126・優しい夜
「もしかしたら俺、感電して死んでたかもなんだってさ」
「えぇーー!? どういう事ですかーー!?」
明かりがとりあえずついて、俺達は旅館の手伝いをしている。その最中に森夜先輩が話す。
「雷が直撃したのが洗濯機置いてある建物でさ、俺、ちょうど洗濯機触ろうとしてた最中でさ……」
「ぶ、ぶ、無事だったんですか!?!?」
「まぁ生きてるからな」
「俺がマイナスにもらった御守り、服に入れっぱなしでよー。森夜先輩が何か入ってるのに気がついて取り出してたからセーフだったっぽいんすよね」
「そうなの!?!? 御守り買ってよかったよーー!!」
「森夜先輩がラッキーだったのは超よかったんすけど、持ち主の俺にあんまりご利益無い感じがなんか納得いかねえっすよ」
「ははは……まぁ、おかげさまで助かったな。わかんないけど、ありがとうな」
まだ万が一には備えておかないとだけど、なんとか落ち着きは取り戻せた。このまま何事もなく台風が過ぎてくれるといいんだけどなぁー。
「あー、これ、扇風機足りなさそうかー?」
「そうなの?」
「とりあえずある分だけは持っていくか」
節電のためにエアコンの使用に制限をかけていて、扇風機をそれぞれの部屋に持っていく所だ。でも、どうやら足りないみたい? お客さんの分はギリギリ用意できてるけども……
「おっ、めっちゃ古いけどあるじゃーん」
鷹田が物置の奥の方から埃を被った扇風機を見つける。
「うわぁ……時代感じるなぁこれ」
「このままスイッチ入れたらブワーって埃が大変な事になりますね!」
「やるなよー? 絶対にやるなよー?」
「やりたくなるけどやらないよ!」
それはそれとして、宇宙人ごっことかはやりたい。
「これ、俺たちが使わせてもらうっすかねー」
「いいのか……?」
「無いよりはマシっすから」
「俺もこれで大丈夫ですよ!」
――
「はぁー、せっかくの旅館っつうのに停電とかあり得ねえよなぁ? 普通に返金もんじゃね?」
「じゃあ灰野先生の呑んだお酒も返しませんとね」
「それとこれとは別だろ。返金!返金!」
「お生憎ですけど、先生はびた一文払っていないんですから、返ってくるお金はありませんからね?」
「やっぱり灰野先生、お金出してないんだ……」
近藤さんが、管を巻く灰野先生をなだめている……灰野先生って介護されるのが得意なんだろうなぁ。扇風機を届けつつ、遠い目をしながら見守る。
「うるせー、金がねえんだから仕方ねえだろー」
「お給料はどうしてるんですか。そんな事言うなら私、管理しちゃいますよ?」
「そんなのイヤに決まってんだろ。私の金は私の金だー」
「じゃあ、どんな風に使ってるか見せてくださいよ」
「生きてりゃ別にいいだろー」
「ダメです。吹奏楽部の一員として、奔放な先生を放っておいたら大変な事になります」
「あー! 正論ばっかり吐きやがって! マイナ、ちょっと蹴らせろよ!!」
「イヤです。馬園を蹴ってやってください」
「そうなると、先生のご友人にも声をかける必要がありますか……」
えっ、灰野先生の……友人……? 灰野先生の辞書に無さそうな言葉が出てきてビックリする。
「おいおい、アイツは別に友達じゃねえからな!」
「炎天下の中、お店の前で待って灰野先生を引き取ってくれた人がいてね。マイナスくんはどう思う?」
あっ……土田先生だ。熱量の差が酷いけども、確かに土田先生は灰野先生の事を友達くらいには思ってるのは違いない。というか、焼肉会してた時、お店の外にいたんだ……?
