129・原因の究明
後始末は色々大変になってしまったけど、無事にこうして居られるだけでなんか嬉しい。起きてすぐは色々な掃除をして、それから朝御飯。
「おつかれ。マジで心配したけどさ、無事でよかったよ」
「マイナスがお地蔵さんの呪いとか言い出して焦ったっすよー」
「鷹田も怯えてた記憶があるんだけど?」
「いや俺はご利益あるって信じてたし。罰当たりかよー」
「嘘だー!! 黒間先輩も見ていましたよね!?」
「ん……ああ」
「ほらっ! 黒間先輩も鷹田が怯えてるって言ってるよ!!」
「いや、ちげえから! 見てたってだけっすよね!?」
「わかんね」
「お前たちなぁ。いや、いいけど飯を食おうぜ」
朝のまかないは、なんだかいつも以上においしい気がする!
「しかし君たちはもちろん、怪我をする人が出なかったのは本当に奇跡だったよ」
「わりと即死級トラップってあるもんなんすねー」
「私が肥料は爆発すると知らなかったように、キミも食べ物の毒性を知らなかったしね」
「気をつけてても、もしかしたら命に関わることってあるみたいですしね」
「俺とかは気をつけてるつもりでもうっかりやりそうで怖いッスね……」
「ああ、だからマニュアルを遵守する事で”うっかり”があったとしても未然に防げるように工夫しているんだね」
「そうなんスかー!」
「鷹田くんは面倒くさいと思うだろうけども……」
「えー、俺もちゃんと守りますよー」
「責任の所在の在処を示すためにも、マニュアルって大事なんだよ」
「鷹田のそういう所の信用の無さ、おじさんもわかりますか!」
「ははは。しかし頼りになるのも確かだから、気を付けつつこれからもよろしく頼むよ」
「なんだかんだ、まぁちょっと今回の事で身にしみたっすよ」
「さ、お詫びと言ってはなんだがこれもお食べ。まだまだ今日は忙しいからね」
「わーい! ありがとうございます!」
今日も最高の一日の始まりだぁ!
――
「マイナスくん、昨日は大丈夫だった……?」
「心配かけてたらゴメンね、月野さん」
ゴミ拾い中、月野さんが声をかけて手伝ってくれている。
「詳しい話はわかってないんだけども、火事と爆発にマイナスくんが巻き込まれそうになったとか……」
「ビックリだけど、そうなんだよね」
「……ここって大丈夫なの?」
「あはは、大丈夫だよ。マニュアルとかバッチリだし、女将さんも板前のおじさんも優しい人だし」
「本当に……?」
「ほら、停電の時も女将さんテキパキしてたでしょ?」
「うーん……確かにそうだね」
「火事は俺達が古い扇風機を勝手に持ち出したせいで、爆発は難しいけど台風のせいなんだってさ」
周りから見れば確かに不安になる事故だよね。命が失われていたら知らなかったで済まないけど、今回はたまたま大事に至らなくてすごく運がよかったんだろうなぁ。
「でも、問題ってそもそも起きないようにしなくちゃいけないんじゃないかな」
「そうだったらいいんだけど、俺なんてわざとじゃないのに問題起こしがちでさ」
「……そうかも」
「だから、まだ短いけどお世話になってるこの旅館の人たちの手伝いや応援したいなぁって思ってるよ」
「……やっぱりマイナスくん、良い人だなぁ」
「できてるかは別の話だけどね! それに、月野さんにもここの事を好きになってもらいたいしね!」
「……そっか」
月野さんが旅館の方を振り返って、眺める。
「そういえば、吹奏楽部の方はどう?」
「ん……えっとね、なんて言えば良いのかな。少し揉める事があったんだけど……」
「うんうん、そこまでは灰野先生から聞いたよ」
「あ、うん。だから、なんていうか微妙な空気……かな?」
「そっかー」
「近藤さんがね、色々がんばってるんだけどもね……」
「うん」
「……いや、やっぱり何でもない」
「ん? どういう事?」
「すごいなぁって思っただけ」
「近藤さん本当にすごいもんね!」
「ね。優秀な上に優しくて、本当にすごいなぁ」
「俺にとってはみんなすごいけどね!」
「ふふ、マイナスくんもすごいよ」
「えへへ、ありがとう!」
それからもう少し一緒に掃除を続けた。
――
「せーのっ」
鷹田の掛け声に合わせて物を運ぶ。台風前に仕舞っておいたものを外に並べたりなんだり。よいしょ、よいしょ。
「ストーップ。降ろすぞ」
「オッケー!」
「せーのっと」
「バッチリー!」
「よーし、次行くべー」
「おう!」
こういう力作業にもだんだん慣れてきた気がしている。鷹田と最初にやったバイトは引っ越しだったけど、アレは大変だったなぁー。重い荷物を持って何度も階段を昇り降り。大きな物を運ぶ時はふたりで均等に持ち上げないと片方が大変になるし……息を合わせるのが大事なんだよね!
