことよ」

「マジか。そうだよなぁ」

「ですが、悪そうな虫をほったらかしにする性分でもありませんの」


 私は思わずビクッとしちゃう。

 や、やっぱりミヤネくんと友人っていう立場が……疎まれてるのかも……


「時間はいつからですの?」

「おう、えっとなー。あれ、いつだっけ? 見てくるわ」

「……本当にだらしのない方ですわね。確認と調整はこちらで済ませておきますわ」

「おー、センキュー」

 そんな事を言いながら、ヒロシさんはポッケをまさぐったりしながら行ってしまう……


「本当に何を考えているのか、まったくわかりませんわ」

「あ……その、す、すみません……」

「お知り合いであられるのよね」

「は、はい……」

「どんなお知り合いですの?」


 綺麗な声だから、問いかけはまるで鋭く刺さってくるよう。

 口が上手く回らず、しどろもどろになっちゃう……


「言えないのでしたら、それで構いませんわ」


 鹿倉さんはそんな私の様子を見て、たぶん呆れたんだと思う。


「私自身で見定めますわ。悪い虫かどうか」


 踵を返して去っていく鹿倉さん。

 私は、たぶん完全にマークされたんだろうなって思った。

■取り上げた楽曲の動画

●花のワルツ ピアノソロVer

https://www.youtube.com/watch?v=h8vqTFegIsY


題名は知らなくても一度は聞いた事がある曲として有名だと思います。

チャーンチャチャーンの所は1:43辺りです。

よかったら聞いてみてください。


※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです

※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。

 綺麗な本を作るので楽しみにしてください。

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