「たぶん、友達だと思う」
「灰野先生の攻略法を聞いてみるのってどう思う?」
「えー! すごい良いと思う!!」
「やめろー!! やめろー!!」
「ごめんなさい灰野先生。これも先生のためですから……でも、生活の相談を私にしてくれるなら必要ないかも」
「こ、このー!!」
「マイナスくん、この空いた瓶とかも片付けてもらっていいかな?」
「もちろんー! 近藤さん、灰野先生の事よろしくね!」
灰野先生が手球に取られてやり込められている様子を見ると俺はウッキウキ気分になる!
こんな言葉を思い浮かべることは無いと思ってたけども、まさにざまぁみろ! イェーイ!! って感じだ!!
――
緊急のお手伝いも一段落して、俺達がご飯を食べる時間になった。外はビュービュー大変そうだし、節電のためにちょっと暗いけども、板前のおじさんが作ってくれるご飯とそれ囲む皆の顔を見ると、ホッとした気持ちになれる。
「今日も一日おつかれさま」
「おっちゃんもお疲れさまっす。あんなに備えたのに、台風となるとトラブルあるんすねー」
「備えたから万全という事ではなく、トラブルが起きた時の為の備えだからね。だから、おかげさまで大きな混乱も無く収められたよ」
「少しの間、電波無し電気無しでしたけどもおじさんや女将さんがすごく頼りになって安心しましたよ」
「こういう時、マイナスの人間拡声器がめっちゃ役に立つのも発見っすねー」
「えへへ、役に立てて俺、すごい嬉しい」
「よく響いてよく届く、とても聞きやすい声だったね。歌う所を私も聞きたくなったよ」
「そうですか!? 嬉しいです!!」
「おいおい尻尾振りすぎ。嬉しいのわかるけど振りすぎ振りすぎ」
「えへへへへー」
ご飯が美味しくて美味しい!
「ご飯のお代わりもらってもいいですかー!」
「ああ、それが申し訳ない。あまり用意が無いんだ」
「そ、そうなんですか……」
「停電したから当たり前だろー?」
「口にするものだから、もったいないからとお出しするわけにはいかないからね」
「そうですよね……今日は我慢します……!」
「あ、それならなんすけども、後で厨房貸してもらえないっすか?」
「そうだね、君たちなら構わないかな」
「ありがとうございます!」
「使ったら綺麗に戻しておいてね」
鷹田がニヤニヤしている。何かご飯作ってくれるのかなー??
……
「いいかマイナス。お前はここから先は入ってくんなよ? 危ねえから」
「えー、せっかくだから手伝わせてよ」
「ならまずは、その椅子に座ってくれるか?」
「おう、わかった! それで、その次は!?」
「待ってろな、指示があるまで座っててくれな」
「おう!!」
料理の手伝いワックワク! 俺はすっごい料理が苦手で、ご飯やスープをよそったりするのも気を抜くと大変なことになるから、普段は包丁も火も使わせてもらえないんだよね!
鷹田は夕方に取ってきた野菜を並べて水ですすぐ。
「洗うの俺やろっか!?」
「ここ一番を手伝わせてやるから待ってろよなー」
「本当!? わかった!!」
鷹田はお鍋に火をかけてお湯を沸かし始める。ついでに野菜を包丁で葉っぱと茎に分けたり。
「そういえば、その緑色のってトマトだよね?」
「おう、そうだぜ」
「それって食べられるの?」
「そりゃ食えるに決まってんだろ。緑色のトマトって知らねえのかよ」
「そんなのあるんだー」
「これだからマイナスは知識無さ過ぎなんだよなぁ」
そのまま鷹田は緑色のトマトを口に入れる。
「――ん゛ん゛っ!?」
突然、鷹田が咳き込む。そのままトマトを飲み込んでから、水をガブガブ飲み始める。
「えっ!? どうしたの!? 大丈夫!?」
「いや、大丈夫だし。大丈夫だし!」
「ほ、本当に……?」