「そうだ、鷹田は夏休み中の予定ってやっぱり基本はバイト?」
「そりゃな。バンドの時間も取るから安心しとけ」
「バイト、時間が合えばだけど、声かけてね」
「口癖かよ」
「そうかも。それでも鷹田は騙すから本当に酷いよね」
「いつもの事だろ? ま、泣き始めた時はやり過ぎたかってちょっとばかしは思ったけどよ」
「次はどんな風に騙してくるか……備えなくちゃなぁ」
「どうせ素直に騙されるのが見え見えだっつの」
「巧妙なんだもん、鷹田は」
台風が過ぎた後の気持ちよすぎる快晴を見て、自分の中のそれでいいやって気持ちを再確認する。
「……一応だけどよ。なんで、あの時にマイナス、お前は泣いて、その後に俺に謝れってならなかったんだ?」
「えっ、あの時も言ったけど、いつもの嘘だったのに騙された自分が悪いって思ったからだよ?」
「ふーん」
神妙な面持ちというか、納得いっていない様子の鷹田。
「……鷹田、もしかしてなんだけどさ?」
「ん、なんだよ」
「鷹田は怒ってほしかった?」
「……ハァ? なんでそうなるんだよ」
「鷹田ってさ、すごく頭良いし先のことをよく考えてるし、それはもう頼りになるんだけどさ」
「けど、なんだよ?」
「要らないって思ったことを蔑ろにするっていうのかなぁ……?」
鷹田は俺が何を言っているかわからないって感じ。俺も何を言いたいのかわかってないけど。
「うーん、えっとね……あっ、わかった!」
「あの時ってさ、本当は鷹田が一番怒ってたんじゃないかなって」
「……ハァ??」
「そう、鷹田は鷹田に。例えば俺が、鷹田に悪い事をして怒らせたら、俺は、ちゃんと怒られたいし、謝りたい。
だけど、謝るチャンスが無かったら、苦しいっていうのか……申し訳ないっていう気持ちがずっとあるかも。
……どうかな?」
「……ハー、バカじゃねえの。俺はそんな繊細じゃねえよ」
「ダサいとか子どもみたいとか、鷹田は嫌いだもんね」
「わかってるじゃねえか」
「だけど、俺は鷹田のそういう所も含めて全部好きだなぁって思ってるからさ」
「鷹田は、鷹田自身のそういう所、捨てようとしてるのかもしれないけど……」
「だから、たまにお互いイライラするのかも。好き嫌いが逆だから」
「――鷹田は、どう思う?」
鷹田は顔を逸らす。そのまま数秒、沈黙。今日は風も吹かないから、揺れる木立のざわめきも無くて、ずっと静寂。
「……いやさ」
「うん」
「……どう答えてほしい訳?」
「それ、すごい鷹田らしい返事だね」
「ふざけてんのか?」
「どっちだと思う?」
「……ふざけてる時のマイナスはもっとウゼえからなー」
「えー! そうなの!?」
「調子に乗ってるマイナスほどムカつくもんは無いぜ!」
「ドヤ顔してる時の鷹田を見ると最近はカワイイなーって思い始めてきた」
「実際の保護者は俺なのになー」
「そうそう、引率の先生『プライド鷹田』だよね。鷹田先生が全部やるので手を出さないでくださーい」
「ウザすぎだろくっそウケる。てか鷹田先生の言う事を聞けっつってんだよバブバブ組のマイナスくんよー?」
「でも鷹田先生、俺がお手本見せないとお昼寝もおやつもできないよねー」
「よーちよち。高校生になっても心が3歳ですごいでちゅねー」
「鷹田先生も上手に赤ちゃん言葉使えてカワイイー!」
「マイナスくんはとってもウゼえから、おシバき回してあげまちゅねー」
「プライド鷹田先生にちゃんとできまちゅかー? バブバブの仕方、教えてあげまちゅよー?」
この後、ふたりで大爆笑でふざけあいながら仕事をした。そして様子をたまたま見た板前のおじさんにすごい心配された。恥ずかしさで死にそうになった。
〜〜
「そういえばなんだけどさ、黒間」
「……ん」
「鷹田とマイナスが抜け出す直前って見てたんだよな」
「……ああ」
「その……あー、怒ってるとかじゃなくて、単純に気になったから聞くだけなんだけどさ」
「アイツらが抜け出そうとしてたのは、わかってたか?」
「……たぶん」
「えと……じゃあ、アイツらを黒間は止めなかった?」
「……ああ」
「そっか……」
「行った方が、良いって、思ったから」
「……えっ?」
「わかんね。けど、そう、思った」
「あっ、そうなんだな?」
「悪かった。止めなくて、悪かった」
「いや、全然……まぁ、結果オーライって所はあるけどさ。でも、その……」
「黒間がそう思って、そうさせたってのが少し意外でさ……」
「そう……それもそうだし、それを教えてくれたのが……嬉しい」
「――ん? アイツら、大声で何やってんだ。ホント、バカでマジでウケるなぁ」
「まぁ、俺もバカだから、こうやって見てるだけで楽しいんだろうな」
「黒間は、どう思うよ?」
「……わかんね」
「……けど……」
「……わかんね」
「そっか」
次話でこの章も終わりですが、その時に少しお知らせがあります。
楽しみにしていてください。
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