131・夢の世界への招待状
夢がいつか醒めるものなら、目覚めた時に見えるものってなんだろう。
夢の中で夢を見て、目覚めたと思ったのにやっぱり夢で、何度も何度も目を覚ます夢って見たことある?
現実だと思っている今が、本当は夢なんじゃないかって不安になったり、逆に夢だったらいいのにって思うこともある。
その点で言うと、今の俺って居るべき現実とは違う学校に通ってて、夢のような生活を送っているのかもって思う。良いことも悪いこともたくさんあるけど、誰かと一緒に乗り越えて少しずつ”夢”を叶えて、新しい”夢”ができて……
今のこの”夢”が終わったら、次は現実に戻るのかな。でも、その現実って本当に現実なのかな。
「お兄ちゃん?」
「……んっ? なに? カナ?」
「ボーっとしてどうしたの?」
「えっ……なんか考えてた気がする」
「なに考えてたの?」
「……なんだっけ??」
「それ、ボーッとしてたっていうんだよ」
「いやさ、なんだか本当に夢心地っていうのかさ。すごく楽しかったからさ……!」
「写真見るだけでもすごい楽しそうだったしね! でも、そろそろ上井先生が来るからシャキっとしないとだよ!」
「はぁー、深呼吸しようっと……」
フワフワフワフワとした気持ちは終わらない。けど、切り替えていかなくっちゃ!
――
「はい、1セット目お疲れ様です。これを残り2セット繰り返しますよ」
「ハ……ハヒ……」
上井先生は家庭教師で、音楽に関する全部を教えてもらっている。その一環で筋トレも一緒にする事があるんだけど……
「きょ、きょう、き、きびしすぎませんか……?」
「ふふ、楽しい旅行の後はどうしても弛みがちですからね。夢心地のテルくんを醒ますためにも、負荷を大きくしていますよ」
「そ、そうなんですね。お、おみとおし、されて、ますね……」
「バンドの皆さんとの旅行はいかがでしたか?」
「す、すごく! 楽しかった! です!」
「ふふ、詳しく聞かせて頂けますか? ああ、もちろんトレーニングをしながらでお願いします」
「ヒ、ヒィ……!!」
上井先生、スパルタ過ぎる! スパルタ過ぎる!! スパルタ!!
でも、上井先生にも何があったか聞いてもらいたいよーー!!
……
「お疲れ様です。テルくん、大丈夫ですか?」
「だ、だめです……」
「では、少し休憩したらストレッチを始めましょうね」
「ハヒ……」
同じ運動を上井先生もしてるはずなのに、すごい涼しい顔をしている上井先生、本当に上井先生。
普段はスーツ姿がビシッと決まっているカッコいい先生で、運動をする時のジャージはジャージですごくスマートで、普段から憧れの大人の理想像って感じ。でも、優しい笑顔でスパルタ指導だからすっごく怖い。でも、そんな上井先生には小さい頃から面倒を見てもらってて、俺は大好き。
「ところでテルくん。平賀氏の事は覚えていますよね?」
「…………?」
「彼から招待が来ていまして、カナさんも含めて3人で受けられたらと思っているのですが――」
平賀さんって誰なのか全然わかんないのに、当然のように上井先生は話を進める。わかってないのわかってるはずなのに上井先生が意地悪する!
「先日のご迷惑をかけた件、その後の寛大な対応に対して礼を尽くすためにも、応えて差し上げるのが道理と私は思います」
迷惑をかけた人……寛大な対応……最近は色んなところに迷惑をかけている自覚がすごいけど、それでも特に思い当たる人が浮かんだ。
「テルくんは、どう思いますか?」
ウン、と俺は頷いた。
――
「へー、交流合宿?」
「はい。音楽家を目指す子どもたちを対象として、音楽はもちろん、それ以外の情緒を育むために企画されている催しですよ」
「わぁ、楽しそうだね! お兄ちゃん行ってくるの?」
カナがお茶を淹れてくれながら楽しそうに話す。
「今回はカナさんもご一緒にと思っていますが、いかがでしょうか?」
「えっ! 私も?」
「えぇ。交流が目的なので音楽だけでなく、他にも興味がある事を皆で体験するプログラムがあるのですよ」
「へー。じゃあ私ならピアノしたり、お料理したり?」
「その通りです。興味がある事は何でも挑戦してみて大丈夫ですよ」
「それなら行ってみようかな……?」
カナは目を輝かせていて、ワクワクしているのがすごい伝わってくる。
「お兄ちゃんは何する!? どんな事ができるのかなー!」
「えー、俺は何しようかな? 練習以外だったらアンサンブルしたり、楽器の勉強したり……」
「音楽以外で!」
「あ、そうだった。えっと、じゃあ……」
「……絵を描くとかは?」
「描くより先に音で奏でたくなるかなぁ……?」
「じゃあ、ダンスとか演劇とかは?」
「それならまだできそうかなぁ……?」
「ふふ、久しぶりにカナさん、テルくんの面倒を存分に見れますね?」
「お兄ちゃんの事は私に任せてね!」
「なんでそうなるのー!? 大丈夫だって!!」
上井先生はニコニコと笑っている。俺ってそんなに頼りないのかなぁー??
――
「そういうわけで、今度、交流合宿に行ってくる予定なんだよね」
「へぇ……そ、そうなんだ……」
夜、通話で同じクラスの波多野さんから勉強を教わっている時、交流合宿の事について話してみたのだけども、なんだか波多野さんの様子が変だ?