「ちょーっと苦みとかエグみっつうの? それが強かっただけで、自然の味が強すぎただけっつうの?」
「つまり、食べられないって事……?」
「好き嫌いの範疇だろ。まぁ、俺の口には合わねえからごめんなさいするけど」
「ほんとかなー?」
食べられるって言った手前、食べられない事を認めたくなさそう。鷹田ってホント鷹田だから。
「まぁ、こっちの方は何も問題無いだろ……」
「そっちは何作ってるの?」
「おひたし。普通に茹でるだけだけどよ、醤油かけて食うと旨いんだよな」
「へー! おひたし好き!」
「何でも大体うまいうまいって食ってるだろお前はよー」
「えへへ、そうかも」
先に茎の方を茹でて、少ししてから葉っぱの方も一緒に茹でる。グツグツ。少ししたらそれを水に通す。ジャー。
「なんかそれ、ヌルヌルしてるね!」
「モロヘイヤだからな。味付けはめんつゆで済ますかなー」
「早く食べたーい!」
「まぁまぁちょっと待てよな」
調味料をおひたしにかけて、少し混ぜてから鷹田が味見する。
「――っ!?」
鷹田が一瞬固まり、それから飲み込む。
「えっ、何!? また自然の味!?」
「ま、まぁそうだろうな。いや、別に普通に食えるし。めんつゆかけりゃ食えるし」
「本当に……?」
「少し待てって。食えるから!」
そのまま鷹田は調味料をおひたしにかけていく。かなり味が濃そう……
「これでヨシッ! ほれ、マイナスも食ってみろよ」
「ちょ、ちょっとだけね……」
恐る恐るひとつまみだけ、口に運ぶ。
――なんか、すごいマズイ!!
「うえ……これはちょっと食べられないかも……ごめんなさい」
「ハァー、好き嫌いしやがって! せっかく作ったのによー」
「鷹田はそれ食べるの!?」
「当たり前だろ。つかもったいねえし」
「それはそうだけど、元々はおじさんが捨てるつもりだったみたいだし……」
「作った分くらいは自分で食うわ」
「無理はしないでよね……?」
お腹が空いてたから多少は何でも食べられると思ってたけど、それでも食べられそうにない味だったから残念。
「……あれ、そういえば俺の手伝いって結局何だったの?」
「あん? そりゃそこに終わるまで大人しく座ってる事よ」
「ひ、ひどい……!!」
「まぁ後片付けくらいはさせてやるからよ」
「ホント!? ありがとう!」
「いやー、おひたしウメえなー。マジでウメー」
「……無理して食べなくて良いんだからね!?」
鷹田ってホント鷹田。
――
厨房を片付けて、今夜はもう大人しく寝るくらいしかやることが無くなる。
「この扇風機、ガチで古いなー」
「ね゛ー! ふ゛る゛い゛ー!」
「扇風機でエンジョイし過ぎだろ」
「だ゛って゛ーた゛ーの゛ーし゛ー!!」
「俺にも貸せよ。マ゛イ゛ナ゛ス゛バ゛カ゛す゛ぎ゛ー」
「タ゛カ゛ダ゛も゛エ゛ン゛ジ゛ョ゛イ゛ー! い゛い゛ね゛ー!」
「あ゛わ゛せ゛て゛や゛って゛ん゛だ゛よ゛ー」
「タ゛カ゛ダ゛も゛バ゛ーカ゛!」
「マ゛イ゛ナ゛ス゛は゛よ゛う゛ち゛え゛ん゛じ゛ー」
「タ゛カ゛ダ゛は゛よ゛う゛ち゛え゛ん゛の゛せ゛ん゛せ゛ー」
「き゛ゅう゛か゛け゛る゛き゛ゅう゛は゛ー?」
「は゛ち゛じ゛ゅう゛は゛ち゛ー!」
「や゛っぱ゛バ゛カ゛だ゛わ゛ー」
「ち゛が゛う゛の゛ー!?」
思わず、俺達ふたりともゲラゲラ笑い出す。くだらなさすぎて何してるんだろってツッコミもあるけど、でもなんでだか楽しすぎて仕方ない。扇風機ひとつでここまで楽しい気持ちになれるなんて、やっぱり俺達バカなんだろうなぁ。
「とりま、明日は大変だし寝ようぜ」
「は゛ーい゛!」
今日も色々あったけど、それでも楽しく一日を終えられた。
その時は、そう思っていた。
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