「その……日取り……っていつ……かな……?」
「えっとね、週末で3泊4日なんだけども……」
「そ、そ、そうなんだ……」
波多野さんの声が上ずる。
「波多野さんどうしたの……? 具合悪かったりする……?」
波多野さんは首を振る。
〜〜
わ、私はなんて答えれば良いんだろう……?
交流合宿、日取り、関係者、それらを総合的に考えるとね……マイナくんたちが行く交流合宿に私も行くことになっていると思うんだ。
いや、でも本当に同じところに行くの??
もしかしたら違うかもしれないし、偶然の偶然で似てるだけっていう可能性もあるし、そうしたらぬか喜びかもしれない。
ついでに言うと、私も行くって伝えたらマイナくんはどんな反応をするか考えて、それを見て私はどうなっちゃう??
正直、私は一緒に行けたらそれはそれはそれはそれは嬉しすぎて嬉しすぎて言葉にできない感情が溢れすぎてもう溺れそう溺れてるダメダメダメダメダメダメダメ……
落ちついて、落ちついて私!
深呼吸をして……先走る気持ちを諌めて、マイナくんのために伝えたほうが良い事と私が抑えられなくて伝えたい気持ちを分別して、話そう……
「そのね……私も誘われているかもしれないの」
「えっ!? そうなの!?」
「うん、土田先生に声をかけてもらっていて、ちょうど日程も同じなの」
「それならそうなのかもね! わぁー! そしたらカナもきっとすっごい喜ぶよ! 俺もなんだか嬉しいなぁ!」
アァぁぁぁぁ……マイナくんの反応が予想通りで、だけど最後にマイナくん自身も嬉しいって言ってくれるのが私も嬉しすぎるよぉ……
「ふふ、だけども音楽交流が軸で、マイナくんたちと私は関わり方が違うと思うよ。それでも、一緒に過ごせるかもしれないのはワクワクしちゃうね」
「そうだね! 良い思い出になるといいね!」
「まだ、そうと決まったわけじゃないから、それは落ちついてね」
「おう! わかった!!」
マイナくんが喜んでくれてるのが嬉しすぎる。嬉しすぎるけど、でも、本当に勘違いかもしれないから、自戒の意味も込めて落ちついてと念を押す……
ああ、勘違いじゃなかったらいいなぁ。でも勘違いだったら悲しいけども、マイナくんもすごく残念がってくれるんだろうなぁって思うと、それもそれでなんだか安心できる気がする。一緒に何かできるのはもちろんすごくめちゃくちゃに嬉しいけども、こんな私の気持ちに寄り添ってお互いに大事にしてくれるって信頼があるから、それで良いって気になれると思うんだ。……いや、でもやっぱり何日かは落ち込むと思う、そこはゴメンね。
――深呼吸して、現実に戻ろう。
「さ、そろそろ勉強の続きを始めようっか」
「はーい! よろしくおねがいします!」
ああ、だけどもやっぱり夢心地なんだよね。
一緒に過ごすこの時間は。
――
「このドレスはいかがかしら? 私の可愛いプリンセス」
「お母さん、それはただのワンピースだよ……」
「あらあら、私の魔法にかかれば何でも素敵なドレスに召し上げますの。ほうら、魔法を唱えましょう。ビビディ・バビディ・ブー」
「別のワンピースを持ってきただけでしょ……恥ずかしいって……」
どんな場所に行くのかわかって、私は周りから浮かないようにちゃんとした服を欲しいと思った。それで、お母さんとお父さんに改めて相談した所、ショッピングモールへと連れてきてもらって服を選ぶ事になった。……高校生なのに、両親と買い物って恥ずかしすぎるよね。学校の誰かに会ったらどうしよう。
そんな心配をよそに、お母さんはハイテンションで服を選んでいる。娘の事をちょっとだけでいいから、考えてほしいなぁ……
「それで、気に入ったものはあった?」
「え、えっと……わかんないよ……」
「じゃあ仕方ない、全部買っちゃおうかなぁ」
「そんなのもったいないでしょ。ちゃんと選ぼうよ」
「もったいないなんてとんでもない。だけど、あなたの意見も尊重しますわ。舞踏会に向かう最高の装いを探しましょう」
「舞踏会じゃなくて、私がするのはお手伝いだって……」
お母さんはしゃぎすぎ……頭の中ではたぶん『シンデレラ』が上演されているのかも。
……まぁ、そう思うとだけど、夢のような時間を過ごせるかもしれないのは私にもちょっとあるけどさ。
「そういえばね、これはお母さんの……妖精さんの思い出話しなんだけどね」
「言い換えなくていいよ……」
「物静かで恥ずかしがり屋の誰かさんと恋した妖精さんはね、その誰かさんに会いに行く度、この格好で喜んでくれるかでずーっと服を選んでいたのね」
「……お父さん?」
「誰かさんよ。それでね、毎度毎度褒めてくれるんだけど、だんだん、本当に褒めてくれるか不安になっちゃったの」
「何でも褒めるもんね……大したことがなくっても何でも……」
「そう。だから、がんばれなくなっちゃってね、妖精さんはおめかしするの、やめちゃったの」
「ふーん……それでもお父さん褒めてくれたんでしょ」
「そうね、半分正解」
お母さんはニッコリ笑って続ける。
「歩きやすい格好みたいだから、いつもと違う所に行こうよって誘ってもらえたの」
「……へ、へぇ……」
「あなたはどんなお洋服を着ていく?」
今回は波多野さん視点のお話となります。
諸事情により、投稿頻度が週2~3となりますが、のんびりと御覧頂けたら嬉しいです。
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※2026年1月18日(日)に京都文学フリマに出店します。
綺麗な本を作るので楽しみにしてください。




